戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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色褪せた苦しみと、鮮やかな恐怖

[で、お話は終わったかな?]

「うん、終わったよ、ありがとう提督」

川内の笑顔は、いつも通り明るい

 

[よし、おつかれ…軽巡棲姫の方はどうかな?」

ボロボロの状態であったのだし

しばらくは安静を言い渡すべきだが

 

姫級の能力なのか、

もう艤装の方は治りかけているし、連動して本体も治ってもおかしくはない

 

「…オ姉様…違ウノネ…モウ

裏切ラレナイ……」

 

そんな事を考えながら目を向けた

軽巡棲姫(そのあいて)は、仮面に隠された目から、涙を流していた

 

ダメだな、しばらくは話せそうにない

本人が落ち着くまでは待たせてもらおう

 

[うん、出来るだけ静かに、ね]

 

入渠ドックの中でもあるし

あまり騒がしいのは宜しくない、ここは自然に泣き止むまで待っていてあげよう

 

[…珍しく正解ね]

[よかった、これが正解かどうかは

ちょっと自信がなかったんだよねー]

 

軽く笑いながら入渠ドックを出る

「………聞き耳だ」

 

カラカラとダイスの回る音(幻聴)と同時に

中の声が聞こえてくる

 

「私ハ…裏切ラレタ…アイツ等ニ…

デモ…オ姉様…」

 

なにやら複雑な事情を抱えているようだな

「……ダメ…アレハ…信ジラレナイ」

 

ダメな方向に固まってしまったか…

まぁ仕方ない、

そんな対応がどうこうはこれからの話だ

 

「さて」

ドアがわりに手近な壁をコンコン叩き

ノック音を立てる

「失礼するよ」

 

「ココノ 提督…カ?」

「そう、さっき自己紹介した

神巫蒼羅中佐だよ、宜しく

 

さて、さっそくだけど」

「私ハ何モ話サナイゾ」

 

「…おやおや、

随分頑なになってしまったものだ、

まぁいいよ?そもそも尋問なんかしにきた訳じゃないんだし」

 

ドックのへりぎわに座り、

俺は書類を提示した

「これについてなんだけど、深海棲艦に対しては対話を試みず、敵である事を念頭に置いて…って教育書ね?

初期教育課程で渡される奴なんだけど…そぉい!」

 

書類を思いっきり真っ二つに引き裂く

「…!」

 

「ほれこの通り、俺は君に対して敵意も害意も持たない事を少しは証明できたかな?

 

まぁ、それはそれ、今回きたのは君の処遇について、お話があるからさ、当然今は捕虜扱いなんだけど」

 

「ナラソレデ良イダロウ!」

「そうじゃないんだよ〜、近いうちに881研究室に君の存在がばれて、大本営権限で実験台に使われちゃうんだよ」

「ナンダト…」

 

嫌そうな雰囲気になる軽巡棲姫

「だからさ、俺もそれは嫌な訳

ということで、俺は君を隠し通すから、君もおとなしく隠れていてくれないか?」

「…モシ、嫌ダトイッタラ?」

「その時はその時、君が嫌なら

それで良いさ、俺は取り敢えず治した君の艤装と一緒に、君を深海棲艦の支配海域に送るだけ」

 

即答した俺に、なにやら怪しい物をみる目を向ける軽巡棲姫

 

なお、仮面で見えない模様

 

「………」

 

「………」

 

重苦しい沈黙が流れる

 

そして、ついに

「解ッタ、従オウ」

 

その一言が告げられる

「よし、ありがとう軽巡棲姫」

 

[やったぁぁあっ!]

テンションを跳ね上げる川内と、微笑む俺に無表情を維持する軽巡棲姫

 

「じゃあ取り敢えず傷を治してしまおうか…俺は外で待ってるからね」

「…別ニ、私ノ身体程度…

見ラレテ減ル訳デモナシ…」

「減るよ!俺の正気が減るよ!あと社会的立場がゴリゴリ削れるんだよ!」

 

叫ぶように言い返しながらさっさとドックを出る

…さて、一旦深呼吸だ

 

「すぅ……はぁ……よし」

 

思考を基底状態にリセットする

残念ながら俺には先日殺しあったばかりの深海棲艦を『はーい今日から君たちの仲間になる、軽巡棲姫ちゃんでーす!』などと紹介できるメンタルは無い

 

そんなメンタルがあったとしても艦娘に受け入れられるかどうかはまた別の問題となる

 

それなりの対処…というか

時間を置いてもらう必要があるだろう

「さぁ…お仕事の時間だ…」

 

技師としての自分の仕事は終わり

次は提督として、

艦娘の指揮者としての仕事を始めよう

 

「大淀、現在任務外で外出中の艦娘はいるか?」

「いいえ、本日外出届は提出されていません」

 

「そうか、わかった体調不良等は?」

「おりません、全員待機中です

ただし遠征任務中の艦娘、あきつ丸および鹿島、陽炎型陽炎、不知火、球磨型木曽の5名のみ、本日の遠征から帰っていません」

 

「わかった、では、その5名が帰還したら

全員に通達を出してくれ、

 

20:00に講堂へ全員集合、と」

「はい」

 

大淀は全てを悟った顔で頷く

まぁ、

本当に全てを察しているかは不明だが

勘の鋭い大淀の事、

察していてもおかしくはない

 

俺は話すべきことをまとめながら

執務室から出て、食堂へ向かう

 

そして

「あ、提督…お待ちしておりました」

「待たせたね、鳳翔さん」

 

この会談によっては

話すべきことの内容をなくてはならないのだから、と慎重に口を開いた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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