戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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エスポワール

「で、提督、書類については終わっていますが、仕事が無いからとゲームばかりは良くありませんよ?」

 

「大淀…すまん、その」

「なんですか?具体的に、一言で、簡潔に」

 

すっかり厳しくなってきた大淀のメガネの輝きに視線を合わせて…

「明石の用意してくれた入渠時間対策のゲームなんだけどさ、アレの魔杖グシギ・バギン無くなっちゃった」

 

具体的に、簡潔に、一言で

用件の要点だけを伝えた

 

[情報端折りすぎだよ!それじゃ伝わんないよ?]

[大丈夫だよこれで通じる

それに通じなくても伝えはしたから『あの時謝った』って言える!]

[それはひどいよ…言い訳だよ]

[言い訳上等!」

 

我ながらひどいセリフを吐き捨てながら頭をあげた

 

「グシギ・バギン…?あぁ、あの杖ですか」

 

どうやら大淀、三日前の凡そ30分間の事を覚えていたらしい

 

「提督」

「はい!」

「………必要な事でしたか?」

「あぁ、必要だった!」

 

[うわっ、躊躇なく言い切ったよ]

[知らない事だったし、事象の最初の発生は止められない、だからそれを知るために必要な犠牲だったんだ、いいね?]

[ゴリゴリの勢い説得は流石に無理があるって…アッハイ]

 

川内は俺の熱い視線に説得された

…決して圧力なんかかけてない

 

「わかりました、なら私が咎めることはありません」

はぁ、というため息ひとつで

大淀は許してくれた

 

「ありがとう、淀っ!」

「私は大淀です!淀だと信長の妻になりますよ!?」

()淀、ありがとう」

 

改めて名前を呼びながら

執務室の扉を開ける

 

…仕事は終わったし、ゲームも禁止、食事も済んでいる、ならメンテ…と行きたい

ところだが

そろそろ榛名が来る頃だ

 

「っ!提督、急に扉を開けられると榛名、驚いてしまいます」

「好きなだけ驚け…いやすまんな、つい性格の悪い事を言ってしまった…ほら、入ってくれ」

 

たまたま扉の前にいたらしい

榛名はちょっと驚いたらしい

 

軽く笑って榛名を引き入れる

…最初の無表情やらぼんやりした笑顔やらより、よっぽど素敵な表情だ

 

「提督、榛名の出向期間はあと三日で終了です、その事についてのお話があって参りました」

「あぁ、わかっているよ」

 

ゆっくりと応える

「…榛名は…『私』は、決め兼ねています…私は、ニ佳裏鎮守府に帰るのか

それとも異動申請を出して、ここに正式所属するのか、その道の分岐点に立っているとわかるのに

榛名は答えを出せていません」

 

「その答えは、君自身の中にしかない、だが俺としては」

 

そっと、榛名に手のひらを向ける

「君は元の鎮守府に帰るべきだと思う、榛名、君はこの鎮守府で何を見てきた?

君はここでの生活に何を感じた?

共に戦った経験は、君に何を与えた?その答えがわかるのなら、君は元の鎮守府で『希望』になれる」

 

「榛名は…榛名は……」

 

俯いて黙り込む榛名

 

「……………」

「……………」

 

 

俺はそのまま黙して待つ

これは榛名の決断だ、決して時間や圧力、上官の言葉に方向を定められてはならない

 

榛名が『艦娘:金剛型高速戦艦 三番艦榛名』としてだけではなく

『榛名』という一個人として、

自らの道を選ぶ、その始まりなのだから

 

「……榛名は、ニ佳裏に戻ります」

「…その、心は?」

 

ゆっくりと待っていると、呟くような声が聞こえる、その言葉に問いを返す

 

「榛名は」

 

そこで言葉を切り、

「榛名は、この鎮守府で、たくさんの経験と愛をもらいました、だから私は

暗いままのニ佳裏を照らす『希望の光』になりたいんです!このままここにいるのは楽です、でも私は

あの子達の表情を、以前の榛名の表情を忘れられません!」

 

叫ぶ、

……それだけの想いがあれば

十分だろう

 

「よく言った、榛名

よく成長した、よく、勇気を出した」

 

涙を流す榛名へ、手を伸ばすと

「提督っ!」

 

榛名が飛び込んできた?!

「榛名は、私は!いつか必ず

帰ってきます!その時は、また『提督』と呼ばせてください!」

 

「あぁ、わかったよ、榛名

それじゃあ、三日後から、君はニ佳裏鎮守府に帰って、そこで君の想いを広めなさい

 

その道は、きっと遠く、険しいけど

その先には未来がある、光がある

榛名を再び艦隊に編成するその日まで、俺は待っているよ」

 

抱きしめた榛名の、耳元に囁く

 

「はい!提督!

どんな暗い道でも!榛名は大丈夫です!」

「そうか、頑張ってね、榛名」

 

一度強く抱きしめてから、手を離す

 

「随分仲が宜しいようで」

「大淀っ?!」

「大淀さん!?」

 

突然横から出てきた大淀に

さっきまでの感動が綺麗さっぱり吹き飛んでしまった

 

「不健全な関係にはならないんじゃないんですか?提督?」

「どこが不健全なんだ?言ってみろおい、上官の名誉を毀損するなよ」

 

「では、上官の名誉のために一言…当てられてますよね?」

 

大淀の淀みない一言は

その感触を意識させて…

 

「っ!榛名離れてっ!」

「提督?」

 

理解ができていない榛名と

榛名を引き離そうとする俺と、ニヤニヤ笑っている大淀が状況を収束させるには

実にニ時間を要したのだった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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