戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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すれ違う想い

偵察隊による視界投影で戦場を俯瞰する

目まぐるしく変わる戦況は

しかし、

着実にこちら側へと傾いてきている

 

全体の流れとしては圧倒的に有利だ

 

だが、その中には

傷つき、倒れる艦娘達の姿がある

 

「クソッ!霞!」

 

881帰りの艦娘はなんらかの改造を施されている

霞は全感覚の直結

 

全ての感覚が統合され、結合しているのだ

「きゃぁぁあっ!」

 

全ての感覚が痛みに染まれば

その激痛は通常の感覚の比ではない

 

倒れた霞は改状態が解除されて

水面に叩きつけられ

 

「グゥィギキッ!」

 

駆逐ロ級フラグが勝ち誇った叫び声をあげる

 

その瞬間、偵察隊とは別のタコヤキが飛来

精密極まる爆撃によって

ロ級のみに攻撃を加え、

 

一瞬にして轟沈せしめた

 

「………どういうことだ…なぜ、

なぜお前がそこに居る…!」

 

飛来した方向を辿った白タコヤキ

そこに立っていたのは

 

空母棲鬼

「私達が原因で始まった戦い…

源である私達が、黙って見て居るなんてできない!」

 

叫ぶ空母棲鬼とそれに呼応して次々に飛翔する無数の艦載機達

 

それは正確極まる攻撃を以って

混乱する前線に食い込んだ敵を退け

整然たる戦線を引き直す

 

同時に

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

タガの外れた狂気的な哄笑と共に

雷撃、爆撃、砲撃、爆撃、雷撃

一人で5度も、様々な手段を取捨選択して攻撃を繰り返す、尻尾付きの小柄な戦艦がいた

 

「どうせだし、全部やっちまおう♪

なぁテイトク!」

 

その姿はまさに死神

みな同じような黒衣のなかでも

異常なまでに殺意をみなぎらせたそのシルエットの主人は、戦艦レ級

 

 

そのフラグシップである

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「ハァァアッ!」

 

二人は凄まじい威力、速度

どちらを取っても一級であり

 

協力の気配は微塵もないが、単独での強力な戦略として振る舞う遊兵を用意するのも立派な戦略なのである…

 

しかし

俺がやっている事を無視して

身を捨てるような攻撃を繰り返すレ級へ、

解放回線で音声を送る

 

ザァザァ………

クソッ!こんな時に限って…!

通信機は使えない、かといって無理に艦載機を飛ばせば

そちらを維持する事が精一杯で

会話ができない、こんな時にはどうすれば良いのだろうか

 

そんな事を考えていると

ついに

 

軽巡棲姫が仲間(深海棲艦)の中から引きずり出された!

「よっし!」

 

思わず声がでる

 

その瞬間、

「また!テイトクー!?」

金剛がこちらを正確に向いて、笑う

 

 

「何故こんなにも離れた場所から認識した上で通信を取れるんだ、あいつは〜」

 

 

ため息をつき、大幅に数を減らした敵の集団の中を見る

 

戦艦棲姫はどこかへ行ったようだし、軽巡棲姫を引きずり出したとなると

もしかして、さらに奥の手となるモノがいるのか?

 

「先程から特に騒がしかったという辺りだが…まさか…」

 

暗い表情のまま、周囲の環境を見渡す

しかし

 

「はぁっ!」

紫の暴風が、そこにあった

 

「はぁぁぉっ、!」

 

その薙刀に、普段の効率性はなく

その一撃を以って無数の敵を退ける

鬼神の如きその振る舞いは

自らの身を焼く灯火のようで

 

美しく、そして悲しげだった

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

薙刀が軌跡を描くと同時に

深海棲艦の絶叫と断末魔が上がる

 

その返り血と声を浴びながら、

龍田は未だ、改二に至れていない

という焦燥に駆られていた

 

「まだ、足りない…まだ!」

砲撃を切断し、敵の身を切断する

その姿は、触れるものすべてを断つ

刃の竜巻の如く

 

「せぇぇえぃいいっ!」

 

龍田の手にする薙刀は

禍々しく血に染まり、刃を煌めかせていた

 

「………迎えに行きたい所だ…」

 

[あのままじゃ、帰れなくなっちゃうよ…龍田さん]

[えぇ、早く連れ帰らないと]

 

逆流のおかげか、オーバーフロー寸前まで資材エネルギーはある…だが、キャパシティが足りない

 

今の俺では川内に代わることはできても

改二を使えない

 

あの群れの中で一人で戦っている龍田の元へたどり着くためには出力が足りない

 

「…それでも、やらなきゃならない!」

 

俺は司令施設と応急修理要員を確保し

全力で走る

 

痺れは抜けた、アイヴィの緊急停止のせいで感覚は狂っていたが、問題なく動く

 

「行ける!」

ドックへたどり着き、出撃を宣言する

 

その寸前に

「どこへ行くんです?」

「里見君!?」

 

この創海鎮守府の医務官である

里見君が、白衣のままで背後に立っていたのだ

 

「この先は戦場です、

あなたのいるべき場所ではない

それに、ようやく閉じたばかりの傷を開くような真似は許しませんよ」

 

手をポケットに突っ込んだまま

俺を制止する里見君

 

「しかし、俺は行かねばならない

ここで行かねば俺は龍田を連れ戻せない」

 

俺は構わず横を抜けようとするが…

 

「そもそも、連れ戻す必要なんてどこにも無いじゃないですか」

 

「なんだと…!?」

その声を聞き流すことは出来なかった

 

「取り消せ」

「何をですか?」

「龍田を連れ戻す必要がないだと?ふざけるなよ!アレは駄目だ、あのままでは自分の炎に焼き尽くされて死ぬぞ!」

「だからですよ、

盛大に自爆させてやればいい

そうすれば広範囲を効率的に一掃できる」

 

そう、笑いながら説く彼は

しかしその仮面を被りきれていなかった

 

「自爆など誰がさせるか、

その前に…止める」

「今行けば提督自身の体が耐えられない!

僕は医務官なんです!僕には提督を見殺しにする選択なんて出来ない!

たとえ艦娘を見捨てても、僕は提督を救うために全力を尽くすと、艦娘たちと約束したんだ!」

 

「…………」

「だから!龍田を見捨てて、僕は提督を止める!オーバーフロー寸前の状態で出撃なんて無茶はさせない!」

 

「たとえこの身を捨てても、

艦娘達を轟沈させることは決して無い…俺はかつて、そう誓った」

 

二人の言葉は平行線を辿る

そして、その果てには

「…ならば、実力行使だ」「よろしい、制圧だ」

 

少女達の戦場の陰で

男達の戦いが幕を開けた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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