戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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果てなき夢路

「ありがとうございました、提督」

「こちらこそだよ、君達のおかげで、新しい知見も増えているんだから」

 

とくに深海棲艦の艤装の肉質なんか

研究のしようがなかったからね

 

もちろん修理には絶対必須だし、その辺の研究も進めた…結果、あれは完全に人間と同様の物質から構成される生体部品であるという結果が出た

 

つまり、あの目や歯は紛う事なく

人体と同一の素材で出来ているわけだ

もしかしてアレは沈んだ艦の乗員達の…

 

いやなことを考えてしまった…

 

これ以上考えるのは止そう

吐き気がする、SUNチェックです

 

 

「なんてね…」

執務室に戻ってきた俺は、

あきつ丸に夕食を作ってもらい

………もう何ヶ月ぶりかわからないほど久し振りなうどんを食べる

 

「あぁ…美味い……

久しぶりのうどん美味い…」

「そう言っていただけると嬉しいでありますが…しかし、提督、何故そんなに泣きながら食されるでありますか?」

 

あきつ丸の純粋な視線が俺に突き刺さる

 

「あぁ〜ー…すまん」

「言えない事情でありますか、

構わないでありますよ」

 

優しく微笑むあきつ丸

彼女こそ天使か

 

「ありがとう、ご馳走さま」

「お粗末様であります」

 

定型的な挨拶を済ませて、俺は執務室へ戻る

 

「よし、夜も書類だ頑張るぞ…陽炎は帰っていいぞ?」

 

現在時刻は、陽炎基準では

そろそろ夜遅いと評されるだろう時間、9:30である

 

「眠くもなるだろうし」

「やだ、帰らない」

 

「……」

「帰らない、いっしょにいる」

 

陽炎は欠伸しながら視線を向けてくるのだが、妙に眠たげだ

 

やはり夜伴など

駆逐艦には無理なことである

 

「お前はもう寝ろって、そもそろ9:30だぞ」

「まやねらいの…まだ寝ないの!」

 

「さっきから三連続欠伸を見せつけてる少女にそれを言われても全くもって説得力ないんだけど?」

 

俺は軽く揶揄いながら

陽炎を眠らせる為に言葉を重ね

 

「では提督も眠ってください」

いつのまにかそばに立っていた大淀に声をかけられる

 

「いつからそこに!?」

「大淀さん?」

 

俺と陽炎の声には全く返事をせずに

厳しい視線を向けてくる大淀

「提督とて、ここしばらくまともに眠っておられません、いくら提督が体力のある若い男性だとしても、その様な働き方は寿命を削ります」

 

「俺のことなら心配はいらない

俺はまだ大丈夫だ」

 

執務の方にもまだ片付けるべきものが残っている、と言うと

「提督!」

 

大淀が机を回り込んで、俺のすぐ隣に来る

「普段艦娘生活基盤を整えろ、油断慢心をするなと散々に言っておいて!貴方がそれを破ってどうするのですか!提督は嘘つきでは無いのでしょう!?」

 

「…………すまん、大淀」

普段のお叱りとは格の違う声と表情

それは、まさしく俺のため

 

「無理をしていることには自覚はある

でも、深海組や艦娘の人数も増えているし、この状態は不安定だ

現状は土台の狭い場所に無理やり

大きな家を建てている様なものだ

…土台を拡張するために、俺の努力は不可欠だ」

 

「ですが!それで提督を身をすり減らしていては、艦娘達も喜びません!」

「あぁ、そうだよ、だからしばらくは

()()()()()()()()事にした」

 

俺の提督用軍装の裾を掴んだ陽炎の視線が、パァァッ!と明るくなる

 

「それでは結局負担は変わっていませんよね?」

「変わってるさ、

大淀や秘書妖精にも手伝ってもらうし」

 

俺がそういうと、大淀は満足げな表情になる

「それならそれで、

お手伝いは喜んでお受けします」

 

「頼んだよ」

俺はさっさと椅子を回転させて机に向き直り

「さて…次は…」

 

「「だから寝てよ!」ください!」

 

「えっ?」

俺の素の返事に

 

「先輩!」「提督!」

「「まだお話が足りないようね…」」

 

 

凄まじい気配を漂わせた大淀と、今にも怒鳴りそうな表じゃない陽炎が詰め寄ってくる

 

「いや二人ともどうした?!

俺何か言ったか?」

「言っては居ません!でも行ってもいません!」

 

「先輩は無理せずに寝る!早く!」

陽炎に引っ張られて大淀には机を占拠され、俺は自室へと移動した

 

「失礼するわよ!…

相変わらず何にも無い部屋ね」

「何もないけどその分汚れない、それにせいぜい寝る程度の部屋だしな」

 

もともと用務員じみた立場であり

あまり大きな部屋を必要とした事がないし、俺は黒杉時代の提督室を使っていない

 

そんな部屋に内装を求められても

どうしようもないのだ

 

「執務が暇な時間とかどうするのよ」

「メンテ」

 

俺の答えに、はぁーと

深いため息をついた陽炎

 

「メンテが終わるとどうなるの?」

「知らんのか?メンテに終わりなどない」

 

「もうダメ、私の手にはおえない

……それ以前にちょっと、

つかれちゃった……」

 

ため息と欠伸を連続で繰り出しながら

俺を離して

 

「早く寝る、提督」

ベッドに座り、ポンポンと傍を叩く

 

「早く」

「…いやそれは流石に」

「早く」

「だから事案に」「早く」

 

「…………はい」

俺、涙目である

 

「…おやすみ」

「あぁ、おやすみ陽炎」

 

精神力で姿勢を維持しながら

寝たポーズだけを形成する

 

陽炎が騙されてくれれば良いのだが

 

「……ふぁぁ…」

 

陽炎は俺のそばに座ったまま

開かれたカーテンの隙間から

窓の向こうの月を見上げて

 

「月が…綺麗…」

 

そういえば今日は上弦の半月だったな

なんて考えて居ると

 

陽炎はおもむろに立ち上がり

「ちゃんと寝てるわよね?実は薄目開けてたりしないわよね?」

 

「これは必要な監視、これは必要な監視

先輩を一人にしちゃダメなんだから、だから私がそばにいるのはおかしくない」

 

そんなことを呟きながら

部屋を出て行った

 

その五分後

 

「お邪魔しま〜す…」

そう小声で言いながら

オレンジのパジャマに着替えた陽炎が

部屋に入ってくる

 

「おやすみ、蒼羅くん」

俺の布団に潜り込んできた?!

「良いの!ひ、必要な監視なんだから」

 

流石にそれとなーくスペースを削って

入り込む陽炎を阻止しようとするが

 

陽炎を阻むことは出来ず

 

そのまま寝付かれてしまった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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