戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ソウルシスター:上妹

「もうだめだぁ…おしまいダァ」

 

完全に事案が発生している状況である

このままでは階級剥奪もあり得る、と

俺が野菜王子のような声で震えていると

 

「…提督」

 

そっと、鳳翔さんが声をかけてきた

「大丈夫ですよ、ある程度は私から説明します…あと、今する話ではありませんが

退職勧告についても」

 

「…了解、後は頼んだ」

「はい、頼まれました」

 

たった数往復の言葉で、互いの行動を理解して

互いにそのために動く

 

「よし、それじゃあ俺はメンテの時間だ」

「司令官?その前に執務があるでしょ?」

 

「…………今日は仕事しない日だから」

「もう、私がいないとダメなんだから」

 

いつもより、はるかに弾んだ声で

明るく笑う雷、

やはり頼られない間、ずっとフラストレーションが溜まっていたのだろうか

 

「私が手伝ってあげるわ!」

「…おっおう」

 

ちなみに、その頃にはすでに大淀と帰ってきた秘書妖精が妙に手際よく書類を作成していて、ほとんど仕事はなかった

 

「………どうしようか」

「何も(する事)ないわね…」

 

結局、今日の執務は何もない…よし

 

[メンテの時間だね]

[お前!何故それを!何故言った!」

 

[?ダメ?][ダメに決まってるだろ!]

 

俺の唯一の独自かつ繰り返されるセリフを!お前が奪うなぁっ!

と発狂状態で叫んでいると

その異様な雰囲気を感じ取ったのか、

雷が俺の背中にくっつく

 

「どうしたの?司令官」

「いや、なんでもないよ、さて、俺は特に仕事もないので艤装メンテに回らせてもらうけど、雷はどうする?」

「私?私は、そうね、

宴会で騒いでたみんなの様子を見て回るわ

そろそろ二日酔いも抜けてるだろうし」

 

「………わかった、それじゃあ」

「えぇ、いってらっしゃい」

 

雷に送り出されて工廠に赴く

「よおし……メンテの時間だぁ!」

 

手始めに前回の戦いで大破…までは行かなくても損傷していた艦娘たちの艤装修理を行う

 

「うぅ〜ん、やっぱり鋼材修理は

コストが高いよなぁ…だからって普通の鉄で修理すると練度が維持できない…う〜ん…」

 

頭に赤い鉢巻を巻いた工廠妖精が

トンテンカンとばかりに金槌で艤装を修理していくのを眺めながら、俺も

艤装を分解し、

パーツを取り替えながら唸る

 

「コストが高い…コストが高い原因は?

鋼材が入手困難であり、海域で採取される限定的資源であるから、ならばその原因は?

 

鋼材の人工的生成が不可能であり、海域から直接採集する天然品の採掘に100%入手方法を依存しているため

その原因は?

 

各種資材の源であるエネルギーが

未だにいかなる性質を持つものであるか、またいかなる素材がいかなる過程を経て生成されるか不明である為」

 

俺は極限の思考によって

鋼材の人工的生成を図るべく

原因追求を開始するが

原因はやはりイチ提督には手の出せないレベルのところまで来ている

 

素材と生成過程を解明すれば

それを洗練することで

より低コストでの入手が可能になる

そうなれば艤装修理において『不純物が絶対に混ざってしまう』というマイナス要素を持つ通常の鉄材を使わず

全ての修理を鋼材で行う事で

練度を犠牲にしない修理が可能になる

 

そうなれば艦娘の練度も上がりやすくなる

高練度の艦娘達の損壊率は低いため、必要な資源量が減る、収支はプラスに傾く

正に良いスパイラルの始まりだ

 

「でもなぁ…現状、轟沈も多いし

艦娘を喪失(ロスト)することも多い以上は

低練度の低体力艦娘にコストを割くことも無い、って雑に扱われることも多いし…」

 

艦娘をもっと丁寧に扱う?バカな

それこそコストが掛かり過ぎる

 

と頭ごなしに否定されるだけだろう

…ウチではそれで戦果を出しているのだが…武勲艦である陽炎や時雨達がそうだといっても

もともと戦闘向きかつ高性能であると言われればそれまでだ

 

「うー…俺たちだけではどうしようもない案件だからなー」

 

それに、霞や58達、戦闘中に大破して緊急修理した再出撃組から

『再出撃した時、急に艤装が重くなったように感じた』という指摘もタスクとして重要だ

 

「それは多分、俺とほかの修理妖精の技能に根本的な差があるからなんだよなぁ」

俺のメンテナンス慣れている艦娘が通常のメンテを施された艤装を装備して出撃すれば

駆動が鈍い、反応が遅い

出力が上がらないと感じてしまう

 

俺のメンテは完全とは言い難いが

それでもそこらの野良技師より

幾らかはまともであるという自負はある

 

その技術が却って通常のメンテでは満足できないという状態を引き起こしてしまうのなら

俺はこの技術を封印するべきなのだろうか?

 

仮に俺が奇襲を受けて行動不能に陥った場合、俺の艦娘達が大破すれば

修理、再出撃に大きなハンデができてしまう

それは本来、あってはならないものだ

 

「……いや、逆に考えるべきか?」

(ていとくー!)

 

そこまで考えた時に

妖精達の声がかけられる

「なんだ?」

(こっちこっち!)

 

妖精に先導されながら

ドックを出て、海側へとたどり着き

その先に倒れていた軽巡棲姫に遭遇した

(ていとくーあの人たすけてー!)

(じんつうさんです!いっぱい産んでもらいましょう!)

(苦しそう、助けてていとく、しごとでしょ?)

 

「…アレは敵なんだが…今更か

だがお前は神通を勘違いするな!

それとお前は何故七五七調なんだ!?」

 

(わりとテキトー)

(ちがうの?R18希望です)

(ハイクを詠め、かいしゃくしてやる)

 

てんでバラバラな返答をしてくる妖精の相手をあきらめ、冷静に、技師として

軽巡棲姫の状態を確認する

 

[お願い…提督…]

[川内?!]

[妹を…神通を助けて!]

 

「了解だ、やってみせるさ、存分に!」

 

倒れている軽巡棲姫は艤装大破

完全破壊に近いほどの状態だが

まだ修理の目はある、

「それなら、助けてみせる」

 

意識のない軽巡棲姫を抱き上げ

艤装を外す

艤装に癒着していた左腕は神経断裂を起こしているようだが、御構い無しである

 

「腕は命より軽い!すまんが辛抱してくれ」

 

俺はまず軽巡棲姫本体を入渠ドックへと運び込み、続いて妖精達の力を借りて艤装の方を

工廠へと運び入れた

 

「よし、軽巡棲姫の艤装…今から

お前を殺す…ならぬ治す!」

 

深海棲艦の艤装特有の肉質の方は補填できないため、再生力に期待するとして

機械パーツの方を修理するために

俺はまずどんなパーツがあるか

どのように壊れているかを理解するところから始めた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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