戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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甘味と酸味

「というわけで、持ってきたんだけど」

「性急すぎはしないかしら〜?」

 

「思い立った…という奴なんだが

正確には、間宮さんの勢いに押されたのが一番大きい」

 

龍田に冷たーい視線を浴びせられながら軽巡寮に入って、川内型の部屋(予定)に入る

 

「失礼するよ」

「マタキタノカ…」

「今ちょうどおやつ時だからね、

…はい、どうぞ、間宮さんのとこから仕入れてきたんだ」

 

「…クッ…貰ウ」

 

間宮さんと聞いた途端にビクッ!と震えた軽巡棲姫は片手を出し…

その手に、食堂で買ってきたシュークリームの片方を…箱ごと載せる

「箱ハ要ランノダガ…」

「お洒落な箱なんだけどね、こういうの後々は使い道無くなるよね」

 

苦笑していると

 

「私の分はないのかしら〜?」

 

龍田さんが横から声をかけてきた、ちなみに俺が入った時から横に待機していたのだが

 

「あっ……」

完全に忘れていた、なんて言えない

「……ナインダナ」

「くっ!」

 

先ほどまで相手が上げていた声を今度は自分がやることになるとは…

いやくっころは楽しいけど俺がやっても面白くないじゃないか(25歳男)

 

「無いなら仕方ないわ〜」

「そうか…」「私ノ…イヤ、何デモナイ」

 

黙り込んで、そのまま片手の

シュークリームを一口食べる軽巡棲姫

 

「…美味シイ…」

「なら良かった、んじゃ」

 

龍田の笑顔が反転しないように気をつけながらシュークリームを齧る

 

「甘いクリームにイチゴ味が僅かな酸味を加え、ともすればベタついてしまう甘味を爽やかに…」

 

謎の講評を始めた俺をよそに

龍田は薄く微笑んで…

「提督の半分貰うわ〜♪」

 

はむ、と俺の手に乗ったシュークリームを咥えて

「あっ」

「ん♪」

 

そのまま俺の食った辺りを獲っていく

「お前ね、もうちょっとあったろ

せめて別のとこ食えよ」

 

「だってそれはクリームが溢れちゃうし〜、もしかして、顔にクリームついたところ、見たかったのかしら〜?」

 

ズイッと俺に近づいて

至近距離から見つめてくる龍田

 

その顔に…クリーム?

そう考えた瞬間、

いくつかのヴィジョンが見えた

 

[エロ同人か!]

[仕方ないだろ!それに

向こうから言ってきたんだぞ!]

 

途端に始まる川内との舌戦は

 

「何を考えちゃったの〜?」

「ミセツケテクレルナ…提督…」

 

すぐさまに二人の声で中断された

 

「………」

「聞イテイルノカ提督!」

「話せないようなコトなのかしら?」

 

答えを詰まらせた俺は、そのまま

龍田と軽巡棲姫に詰め寄られる

 

「…その…」

 

 

 

「………………」

[はぁ〜…もう言っちゃえば?

素直にエッチな龍田さん想像しましたって言っちゃいなよ]

[言えるかぁっ!]

 

俺が脳内で絶叫している内に

現実側では

 

「マァ提督トテ男カ…」

「寧ろ言い切っていた方が歯切れが良かったからマシかも知れなかったわね〜」

 

知らぬ間に酷評されていた

 

「解せぬ…」

[「「解せ」」]

 

まさかの脳内と現実のシンクロで怒られた後、それっきりで話題終了になったらしく

 

軽巡棲姫は黙り込み

龍田はニコニコし続けている

 

「さて、話を巻き戻すぞ……そもそも

話に来てなかったな、まぁ良いや

シュークリームは美味しかったかな?」

 

気を取り直した俺は

とりあえず感想を求めてみる

「…………」

 

少し俯いて、黙り込む軽巡棲姫は

「……美味シカッタ」

 

聴き取れるギリギリの音量で

そう呟いた

 

「っしゃ!間宮さんに後で伝えなきゃな」

 

ここで聞き逃したりしない非主人公スキルの俺はもちろんその微かな声を聞き取り

 

「!言ウナ忘レロ!」

 

襟首を掴まれてガクガク振られて目を回すのだった

 

 

龍田に介護されながら執務室に輸送された俺は、そのまま執務室で一日中過ごし

「もう朝か…死す……直射日光

太陽に焼かれる………」

 

著しく不健康な朝を迎えるのだった

 

「おはようございます、本日の秘書艦を務めさせて頂きます、榛名です」

「おはよう榛名」

 

榛名に起こされて起床した俺は

目覚めの悪い朝特有の嫌な感覚に悩まされながら体を起こして

 

「はい、それでは本日の予定を説明致します」

 

どうしよう、榛名が完璧に

秘書をしているのだが

それは秘書艦の仕事に入っているのだろううか…いや、提督の仕事、スケジュールの管理という意味で紛うことなく秘書艦の仕事なんだが

 

「以上です、質問はございますか?」

「いや、ないよ…それにしても

勲章の授与だったか?事前の説明だけとはいえ、大本営に行かなきゃいけないのは気が重いな…」

 

軽く頭を押さえる俺…その時

「それでは、私がお供致しましょうか?」

 

鳳翔さんの声が聞こえる

……雷と一瞬迷ったなんて言えない

 

「私も退役に伴う諸挨拶とか

艤装の分離とかもありますから」

 

扉を開き、執務室に入って

鳳翔さんは微笑む

 

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

鳳翔さんをとなりに乗せたドライブで大本営に向かうことになった

 

「………到着っと、鳳翔さんはお先どうぞ、俺は車を停めてくるので」

「あら、それでは失礼して」

鳳翔さんは先に車を降りて

大本営の庁舎に入っていく

 

その足取りは、まさに勝手知ったるというべき堂々としたものだった

 

「さすが鳳翔さん、…急ごう」

俺は裏地にある駐車場へと向かい、

車を停めて戻ってきた

 

「さて、失礼します」

一応正装を用意しているし、

失礼に当たることはない筈だ

…これで簡式装で良いですよ?とか言われたらそれはそれで恥ずかしいのだが

 

「どうぞ、お久しぶりですね」

「…優那さん《厄ネタ》?」

「そのネタまだ引っ張るつもりですか

…まぁ良いです、取り敢えず

明日の勲章授与についての事前説明と、環境の確認だけですので、

鳳翔さんの方が時間かかるでしょうし、軽く始めちゃいましょう」

 

優那さんに引っ張られて

会場のオブジェクト配置やら

式の流れやらの話を聞かされて

約二時間

 

「お疲れ様です、これで

事前説明は終わりとなります

…本番の緊張はカッコ悪いですよ?」

「無駄に女子っぽい声で言わないでくれ、そんなんだから性別誤認されるんだよ」

 

その瞬間、空気が固まった

 

「ちょっとお話の続きができましたので続けますね」

「待て待て待て待て待ちなさい!

その無意味な話に付き合っていられる時間はないんだって!」

 

結果、引っ張り合いになったところを大本営の陸奥課長に見つかってニヤニヤ笑われるのだった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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