戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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これは必要なこと

「時雨、起きたかい?」

「…提督?」

 

「うん、時雨の提督だ、なんか

急に倒れたけど、何かあったのかい?俺にはそれを解き明かす義務があるんだけど」

 

ズイッ!とソファ上の時雨に寄り

「…なんで提督に解き明かす義務なんてあるんだい?」

 

痛烈なカウンターパンチを受ける

だが、その返事は用意した

 

「うん、一応、他の艦娘にも同じ現象が起こる可能性があるかどうか

任務中に発作を起こしたりしないかとか、一応調べないと、艦娘達を危険にさらしかねないからね。俺は少なくとも

そんな事になったら後悔するし

後悔したくないから俺は不調の原因を解き明かす」

 

俺は机の方に戻り

榛名と蒼龍がだいぶ減らしくれた書類の山を睨む、時雨とのコミュニケーションが

必要なのに、今はこれらが

厚い壁となって時雨と俺とを隔てている、つい二日前までは

重要な資料としたら扱おうとしていた書類の山だが、今の俺には

さっさと片付たい憎らしい物にしか

見えていなかった

 

「衛生環境については解決した

次はなんだ?水質の改善?

ドックの水質が安定しない?

そんなの海水使ってるんだから当然だろ…なんだよ屋内用プールでも買えってのか?」

 

ついつい書類にまで

悪態をつきながら処理を進めていく

 

「提督、僕は大丈夫だよ、さっきのはちょっと、精神の安定を崩しただけ」

「それが原因だってのなら

そもそも精神の安定を崩す理由があるだろ?それがなんなのかわからない」

 

時雨をさらに問い詰めながら

俺は書類に書き込みを入れつつ

対応不可能と処理する

 

そこへ

「失礼するね…時雨いる?」

「いるよ、入ってくれ」

 

俺の返答とともに、執務室の扉が開く

そこから入ってきたのは

二航戦、蒼龍

 

「なんか様子が変だったから

見にきたんだけど、医務室にも来てないって言われて、ドックにもいなかったから、ずっとさがしてたの

 

時雨、大丈夫?…って

大丈夫なわけないよね、

体調悪いながらすぐ言ってね?」

 

ソファに横たわっている時雨の前に膝をつき、背を合わせて

時雨の頭を優しく撫でる蒼龍

 

「なんでそこまでするの?

僕たちはあくまで、同じ鎮守府に所属するだけの関係だった筈だよ?」

 

時雨の言葉に反発するように

表情を暗くしながら答える蒼龍

 

「時雨が無理して倒れたら困るもの

それに!提督も言ってたじゃない

私たちは『創海鎮守府』っていう一つの家に集った家族なんだよ?

同じ家に住まって、同じ釜のご飯を食べて、同じ艦隊で出撃して、命を預け合っているのに『所属するだけの関係』なんて筈無いでしょ?」

 

蒼龍の言葉は

以前の俺の論に基づき

それを艦娘の視点で発展させたもの

 

「もし私は、目の前で時雨が大破したら全力で庇うよ、それで私が大破しても

作戦が失敗になってでも、

味方を見捨てて掴む勝利より

私は失敗しても全員生還を選ぶ」

 

その答えは、艦には出せない

艦娘なればこその唯一解(ソリューション)

 

そして、情と愛に溢れた約束の言葉

 

それを聞き届けた俺は、

机を立ち、蒼龍のとなりに並び

俺自身の考えを示す

 

「そうだな、俺は唯一前線に出ない職だから指揮に全力を注ぐが、やはり俺次第ではしくじる可能性だってある、そんな時には

俺の命令じゃなく、目の前の旗艦・僚艦、それに同型って意味だけじゃ無い『姉妹』の方を信頼して、現場として行動してくれ」

 

一旦言葉を切り、

かつての言葉を、もう一度言う

 

「それが俺の方針であり、俺が提督である限り、最初で最後の絶対遵守の命令だ」

 

「ずるいなぁ…提督は…」

「…うん、ずるい」

 

時雨と蒼龍がこちらに視線を向けながら、なにかを言い始める

 

「俺のどこが狡いんだ?

この通り清廉潔白じゃないか」

 

軍服を引っ張って白さをアピールするが

「それは外側だけじゃないか

内側は真っ黒だよ」

「うんうん、ブラックホールだね」

 

あっさりと二人に切り捨てられた

内心凹む俺を尻目に、

時雨が姿勢を戻し、ソファに座り直して

「提督はずるいよ、そんな事言われたら」

 

握った手で口元を隠しながら呟く

「どんどん好きになっちゃうじゃないか」

 

「えっそれ」[「提督は聞かない!」]

混乱しかけた俺を

脳内から制した川内と、

物理的に捕まえた蒼龍の声が重なる

 

「そういうとこだよ提督!それがいけないの!すぐに女の子を勘違いさせる!」

[無駄にカッコいいセリフを考えてあとあと黒歴史になるだけなら兎も角

本当にそれをぽろっと言っちゃうのがもうね!私はアホかと]

 

「その言葉については深く抗議したい」

「却下します!」

[ききませーん!]

 

二人に抗議されながら、

時雨のほうに視線を向ける

「…………///」

 

顔を真っ赤にして俯いていた

「…………っ!」

「こらぁっ!なに通じ合ってるみたいな感じにしてんの!ずるいずるい!」

 

蒼龍が間に分け入ってきて

俺の前でバタバタし始める

「ずるい!」

「ズルくない!」

 

話が突然低次元になってしまったが

気を取り直して…

「で、蒼龍、時雨、書類の山片付けに協力してくれないか?」

「突然だね…うん、わかった

私は今日、出撃もないから大丈夫」

「…ごめんね、僕は午後から哨戒に出なきゃいけないんだ…少しの間だけど

手伝う事もできるけど…」

 

蒼龍は頷き、時雨は頭が下がる

 

「…いや、ありがとう、大丈夫だよ

無理をさせるつもりはないから

大淀と扶桑さんを呼んで…」

「私ガ手ヲ貸ス…トイウノハ不足カ?」

 

執務室にあたらしく現れたのは

「軽巡棲姫…!」

「ソウ警戒スルナ…イヤ、ソレガ艦娘トシテハ正イノカ、ナラバソレデ良イ」

 

片手を軽くあげて、蒼龍を制した

軽巡棲姫は

そのまま俺の前へと歩み寄り…

 

「コノ程度ノ量ナラバ、私一人デモ

直グニデモ終ワラセラレルゾ」

 

とんでもない事を言い出した

書類が終わるのはありがたいが

鎮守府の最高責任者として

書類の処理は仕事でもあり、全面的に責任を放棄するわけにはいかない

 

「いや流石にそれはダメだから

俺がやるよ、手伝ってくれるかな?」

 

そのニュアンスは、

どうにか伝わってくれたようで

軽巡棲姫は、薄く曇った声で応じる

 

「ソレガ提督ノ意向ナラ…私ハ従ウワ」

 

「よし、ならよろしく頼む」

 

この時、迂闊に処理を頼んでしまったがために、鎮守府内の環境面に

軽巡棲姫の主導する

全面改修案が提示されることとなり

間接的に提督の首を絞めるのだが

そんなことは、今は知る由もなかった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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