戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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フラクチュエーニング

「ゴリゴリに精神を削られた所だが

今日も今日とて書類は上がる…」

 

いっそ、汚い花火だ

とばかりに爆散させたいが

艦娘の意見や鎮守府内施設の劣化状況など、提督側からでは見えない情報も載っている関係上

 

粗雑に扱う訳にもいかない

 

「……お疲れさま」

 

「ありがとう…コーヒー飲む?」

俺の監視、とばかりに執務室の隅に椅子を用意して座り込んでいる陽炎に

少し前に導入されたコーヒーメーカーを示すが

 

「ん、いらない…コーヒー苦いし」

「舌まで子供に戻ったのか…」

 

「仕方ないじゃない!先輩の

淹れるコーヒー濃いし」

「俺の淹れ方の問題なのかよ、

まぁいいや、今回はミルクもあるし

カフェオレ風にしよう」

 

俺が更に妥協案を提示すると

 

「…砂糖大さじ二杯で」

「それ元の味消えてるだろ」

 

昔は俺が淹れるブラックコーヒーよく飲んでいたのに、燈はよく夜更かしもしていたし

コーヒーそのものは濃いめが好み

だった筈だが…艦娘化とは

色々変わるものだなぁ

 

今の生活はどうだ?と聞いてみれば

朝6時くらいに起きて、鎮守府で働いて、9時前には大体寝ているという健康的すぎる(驚愕の)答えが帰ってきた

 

「……それが夜更かし常習犯の

女子大学生の末路とは呆れる…」

「逆にどうやって夜更かししてたのかも忘れちゃったわ、私に残ってるのは先輩の事と、人間の家族の事、それにちょっとしたエピソードくらいよ」

 

サラッと流してしまったが

尋常ではなく重い話である

 

「それでも俺のことを覚えていてくれるのは少し嬉しいな…」

「にゃぁぁっ!?」

 

椅子から飛び起きる陽炎

「なんか猫みたいな声だな」

「し、知らない!」

 

[全くこの提督は〜!]

[…?どうかしたか?川内]

 

全くもって率直な感想なんだが

(どうしよう…陽炎はなぜか拗ねてしまったし、川内に聞けるような状態でも無いだろうし…)

[答えてなんてあげないんだから!]

 

思考に突然、読まれているかのように割り込まれた俺は激しく混乱し、SRS(川内リアリティショック)を起こした

 

[アイエエエ!!川内!?川内何で?!]

[うるさい!もうこのバカ提督!

どっかの誰かが魂ごと無理矢理とっ捕まえるからでしょ!思考に介入くらい出来るわよ!]

 

[…ぁ、なるほど、ありがとうOK

理解した、つまりなんの問題もない]

[そこは見解の相違があるわね

私にとっては大問題よ]

 

川内と脳内でやりあっている内に

椅子の上で体育座りしていた陽炎は復帰してきたらしい

「せ、せんぱい、その」

「ん?どうした?」

 

声を掛けられたので、

話を打ち切って陽炎の方に集中する

「〜〜!何でもない!」

「…そうか、それなら良いや

コーヒー淹れるよ」

 

当初の目的の通り、コーヒーを淹れる

最初は仕様書を確認しつつだったが、鹿島に仕様書を取られてからは全ての内容を暗記して自分で操作するようになった

 

「さて、…ドリップだから、使用者の腕で味が変わるんだよなぁ…」

 

つまり、美味いコーヒーを淹れられるかどうかは人次第であり

機材に依存する訳ではない、という

メーカー側の保険でもあるのだが

それはそれ、

 

本当に美味いコーヒーを淹れられるようになってから、これは自分の腕で淹れている、と自己満足しておこう

「はい、どうぞ」

 

指定通りに砂糖大さじ2、混合比は

コーヒー:ミルク比 4:6である

 

「ありがと…熱っ、」

そりゃ熱いだろうよ…ってか

急に飲むなよ、

 

カフェオレを少しずつ飲みながら

こちらに視線を向ける陽炎

「……」

 

「……」

俺はその視線を無視して

書類の処理を再開する

無論、その傍には

 

明石が『こないだのハロウィンでは迷惑かけましたからね〜』と置いて行った気配りの形(コーヒーカップ)が置かれている

 

コーヒーメーカーと対になる品だ

無論明石製である

 

「どうかな?」

「…美味しいわ」

「なら良かった」

 

さて、『鎮守府の衛生環境について

所見および改善策の提案』か

ずいぶん気合の入ったタイトルだな

 

「うん、うん…」

 

ピンで留められてなお分厚い書類には

現在の鎮守府の各場所における衛生環境とそのレベル、汚損による影響などが細かく記されていた

 

「細かいなぁ…いや、俺の手が届いていない場所がそれだけ多いという事か」

 

鎮守府の衛生環境は『黒杉鎮守府』時代に散々意見書を提出し、

それら全てを却下されていた身

 

自身が提督となった後は

間宮さん達にも協力を仰いで

可能な限り清掃した筈だが…まぁ

あれからかなり時間も経っているし

 

なにより、新規メンバーもふえている

かつての処置では対応が

追いつかなくなっているという事だろう

 

「よし、提案者に直接話を聞く、

重点的に掃除するべきところを定めて…やっぱり掃除担当を見直すべきだな」

 

次の書類に手を出す

「次は、何かな?…人数の増えてきた深海組への処遇の陳情かな?」

 

提出したのは…空母棲鬼のようだ

几帳面な性格からか、丁寧に書かれた字からは 自分だけでなく、深海組という枠全体での話を代表している、という意思が見える

 

「よし…これもまた、

空母棲鬼に話を聞こう」

 

「なら、私もついてく」

「陽炎?どうした?」

「提督を一人にしないのが私達の仕事」

 

「…そうか、わかった」

 

大丈夫なんだけどなぁ…

まぁ根拠のない自信ほど危険なものは無いというし、ここはひとつ、付いてきてもらうとするか

 

彼女達を信頼してはいるが

いつ彼女達が深海の怨念に再びとらわれてしまうかも知れない以上は

艦娘を伴うべき、というのも

真っ当な話ではある

 

「それで提督、提出した意見書は見てもらえたかしら?」「あぁ、見たよ深海組に対する処遇の陳情だったね、一応策というか、草案は考えているよ」

「ありがとうございます

私達の生活への配慮は感謝していますが

それでも、やはり種族的な差は出てきてしまっていますから」

「それはまぁ、こちら側の慣れの問題だと思うよ、後々には消えるさ」

「だと良いですけど」

 

「…………」

「それで」

 

空母棲鬼は俺の後ろに視線を投げ

「…その、後ろにくっついているのは」

「…フン!」

 

あ、そっぽを向いた

 

「これは、陽炎だが?」

「陽炎ですね」

 

「……むっ…」

「こら陽炎、失礼だろ?」

「………」

 

「私は気にしませんから、大丈夫ですよ」

 

空母棲鬼が大人の対応をするが

陽炎はますます俺にくっついてくる

 

「……はぁ……」

どうしようもなくなった俺は

とりあえずため息をつき

陽炎を無視して空母棲姫と話を詰め始めた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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