戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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イヤーズホールド

翌日、

 

「……メンテもあれば日常もある

深海棲艦も騒ぐってもんかね…」

 

俺は各海域から押し寄せてくる深海棲艦どもを抑えるのに必死で予定調整を行っていた

 

「提督」

そこで執務室に入ってきたのは天龍

「…?どうかしたか?」

「どうかしたかじゃねぇよ、お前暫くまともに寝た日があるのかよ?」

 

「…少なくとも3時間は寝ている、問題ない」

「問題大有りだバカ!飯も不規則になってるっつうし、それが指揮に響いたらどうするつもりだったんだよ…まぁその前に止めるけどよ」

 

天龍は俺に近づいてきて

艦娘の疲労や入渠を計算に入れた

過密かつ無理のないスケジュールを設計していた俺を持ち上げた

 

「ぬぉぉあっ!やめろ天龍!」

「前に行ったろ?俺は提督がやらかしそうになったら首根っこ掴んでも止めてやるって」

 

それは絶対そういう意味じゃない

という俺の抗議も聞き入れられず

俺は食堂に連行された

 

「まぁったく、いっつも無理してやがるせいでどんくらい無理してんだか分かんねぇ

一番怖い状態だぞそれ

…前にわざわざ怒られた事忘れてねぇよな?」

 

きびしい、だが不思議と冷たくは感じない声が俺に注がれる

 

「…忘れては無いよ、だがそれとこれは別の話、俺が無理をしなきゃならない時は

例え誰に止められても…」

「だーかーらっ!それが分かってねぇんだよ!」

 

首を掴まれてガクガク振られる

「ぬぁぉぁあうぉ…」

「お前が無理しなきゃならない時なんてのはあっちゃならないんだよ!仮にあったとしてもそれの頻度は低くなきゃいけない

今みたいにずっと無理をしてたら

いざ無理しなきゃならないって時に体力切れで動けなくなるぞ」

 

聞き分けの悪い子供に対する脅しのような手法だが、それはそれで有効なのは確かだ

 

「ここ最近は大淀と軽巡棲姫と秘書妖精のおかげで随分マシになったんだけどなぁ…」

 

「その分書類が増えちゃあ結局変わらないだろ!まぁったく…」

 

天龍は俺の後ろに回って

俺の肩に頭を預ける

「良いか提督、お前はオレたちにとっての要なんだ、お前がしっかりしててくれないと、オレたちまでヘタっちまう、普段の鎮守府はオレたちで支えるから

提督はもっと楽をして良いんだ

……な?」

 

耳元に、優しく囁いてくる天龍

 

「あら〜?天龍ちゃんまで

提督口説きかしら〜?」

「龍田っ!?」

 

天龍はさっと飛び跳ねるように去り

代わりに龍田が、俺の後ろに立つ

 

「天龍ちゃんは・わ・た・し・のものですからね〜…提督も、わたしのですよ?」

 

最後の一言だけは、誰にも聞かれないように、囁いてくる

 

「………」

全力で無表情を取り繕うが

流石にそれは不自然だとか思われるため

すぐに顔を戻す

 

「提督、私の声、聞こえてますか?」

「聞こえてるよ」

 

龍田に胸を押し付けられながら

間宮待ちとかいう絶望的過ぎる時間を過ごした俺は、もう何も怖くなくなった

 

「はぁい、それじゃあどうぞ」

結局、間宮さんが朝(?)食を用意してくれたあたりで、龍田が引き下がった

 

「また後で、ですよ、提督」

最後にちろっと耳を舐めて

足取りも軽く去って行く

 

「……………」

 

まさかあんなアグレッシブな事をしてくるとは思いもせず、少々固まってしまった

 

「提督?どうかしましたか?」

「いや全くなんでもないよ」

 

普段の笑顔を作り上げて

俺はとにかく頭をリセットする

 

「…よし、オーケーだ」

 

その後は無心に食事をを摂り

笑顔でこちらを見つめる間宮さんにレビューを伝えてから食器を返却し

食堂を出る…

 

向かった先は、執務室だ

「今日の分の仕事と昨日の分の残りもあるしなぁ…」

 

まぁ昨日の分は大した量ではないし、大淀があればなんの問題もない程度だ

 

「予定構築完了っと」

 

一応午後の5時までに書類仕事が終わるようにスケジュールを組んでおく

今日は大晦日だしな

 

「それじゃ…やるか」

執務室にたどり着き、

書類の束を手に取る

 

いつも通りの内容や、形骸化しているものは大淀に回す用よ箱に入れて

重要なもの、見覚えのないものは

内容を精査する

 

「秘書妖精」

(はーい!お久しぶりです!)

 

パアッという光とともに、秘書妖精が出現する、それにはもう慣れたので

リアクションせずに…

 

「悪いが、大淀を呼んでくれないか?仕事が多い」

 

簡潔な説明で、出来の良い秘書妖精は事情を理解してくれたらしい

再び光を撒きながら消失した

おそらく妖精特有の瞬間移動的なものなのだろう

 

「さて…なんだこれ?」

重要っぽい書類だなぁ…中規模作戦参加要請?

 

「却下」

今はそんな事をしている余裕はない

中規模作戦ともなれば、かなりの量の資材を食われる

 

それに、今の鎮守府の情勢的に、複数の鬼、姫を短期間で討伐している鎮守府なのだから、当然深海側からのマークも厳しいはず…

 

現状、それだけにかまけるわけにはいかないのだ

 

「今回の勲章はパスで行こう」

呟きながら俺は書類を参加拒否で処理する…あんまり参加拒否が重なると

鎮守府としての意欲的活動が認められないと指摘される可能性があるが

海域の維持だけで精一杯なのだ

 

この決断も仕方ないと言えるだろう

 

「提督…失礼します」

控えめなノックの音とともに、

大淀が執務室に入ってきた

「大淀か….悪いけど呼ばせてもらった

そこの箱に入ってる奴は『いつもの』だから、いつも通りの処理でお願い」

 

「はぁ…わかりました」

明石のネジ購入申請やら一部馬艦娘の予算申請などを、一瞥で却下していく大淀

 

[仕事できる女!って感じだね〜]

[実際仕事してるしな…まぁ無駄口叩いてる暇ないぞ]

 

深海組は鎮守府に受け入れられているかどうかの意識調査報告書

(by空母棲鬼)

やら

 

一部艦娘の提督に対する要求のまとめ

by英国式高速戦艦一番艦

などのアンケートやリストの表を見ていき、その内容を頭に叩き込む

 

…後半は無視してよかったかもしれない

 

しかし、霞がわざわざ匿名で

俺の料理を食べたいと言い出すとは思っていなかったが…なぜわかったって?

『クズ提督』って書いてあれば基本誰にでもわかるだろ?

 

如月が記名でキスしてほしいとか書いてるんだけどこれは良いの?

いつもの挑発なの?

それともガチなの?…とりあえず俺は前者だと思うことにしよう

 

「深海組については…うんうん

やっぱりビスマルクはちょっと抵抗感あるか…他には…あぁ〜まぁ

レ級にトラウマあるっていう初霜は仕方ないかな…」

 

昔レ級の主砲で一発大破したのがトラウマなんだそうだ、パンチアイのような

動きが止まってしまう状態を引き起こしていたが…それは結局慣れだしなぁ

 

「俺にはどうしようもない…

里見くんに頼むか」

 

トラウマ改善だしなぁ、

俺には物理的外傷しか直せないのだから

妥当ではあるが

同時に俺の艦娘を他者に任せてしまうような責任放棄の感はある…ううん…

 

「本人に話してみるしかないか…」

とりあえずアンケートを『重要資料』扱いのファイルに入れて

 

次だ………




イヤーズオールド(年齢)に…龍田さんの耳舐めをかけて

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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