戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ワールブルー

「っ!まだ!」

「甘イト言ッテイル」

 

軽巡棲姫の砲撃はそこまでの火力はないものの、ボディブローのようにダメージを蓄積させてくる

 

「このままでは…」

 

「大和さん!」

遥か彼方からの声と同時に、私と同じタイプの砲を使った扶桑さんの狙撃

 

一射目、二射目を回避されると同時に

三射目が軽巡棲姫を捉え

緊急回避で避けられる

 

しかし、その位置は

 

()()()()

 

「はぁっ!」

 

刀を振り抜き、徹甲弾を爆発させる

「ナニイッ!」

 

目の前で爆発した徹甲弾と、無残に破壊され、単なる鉄の塊と化した自らの主砲に、一瞬混乱する軽巡棲姫

 

そこに、二人の『日本』の名を冠する戦艦による、46センチ三連装砲の砲撃が叩き込まれた

 

私の大和撫子(自分自身)による一撃は軽巡棲姫の仮面を今度こそ破壊して

同時に扶桑さんの狙撃が軽巡棲姫の艤装を打ち砕く

 

仮面がひび割れ、鬼の角が砕ける

真っ直ぐにこちらを睨むその目は

急にあらぬ方向へと逸らされ

 

「キァァァッ!」

 

目元を押さえるようにしてうずくまり、身を縮める軽巡棲姫

 

「ど、どうしたんでしょう?」

「見ナイデ!見ナイデヨオッ!」

 

あうあう言いながら必死に顔を隠す軽巡棲姫

 

「………」

「生暖カイ視線ヤメテエェ…」

 

「可愛い…」

「嘘ダッ!」

「可愛いです!」

 

扶桑さんの声に猛烈に反応して叫ぶ

軽巡棲姫に、さらに反論する

 

「姫ちゃん可愛いです!すごく可愛いです!」

「姫チャンッ!?」

 

私は刀を仕舞って軽巡棲姫、いえ、姫ちゃんと呼びましょう…に近づき

 

「ほら、うずくまってないで」

「イヤァッ!」

 

やはりというか、なんというか…案の定拒否されたけど、別にめげることは無い

 

「姫ちゃん」「ヤメテエェッ!」

「姫ちゃん」「ヤメナサイヨッ」

 

なんだか楽しくなって来た…

なんて訳は無いはずです…無いはず

 

「姫ちゃん」「ダマリナサイッ!」

ガバァッと起き上がった軽巡棲姫は

勢いよく主砲を私に向けて

それがすでにガラクタと化していることを思い出したようで、体を硬直させる

 

「ッ!」

「ぷっ…」

「あ、大和さん、笑っちゃ行けませんよ

本人は真面目なんですから」

 

「ソレガ一番心二刺サルト何故気ツカナイノ…」

 

泣きそうになっている軽巡棲姫を抱きとめて、優しく頭に手を乗せる

 

「ほら、大丈夫だよ

誰もあなたを傷つけたりしない

だれもあなたを拒絶しないから」

 

「ヤメ」「やめないよ」

 

暗く変色した瞳を見つめて、

優しく声をかけ続ける

 

提督ならもっと上手くできるかもしれない

でも、今ここにいるのは私

だから、私のできる精一杯で

私はこの子を説得する

 

「一緒に行こう?この鎮守府は、深海よりきっと暖かいから」

「ア…要ラナイ…私ニハ…帰ル場所ナンテ」

 

私の腕を振り払おうとする軽巡棲姫

でも、私は離さない

 

今離しちゃダメだとわかるから

意地でも離さない

 

幸い、私の方が火力は上だし、私は戦艦で、相手は名前通り軽巡という艦種の差による体格差も

私に有利に働いてくれている

 

どれだけこの子が嫌がっても

決して離さない

 

「離セ!」

「離しません!」

「大和!」

「離しません!」

 

「ヤメロ大和!」

「こんな艤装があなたを縛ると言うのなら…こんなの脱いじゃええっ!」

扶桑さんが、天龍が、龍田が、イクが榛名が

 

全火力を集中する

 

私は戦艦の出力と装甲を信じて

必死に軽巡棲姫を拘束し

 

ドゴォォン

 

わざと直撃を受ける

 

「…………っ!」

私は意識を失った軽巡棲姫を、

なおも手放すことなく気絶した

 

side change

大和side out 蒼羅side in

 

赤く染まっていた海が、素の青色を取り戻す

 

それは、奪われた海域の奪還時に起きる現象であり、海域を自らのテリトリーへと書き換える業が失われた事を意味する

 

つまり、海域の主人であった軽巡棲姫の消滅、撃破である

 

「やったか!」

 

俺は歓声を上げて窓に駆け寄り

大破状態で搬送されている大和を見た

 

「な!?」

軽巡棲姫はそこまで能力的に

強力な姫ではないはずだ

 

大和型の艤装大破なぞ、

そうそう簡単に起こることではない

 

それを短時間で起こすほどに強力だったのか、それとも奇襲か何かで想定外のダメージを負ったのか

 

「確認してる暇はない!」

俺は再びドックへと走り

 

置きっぱなしだった通信機を取る

「全残存艦艇に告ぐ!たった今、海域奪還現象を確認した!これより、払暁戦追撃、残敵掃討を開始する!」

〈了解!〉

 

艦娘たちの返答と同時に無線を切り

俺は大和に駆け寄る

 

「大和!大和っ!」

 

全身に傷を残し、ボロボロになった艤装を外した大和は、それでも薄く微笑む

 

「提督、私、やりましたよ…」

「あぁ」

 

「軽巡棲姫の、説得、出来…」

 

最後まで、言い切ることなく

大和は意識を失った

 

「大和!…っ!」

 

軽巡棲姫の説得はともかく

俺は重症の大和の為にドックを開けるべく、ドック担当をやっていた夕張に確認を取り、満席状態だったドッグに

高速修復剤の使用を許可した

 

「構わん!一刻も早く治してくれ!」

〈了解しました!〉

 

扶桑さんに付き添いを頼み、俺は一緒に運ばれていた軽巡棲姫を拘束する

 

「すまんな、一応の処置だ」

 

言い訳じみた言葉だが、敵対している以上は拘束もやむなしである

 

「夜が明ける…」

フィールドが夜になってから

かなりの時間が流れている

 

本来昼→夜の流れ以後には

フィールド環境は変遷しないのだが

一部限定的に、戦闘フィールドが強制解除されて、時間が現実準拠の昼に戻される場合がある

 

それが払暁戦

 

そして、戦闘フィールドが強制解除されるという事は…その外側に隔離されている空間から、干渉が可能になるという事だ

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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