戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

240 / 649
執務室にて

「今日も執務まみれ…一日一日がなんの彩りもなく過ぎていく…」

 

無論飯はうまい、艦娘はみんな、概ね好意的に接してくれている

だが、なんの代わり映えも見せない書類の山は俺を苛んでくる

 

「………っ!」

いかん、半分寝ていた

 

[そろそろ限界と違う〜?]

[たとえ限界だとしても

書類の処理は…今日中に終わらせなくてはならないものがあるんだ…]

 

[律儀だねぇ…まぁいぃか

ねぇ、代わろうか?]

[いらない、これは俺の仕事だからな]

 

川内の申し出はありがたいが

俺の仕事分は、秘書艦や書類専門艦の心遣いで最初から少し少なくなっている、

それをさらにサボるのは、いくらなんでも職務怠慢だろう

 

[だからといって過労で倒れても困るんだよ?提督が倒れたりしたら

鎮守府の結束が怪しいから]

[わかってる、そうならないように

全力を尽くししているよ]

 

目を瞬かせながらも

川内との会話を打ち切り

残り僅かな書類の内容を読む…

そんな最中に、来客があった

 

「提督?失礼します、鹿島です」

「開いているから、入ってくれ]

「はい」

 

かちゃっ、と控えめな音と共に扉が開いて、鹿島が入って来る

 

「提督、最近ずっと執務室に篭りっぱなしと聞きましたので、お疲れだろうと思いまして

勝手ながら、ハーブティーを用意させていただきました」

 

鹿島は薄く微笑みながら

ティーセットを手早く用意する

 

「どうぞ、お召し上がり下さい」

 

side change

蒼羅side out 鹿島side in

 

「提督はなんだか忙しそうっぽい

最近ずっと構ってくれないっぽい」

「書類の処理が目に見えて増えているからね、以前は秘書妖精に手伝ってもらっていたらしいけど、最近は妖精の能力に頼らずに独力での解決を試みているようだけど、あまり上手くいっているとは言い難いと思う」

 

最近、提督の姿をみていない

という艦娘が急増している

北上さんや一部の執務に携わる艦娘は話を異にするようだけれど、

私も残念ながらその他の枠組みに入ってしまう、つまり

最近あまり提督と会えていない

 

「…はぁ………」

最近は執務室にコーヒーメーカーが備え付けられて、さらに提督自身の

籠城率が上がってしまっている

 

会えないのは辛い…提督

 

「明石さんに聞いてみようかしら」

 

提督は技師科卒業、技官として鎮守府に入って来たのだから、技官側の存在である

明石さんなら人脈(パイプ)もあるはず

 

「何かつながれば…せめて

提督自身の好物とかが分かればいいけど」

 

私は料理系の技能も人並み程度には

修めているという自信こそあれど

間宮さんや鳳翔さんのような

特技、仕事の領域に達している人に太刀打ちはできない

 

だからその分はちょっとした小細工…提督の好きな味に近づけるだけ…で補う

 

ちょっと味付けとして万人ウケはしないかも知れないけど、提督には

提督にだけは、絶対に美味しいと感じてもらえる

それで良い

 

それさえ出来れば良いのだから

なんの問題もない

 

「よし!」

「…で、ここに来たんですね

私には提督の好きな物とかは分かりませんが、一応、金剛さんの淹れた

紅茶については褒めていましたね」

 

金剛さんの、というあたりに

少し不安はあるけど…

 

「分かりました!」

 

試してみよう、弄れるところを弄って…そう、やってしまおう

 

「ハーブティーを…いえ、そうですね

ちょっとした()()を…」

 

少々凝ったことのあるハーブティーの淹れ方を思い起こして

 

「よしっ」

 

私は、提督のいる執務室へ向かった

 

「提督?失礼します、鹿島です」

「開いているから、入ってくれ」

 

言い訳じみた言葉と共に

ハーブティーを淹れて…

ついでに、ちょっとした()()を入れて

「よしっ」

 

「どうぞ、お召し上がり下さい」

「ん、いただくよ」

 

私の出したハーブティーを、

なんの疑いもなく口にする提督

 

「うふふっ」

「……ん、すこし、香草の香りが強いな…それに、薬膳茶みたいな感じ…」

 

かくん、と提督の声が途切れる

「即効性の睡眠薬と、

向精神薬の効果ですかね、

…疲れてると効きすぎると言われて、用量はすこし抑えているのですが…」

 

むしろすこし心配になる

 

用量はすこし抑えているのに、ここまで強く催眠薬が効くなんて、本来ありえない

やはり、実は気を抜けばすぐにでも眠ってしまうような極限状態で

催眠薬は単なる駄目押し…と考えるべきなのでしょうか

 

「お疲れ様です、提督」

 

執務机の上に崩れ落ちた提督を

ソファへと運び、寝かせて…

 

「膝枕ですよ…もっとも、本人には

みえていないんでしょけど」

 

そっと、頭を撫でる

 

「無理をしすぎて倒れてしまう前に

こうやって、無理にでも止めますから、安心してください、提督」

 

このままでは提督は

内向的なストレスを発散できずに精神状態を悪化させてしまう可能性があったから

すこし強引に止めただけ

 

「そう…役得なんかじゃないんですから」

 

我ながら呟く内容に

全く説得力を感じられないけれど

「やっぱり、こうしてみると

寝顔は可愛いです」

 

優しく頭を撫でながら囁く

「ずっと大好きでした、今までも、これからも、ずっと大好きです……うふふっ

聴こえてるはずないですよね

でも、言わせてもらいます

 

だって、起きてたら言えませんから」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。