戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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穏やかな日

「はぁ…ひどい目にあった…」

結局艤装を持ち出した艦娘の体力に勝てずに戦艦に取り押さえられ、自分の艦娘相手に輝那や撫子を抜くのもポリシーに反するので

潔く諦めて逃げました

 

「…それでここにきたんですか?」

「そうだよなんか文句あるかよ」

 

「いえなにも、ございませんよ」

 

不服そうな声で返してくるのは

艦これ唯一の工作艦、明石

 

そう、ここは工廠なのだ

 

「どうせ私は巨乳に数えられない程度の乳しかありませんよっと

あ、そうそう、提督

以前計画していた艦娘用の大容量輸送槽ですけど、ようやく設計から仮組みに進めましたよ」

「おっ!?アレがあれば艦娘の資材輸送量は跳ね上がるぞ!資材の調達が

ぐっと容易になる」

 

普段は消し飛んでいる熱意を燃焼させて意気込んだ俺を、冷めた瞳で見つめる

明石は、薄く笑いながら吐き捨てる

 

「現実的には容積が大きくても

積載重量の限界が先に来るだけなんですけどね」

 

「それを言うなよ、それに

実用上の問題を解決して

使えないものを使える様にするのが俺たちの仕事だろ?初っ端から使えないと

言い切ってしまうのは良くないよ」

「そうは言っても、実際の運用において限界は発生してしまうものですし」

 

手をひらひらさせながら

こっちを見てくる明石

 

「そもそも、提督は今日の分の仕事、終わってるんですか?最近ずぅっと

忙しい忙しいって言って

メンテに来なかったクセに

こんな都合の悪い時だけ工廠に籠らないでください

 

おお、これは手厳しい

「一応終わってるよ?ただ、榛名はもうすぐ任期が切れるから、そのあたりの

予定を組むってあたりはまだ

…本人の希望を尊重することになるから、そこは榛名本人との話し合いが必要になる」

 

俺は言葉を…

特に作用もなく垂れ流しながら

静かな時を過ごす

 

「忙しいとは思うが、それでも

俺は鎮守府の環境改善の為になら

喜んでその重荷を背負おう」

 

「ん?なんかポエミーですねぇ

どうかしたんですか?」

「…いや、なんでもないよ」

ゆっくりと応えて、

手元のナットを緩める

 

もはや見慣れた艤装達を分解して

パーツを検分して、差し替えて

傷ついた艤装達を回復する

 

俺が艤装を『治す』と表するのは

艤装達が生きているからだ

どんなに壊されても文句ひとつも言うことはないが、それでも

独自の意思を持ったモノもいる

『艤装が勝手に動く』

そんな事を言い出す艦娘もいる

 

深海棲艦の艤装はより生物色が強いが、艦娘の艤装もまた金属で構成されるだけの生体であると知れれば

その差は軽微なものだ

 

「よし、これで綺麗に治ったよ

おつかれ」

 

装甲板の表面を撫でる

 

いつも出撃のたびに塩が張り付いて

白くなってしまうから

毎度洗うのだが、

今やそれすらも楽しみだ

 

「さて、次はなんだっけな」

駆逐艦の方に行こうか

それとも潜水艦の艤装をメンテしようか

 

潜水艦は特殊な艤装だから

ちょっとやり方が難しい

 

「お陰で三級の免許取るまでやらせてくれないんだよなぁ」

まぁ、俺は二級だから関係ないが

 

「よし、潜水艦のメンテやるか」

潜水艦の艤装はかなり小さいのだが

その中に水圧適合機能とエア交換機

推進用主機とタービン

 

さまざまな必要なものが詰まっている

その密度は極めて高い

[ふぅーん、なんか難しそう]

[難しいんだよ、いちいち機能があるせいで、迂闊に停められないしな]

 

潜水艦のメンテは稼動状態で

行うのが基本となるのだが

そもそも稼動状態の艤装は接触そのものが危険であり、当然ながらその

対策も必要となる

 

「まずはっと」

伊58、ゴーヤの艤装だ

 

「…すぅ、はぁ、よし」

俺は艤装に手をゆっくりと近づけて

防御が発動する寸前に手を止め

防御スクリーンが展開した瞬間に

その半透明な防御スクリーンに触れながら手を引く

 

あとは物理ベクトル反転の障壁が俺の手を、艤装の側へ引っ張り込んでくれる、

 

『木原神拳』と呼ばれる技術だが

原典(オリジナル)ほどのシビアな判定を要求してくるわけではないので

大体の技師は習得している

 

「よし」

この防御スクリーンこそ

耐水機能の源であり、同時に

潜水艦唯一の防護装備でもある

 

残念ながら資材エネルギーの密度が高い攻撃などはスクリーンが押し負けるので

弾くことはできないのだが

水圧や抵抗などに反発して

艦娘をそれらから保護してくれる…非現実的な艦娘の中でも、極め付けにおかしい装備

 

「さぁて、メンテ開始だ」

 

バラバラにしてやるぜ

[やっちゃえ、バーサーカー!]

[俺はバーサーカーじゃねぇっ!]

 

頭の中で叫び返しながらも

作業の手は止めない

 

「いつもながら手が早いですねー

私なんかとは大違いですよ」

「まさか、明石の方がすごいよ

俺がやっているのはメンテであって

明石みたいな装備改修とかは出来ないからな」

 

実際、俺が新型装備の開発とかやっても、それが実現可能なケースは少ない

艦娘、妖精の技術的レベルはあくまでも第二次世界大戦の終結前なのだ

その時期に存在していた技術

あるいは、存在する可能性があった技術でなければ、根本的に習得できないし

使用することもできない

 

不思議な特性であるが、艦娘が

太平洋戦争の時期から第二次世界大戦期の軍艦を擬人化したものである以上は

その時期に固定されるのも

納得である

 

「えっと、これでよし」

伊58の艤装修理、メンテ完了

次はっと、伊9行くか

 

結局その日はずっと明石と一緒にメンテしていた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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