戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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起床後

「………」

 

気が緩んだ瞬間に

唐突に眠気に襲われた俺は

多分限界が来ていたのだろう

 

一切抵抗できずにそのまま寝落ちしてしまった

 

「う…む…」

 

頭の周りが鈍い…思考がまとまらない

 

[ていとく、起きて!提督っ!]

 

なんだよ…こんな時くらい…

いや執務がある…

 

「うふふっ、いつまでも見飽きないです」

 

そつと、頭を撫でられる感触がする

 

…まさか…、単なる幻覚だ

 

「大好き、蒼羅くん」

その囁きを聞いた瞬間に飛び起きる

姉さんなら俺の名前は呼び捨てだ

つまり、別の誰かの言葉なのだから

 

「っ!?」

「きゃっ!」

 

ガバッと上体を起こして後ろを向き

 

「鹿島?」「な、何ですか?」

「いやなんでも…なんだ、単なる幻聴か」

 

再び上体を下ろして寝つき…寝付けるか!

「なんでお前がこんなとこにいるんだよ」

「こんなところって、

私の膝の上ですけど」

 

不服そうな表情になる鹿島

「…いや、すまん、なんでもない

失礼だった」

 

「いえいえ、良いんですよ

こちらも、久しぶりに提督の寝顔なんて見られましたから、うふふっ」

 

薄く笑う鹿島に、

謎の寒気を感じた俺は

その直後、俺の寝ていた位置と鹿島の膝の上という情報から、一つの結論を導き出した

 

「俺、膝枕されてたの?」

「はい、ずっとですよ…三時間くらい」

「うっわ!書類ガン無視しちゃってるよ!今日の提出分がやばいっ!」

 

慌てて机に向かう俺だが…

「あれ?ここにあったはずの予算申請と外出許可と間宮券の追加申請は?」

 

俺は首だけをあげて鹿島に問いかけて

 

「あぁ、それなら大淀さんが片付けてくれました、ニコニコ笑いながら

あと、机の左の棚、上から二段目に入れているそうです」

 

完璧な答えが帰ってきた

「了解、ありがとう、もう良いよ

…おっと、こんなのまで…」

 

塩漬け扱いのいくつかの書類

例えばドックの水質改善など

まで処理済みに入っている

 

「お疲れ様、大淀」

「……むっ」

 

大淀に感謝を送っていると

なぜか鹿島から不服そうな声が聞こえてくる

「なんで私にはなくて

大淀さんだけに感謝するんですか

私だって…私だって…」

 

ソファのシート面をツンツンとつつきながらいじける鹿島

 

桑嶋は根本的に明るい性格だったんだけどな…

 

そこまで考えて、

自分の思考を停止する

これは危険だ、記憶の中の人物と現実の艦娘を一緒に考えてしまっている

 

「…鹿島」

俺は努めて優しい声を掛けて

「なんですか?」

「ありがとう」

 

はっきりと礼を言う

「っ!どういたしまして」

 

途端にキラつく鹿島に生ぬるい視線を向けながら、机の書類が片付いた以上は

必要になってくる作業を想う

 

そう、食事である

 

「…はぁ、俺も艤装みたいに燃料補給してれば動けるようになればいいのに…」

「ダメですよっ!提督、良いですか?人の体は〜」

 

ボヤいただけの一言に猛烈に食いついてくる鹿島

 

お前はいつから練習艦から説教艦にクラスチェンジしたんだ?

「まぁ、飯は美味いから良いんだけどさ、それでも時間が取られるってのは大きいんだよな…その時間があればもっと仕事も進むし」

「人間性を仕事の犠牲にしてはいけません!それは過労死へと第一歩、仕事に人生を投げ込んだだけの生活に彩りはありませんよ」

 

「体験してきたみたいに言うなよ

鹿島はモテるだろ…それにローソン派遣店員とかに抜擢されるし、それだけ人気があるって事だ、俺はそんな事ねぇからな」

 

ゆっくりと首を振りながら

静かに言葉を返すと

 

「…はぁ……」

 

鹿島はなぜか沈黙する

 

side change

蒼羅side out

鹿島side in

 

衝撃的なお言葉を賜ってしまった…まさか提督、ちょっと前に『人気があった』と言われていたことも覚えていないの?

 

…提督のバカ

 

[ま、まぁ提督だって忙しいんですから、もともと興味のない情報なんて

覚えていませんよね]

 

私の中の鹿島は提督のフォローを始めているけど、説得力は皆無に近い

 

[提督のこと、好きなのに…そもそも意識されてないなんて…これじゃ言えないよ]

[諦めちゃダメです!まだチャンスはありますから!そうですね…今度は

手を変えましょう、今の方法が通じないなら、やり方を変えてリトライです」

 

やり方を変えて…ねぇ?

[どういうこと?]

 

私が問うと

すぐさま『鹿島』は答えてくれた

 

[それはですね、胃を掴めないなら財布を掴む…というのも手になります]

[財布…でも、鎮守府の経済体制は

提督自身が管理しているし]

[幾人かの艦娘の介在も確認していますから、そこに割り込むことも不可能じゃないはずです…うふふっ、ちょっとだけ

イケナイ事してる気分になりますね]

 

妖しげな表情の鹿島…実際、私よりも楽しそうにこういった提案を出してくる辺り

なかなか悪い女だと思う

[金銭管理に介入って、ちょっと無理筋だと思うわ、ほかには無い?]

 

[他の手ですか?だとしたら

古来、恋愛ごとに使われてきた技術の一つ、『お酒の力で既成事実作り』とか]

[ダメえっ!]

 

あらぬことを口走り始めた鹿島を

慌てて止める

 

[そんな、そんな事できないよ!

もっと別の方法っ!]

 

私が鹿島にリコールを飛ばしていると

提督からの声が聞こえた

 

「鹿島?どうした?」

「い、いえ、なんでもありません」

 

さっきのアレのせいで

恥ずかしくて提督の顔が見れない…

 

「あ、あの、私…もう帰りますね

お疲れ様でした!」

 

とっさに取り繕った言葉を絞り出して、さっさと執務室から出る

 

「………はぁ、はぁ…はぁ…」

 

だめ…すっごく緊張した…

[初心すぎませんか?桑嶋さん

…もうちょっと手練手管を学んで]

[だからそんな方向性じゃなくて

私は正当な手段を聞いてるの!]

 

呆れたような声にインターセプトしながら私は表情を取り繕い

軽巡寮へと戻った…秘書も任務もないのがこんなに嬉しいと思った日は

今までなかったし、きっと

これからも来ないだろう

 

「はぁ…恥ずかしすぎる…」

 

[なんで膝枕は良くて既成事実は

話をされるだけでダメなんでしょうか…

まぁ、ちょっとだけ邪道な気はするけど]

[邪道どころじゃないよ!

艦娘としてとかじゃなくて人としてダメだよ!]

 

再びの声に叫ぶ…きっと私は

しばらく提督の顔はまともに見られないと思う

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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