戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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優しき束縛

鳳翔は自らの限界をよく知っている

 

故に、決して限界を超える無理はしない

しかし、自らの技量を弁えているために、その限界以内ならいくらでも融通できる

 

そして今、鳳翔の戦力は、ヲ級後期型フラグシップを完全に上回っていた

 

「…まだやりますか?」

「分ガ悪イカ…!」

 

撤退していくヲ級を見送りながら

鳳翔さんは、優しく微笑み

 

「そこです!」

 

密かに魚雷を放たんとしていた潜水艦を撃沈した

 

「甘いですよ」

 

自らの魚雷を誘爆させて爆殺されたのは…潜水ヨ級エリート

 

「………思ったより早く終わりました」

 

弓を下ろして

今度こそ帰投進路をとる鳳翔

 

「赤城も飛龍と蒼龍も今度

機会を見て再教育しなくては」

 

哀れな正規空母達に地獄行きが決定した瞬間だった

 

 

しばらくそのまま残敵を掃討しつつ帰還した鳳翔の報告を聞いた蒼羅はニヤリと笑う

 

「よし、敵に対して十分な戦力であると見せつけることができた…ありがとう

鳳翔さん、貴女のお陰で

今後は虚仮威しでも有効になる」

 

しかし、鳳翔本人は

 

「独断出撃を褒めないでください

提督、貴方の責務は本来、私を叱らなくてはならないのですよ」

 

と、言って入渠ドックへ向かった

 

「鳳翔さん…まぁ良いや、これで

創海鎮守府には強力な航空戦力が奥の手として控えている…的な噂を立てることができるはずだ

 

実際にも鳳翔さんは強いけど」

 

「でも提督、見てたよね?」

「あぁ、分かってるよ

鳳翔さんは長くは戦えない」

 

となりにいた蒼龍の質問に

真顔になって答える蒼羅

 

「鳳翔さんは旧型であり、最初期から戦い続けてきた一人でもある、そして

圧倒的な実戦経験とはつまり、

自らの身をすり減らして得たものだ

…おそらく鳳翔さんの戦闘継続時間は

1時間どころか10分にも満たない」

 

「うん、大本営の鳳翔さん、私たちのずっと前から、ずっと航空戦力として戦ってきた

大先輩なんだ、って有名だったから

 

私たちでも寿命になる子はいるのに、鳳翔さんがまだまだ現役、なんてあり得ないもの

多分自壊寸前の状態で、無理やりに戦ってるんだと思う」

 

きゅ、と俺の服の袖を掴む蒼龍は

そのまま俺の腕へと抱きついてくる

 

「だから、鳳翔さんは戦っちゃダメ

提督も、絶対前線に出ないで」

 

「あぁ、鳳翔さんはもう、改二を使えない程に体を壊している

前線にはあげられない

戦ってるのを見て分かったよ」

 

そう、判断された理由は

鳳翔の左手にある、

 

弓を引く際、弓を支える側である左手が

帰還報告の時に、僅かに痙攣していた

 

弓を引くのには慣れているはずの彼女が

初心者のような筋疲労での痙攣などあり得ない

それは、度重なる傷と無理を押しての出撃によるダメージの蓄積

 

決して癒せない

限界を超えてしまったが故の傷なのだ

 

「無理をさせすぎている…鳳翔さんは

もう、引退させるべきだ」

「でも、それとなく切り出しても

話題をすぐに察して誘導するし…」

 

自然と、暗くなる声

 

「俺が、直接言うよ、退役勧告を出す」

「うん、悲しいけど、やっぱり

鳳翔さん自身のためには、それが一番だと思うよ」

 

蒼龍の手を離させるために

無理やりに体を離した蒼羅は

 

俯く蒼龍の頭を優しく撫でながら

ゆっくりと言い聞かせる

 

「仕方ない事だ、人の作ったものである以上、いや、自然に作られたものだって

いつかは崩れて行く、

万物は流転する、永遠に同じ形を保つものなんて、この世界には存在しないんだよ」

 

「…うん、」

 

ぎゅぅ、と俺の手へと掛かる

圧力を引き上げながら

蒼龍は上目遣いでこちらを見上げる

 

「提督は、居なくならないでね」

「…それも、いつまでか分からんけど…出来るだけ長く居るよ」

 

涙目の蒼龍の手を引き、強引に動かす

 

「ほら、蒼龍、元気だせよ

みんな帰ってきた

残敵掃討完了の電報もきたし、

……これで、鎮守府侵攻事件は終結だ」

 

鎮守府の出撃ドック前で、

帰還するみんなを受け入れる

 

「お帰り、みんな」

 

中破している者、小破にとどまった者

無傷で帰投した者、

様々な艦娘たち、合計24人を受け入れる

 

「お疲れ様」

「提督こそ、お疲れ様…聞こえてたよ

時雨を叱ってる時」

 

摩耶は最初から、

最後まで戦い抜いてくれた

 

「お疲れ様でした、

ありがとうございました」

 

榛名は第三艦隊を率いて

鎮守府周辺を確保し続けてくれた

 

「提督、ただいま帰りました」

 

扶桑さんは天龍とともに事情も聞かないままに前線に参加して、戦ってくれた

 

艦娘たちを迎えながら、笑い合う

 

「お疲れ様、みんな」

《お疲れ様でした》

 

「で、提督…その…」

「空母棲鬼、言い訳は聞かないぞ」

蒼羅は縮こまっている空母棲鬼とレ級に

説教…ならぬ、お小言を始めた

 

「出撃するときはせめて一言くらい言ってくれよ」

「あ、鳳翔さんは?」

 

「鳳翔さんは報告したからいいの」

 

そもそも下手したら敵と誤認されるんだから

危険でしょ!と強く叱っておく

 

「…だって…私たちが原因で始まった戦いなのに…私たちだけ引っ込んでられないじゃない…」

 

「いいんだよ引っ込んでて、

俺たちは守るために戦うんだから

守られる側は奥にいていいの」

 

暗い顔の空母棲鬼に、一枚の券を渡す

「?」

「間宮券、今回の件で頑張ってくれたみんなに配ってるんだよ、君たちの勇気を讃えて、ね」

 

笑顔で手を軽く振り、レ級の方を向いて

 

「提督、私たちは迷惑だろ?」

「レ級?お前は何を言っているんだ?」

 

レ級の小さな背に合わせて膝立ちになり、レ級を…艤装がないので優しめに、抱きしめる

 

「お前たちに掛けられる迷惑など

俺が受け止めるに何の問題もない、子が親の元で育つことが迷惑か?親に負担はあるだろう、だがその負担は決して忌むものではないんだよ」

 

「でも」

 

「レ級、親が子供を育てるのは

ただ自分と同じ血を持つからじゃない

その負担を受け入れて、尚余りある喜びがあるからなんだよ、だからレ級

これからも、俺達と一緒にいてくれ」

 

抱きしめたレ級の耳元で囁く

「俺達、創海鎮守府は一つの家族なんだから」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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