戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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テクニシャン

「まさか時雨まで要求してくるとは思っていなかった…まぁ手間はあまり変わらないし…別にいっか」

 

執務室に入り(ちゃんと飛散対策のシートは用意した)正面に視線を向けた所

「うぉ、お前らもういたのか」

 

時雨も夕立も揃って待っていた

 

「さぁ、提督 約束通りにトリミングしてもらいに来たっぽい!」

「僕も一緒に、髪を梳いて」

 

夕立は定期的にやっているが

時雨が来たのは初めてだ

 

それにしても

「お前は随分グイグイ来るようになったな…まぁいいけど」

 

少し呆れながらも、そこまで構うことでもないと判断した俺は、

さっさと各道具類を取りに向かう

 

「じゃあ道具とか用意するから、お前たちはそこの椅子に座って待ってな」

「わかったっぽい!」

「うん」

 

俺が秘書艦用の椅子を指差してから

執務室を出る

 

「………」

仕事用に意識を切り替えて

まずは深呼吸、

 

然るべき道具を取り揃えるために

急ぎ足で進み、雑務用の管理室に

向かう

 

「……よし、これでOK」

道具類の用意を終えて、

執務室へと戻ると

 

何やら話し声が聞こえた

 

「楽しみっぽい?」

「それはまぁ、ね、夕立がそんなに楽しそうにしてるんだから、僕も楽しみになるさ」

 

その一言の後は二人して沈黙したので、俺は会話の途切れた後で執務室に戻り

 

「ほいよ、っと

まずは夕立だ、さ、こっち来て」

 

先約の夕立の方に手招きする

 

「っぽい」

相変わらずの返事をして来た夕立は

吸い込まれるように近寄り

ぼふん、と椅子に座る

 

「いいか時雨?」

 

とりあえず準備を進めながら

俺は時雨の方に声をかける

「トリミングってのは、本来の定義的にはいわば散髪なんだが、艦娘の髪型は基本的に変わらない。だから髪を切ろうが染めようが

すぐに元の形に戻ってしまう」

 

夕立の髪を濡らして梳き、指にとって状態を見ながら言葉をつなぐ

 

「くすぐったいっぽ〜い」

 

傷んだものだけを選別して

少しずつ取り除いていく

 

「だが、艦娘の髪とて完全に固定されているわけでもなければ、汚れないわけでもない」

 

髪型は崩さないように

入渠すれば髪は戻るが、そこまでの間、あんまり大きく変えるような事はしたく無い

 

「だからこうやって、傷んでしまっている枝毛などを揃えてやるんだ」

 

時雨に向けて話しながらも、夕立の調子や状態を確認しつづけ、

彼女自身の一番綺麗な形に近づけていく

それはある意味でメンテナンスに近い行為だ、違うのは対象が艤装か、本人か

それだけの話

 

「へぇ……」

 

時雨の呟きに、笑って応じる

「トリミングっては、本来は除去を意味している単語だ、犬や猫、そういった動物たちは体表を洗っても毛や地肌についた汚れや細菌は取れないことが多い

だから、こうやって定期的に毛を切って、古い毛を除去してやる

それから綺麗に洗って完了だ」

 

時雨に視線をやりつつ、

人差し指を立てる

 

「正確には髪を梳くのは『グルーミング』という、まぁ、知らなくていい事だけど」

 

時雨にちょっとした解説をしつつ、夕立の頭を弄る、側頭部を浅めに指で

グリグリしてやると喜ぶのだ

 

その他は全体的に優しく、フェザータッチで触れられることを好む

 

「よし、これでいいかな?」

 

時雨が興味深そうにこちらを見て来るので、少しばかり解説を続ける

ここ最近の実体験も含めての話だ

 

「髪型は入渠すれば戻るが、そこまでにコストがかかるのもあって、

そこまで大規模に切らないことが多い、あと…実は髪染めも試して見たんだが

どんなに頑張っても約二時間しか保たなかった」

 

「そっか…」

時雨は髪染めのあたりに興味を示したようだが、すぐに残念な結果を聞いて落胆していた

 

「残念ながら、な」

 

傷んでいる部分の除去を終えて

一度全体を確認し、

 

「よし、これで終わりだ」

 

最後に軽く頭を撫でる

「ほれ、お前も来な

お望み通り髪切ってやるよ…夕立、寝るな」

 

[いつも切り終えると寝てしまう癖はどうにかならないのかな…]

[なったらもうとっくにしてるさ]

 

頭の中で川内とも話しながら

時雨を招く

 

[提督、椅子占拠されてるよ]

[…あ、まぁアレでいいだろ]

 

とりあえず執務室にある

提督用の椅子を動かして、シートの上に配置

 

「これでいいかな?座って」

「うん」

 

再び手招きして

時雨を椅子に座らせる

 

「よろしくお願いします」

時雨は何やら緊張した様子で挨拶してくる…ちょっとかわいいな

 

[てーいとくー?]

[可愛いから可愛い、何が悪い]

[そこまで堂々と言いきる…?まぁ確かに、可愛いけどさぁ…]

 

川内も認めてくれたようなので

まずは軽く笑いながら

 

「ははっ、すぐ終わるよ」

 

軽口を飛ばしつつ、先ほど置いた道具たちを再び移動する

 

「それじゃあ髪、触っていくよ

まずは水気を付けて、髪を整えやすくしてから、状態を見極めるから」

 

ゆっくりと、説明口調で告げる

「うん、提督」

 

聞いているのか不明だが、まぁ頷いているので良しとしよう

 

「それじゃ、始めるよ」

スプレーで水を打つ前に、まずは髪質を確認する、それによっては必要な水、櫛入れも変わるから、これは重要なのだ

 

「んっ」

「どうした?」

 

俺の指が触れた瞬間、時雨がわずかに震える。それは髪に触れられることに恐怖感、嫌悪感が先立つタイプの反応に似ていて、

俺は一瞬、手を止める

 

「なんでもないよ」

 

「そうか」

 

しかし、時雨はすぐに平静を取り戻したので、俺も追求はしない

「あっ…ふぁぁっ…」

 

そっと指を動かすだけ、それだけで時雨はすぐに反応を返してくる

 

[随分な感度…何かしたの?]

[何もしてない]

全く、そんなこと言ってやるなよ

単なる体質とかそんな事かもしれないだろうに…

 

しばらくは時雨の髪を梳きながら

じっくりと髪質を見極め

少しずつ切っていき

最後に、後ろ髪に到達する

 

「んぁ…んくっ」

 

なんか声が艶めいてないか…?

 

まぁいっか、仕事用に切り替わった意識なら少々の色気に動じはしない

 

「気持ちいいかな?時雨」

一応確認のために、

頭皮を軽く揉みながら尋ねる

 

プロには及ばないが、技師科としては習得必須の対人修復技能、整体の

マッサージの一部なのだが

この際だし、少し実験させてもらって、腕が錆び付いていないかを確認しておこう

 

「気持ちいい…提督…もっとして…」

「承った」

 

ぼんやりと薄れた表情の時雨に

ちょっとやりすぎたかな?と考えながら、時雨自身のオーダーに応える

まぁ技能士として、自分の術に満足してもらえるのは嬉しいし、多少はね?

 

結果的には

寝入ってしまった夕立が起きるくらいまで、ずっとやっていた

 

[そのあと滅茶苦茶整体した

って奴でしょ!]

[言い方が悪いっ!]

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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