「今日の分の書類仕事はこれで終わりだ…おつかれ、今年一年ありがとう」
最後の一枚にサインを書き終えて
隣の大淀に礼を言う
「いえいえこちらこそ…今年は、私たちにとって、激動の一年でした」
「激動の…ね」
技師として着任した俺が
半年後には提督になってるなんて、本当はありえないとすら言える処置だ
「いくら甘粕提督が非道だからと
ブラック鎮守府を皆あのような手法で闇に葬っているわけではないはずだ
それを無理やり引っ掻き回しただけなんじゃないかと思ってしまうな…」
ふと、言葉を漏らすと
大淀は飛びついてくる
「そんな訳ありません!無理矢理引っ掻き回した?無理矢理で結構!
強引な手法を取らねば、巧妙に隠されたブラックは表出しませんから…提督が
それを暴いてくれたのです、提督がブラック鎮守府に擂り潰されていただけの私たちを救って、その輝きで照らしてくれたのです!」
俺の手を取って、強く握りながら
俺に向けての、感謝を伝えてくれる
忘れられやすい所だが、大淀だって十人中八人は振り向く美女である
残りの二人?
ロリコンなんじゃね?(適当)
「大淀…」
俺のつぶやきと困惑の表情を
どう受け取ったのかわからないが
大淀は徐々に身を寄せてきて
「提督……」
「いやそんな流れじゃないから」
華麗にスルーされた
「ていとくっ!?ここまでお膳立てしてスルーですか!?」
「職場内に不健全な関係は持ち込めないんだすまないなっ!」
意地でもと言わんばかりに俺の腕を掴む大淀に、パワーで競りながら叫ぶ
「男女間の交際は不健全ではありませんっ!極めて生物学的に正しい行為です!」
「生物学と倫理は別側面であることを忘れているようだなぁっ!」
大淀と押し引きを続けて…
「「あっ」」
不意に、体勢を崩した
「おわっ!」「きゃっ!」
こちらに倒れ込んでくる形になった大淀を受け止めて、そのまま、背中から転倒する
ガスン!と言う音とともに
かなり強く背中を打った…が
軍服はその対衝撃性能を発揮して
かなりのダメージを防御してくれた
それでも痛いものは痛いが
その辺りは男の見栄というか努力というか…何かそういうもので我慢する
「大丈夫か?大淀」
「はい…なんとか…でも…」
受け止めた姿勢のままで
大淀の方を確認すると、
俺の方を見つめる大淀と目が合った
「しばらく、このまま動きたくないです…」
ぎゅっ、と俺の上にしっかりと体を乗せてくる大淀
「ぅっ…………」
[なんか最近みんなグイグイ来てない?押しが強まってるよ?]
[それは俺も思う…なぜだ…]
[そんなの提督への想いが深まってるからに決まってるじゃん!提督のバカッ!]
川内に罵倒されながら大淀をどかそうとする
「大淀…どいてくれ」
「…ダメですか?」
わざと乗ったままなのは分かりきっているが、流石に放り投げるわけにはいかない
「ダメだ、早く離れてくれ」
「…そうですか…仕方ありません」
以外にもあっさりと諦めた大淀は
すっと俺の肩に手を回して
「…提督、最後ですから、ちょっとだけ、です…」
甘えた声とともに、抱きしめてくる
「提督は優しくて、公平で、誰に対しても温かく接してくれる、だから…
だからみんな、提督に受け入れられて、暖かい思い出をもらえるんです
それが桜色に染まるのに、時間は要りません」
メガネを外した大淀は
その水色の瞳で俺を直視する
「提督からもらった思い出を、提督への想いに変える、提督が
優しく告げてから、俺から離れる
「…………」
「今ここで、このチャンスに乗って言わせてもらいます…提督、例え職務としての『提督』のみの提督だとしても、私は提督をお慕い申し上げております」
上体を起こした俺に、
手を差し伸べてくる大淀
「ちょっと、卑怯ですよね…いいんですよ、気にしなくて、考えなくて
私の想いはここで捨てて終わり
今年が終われば、またいつもの大淀です」
その笑顔は、どこか寂しげで
『提督』として、
それを放っておくことは出来なかった
「大淀…」
「提督っ?!」
俺は差し伸べられた手を取って
「俺はあくまで提督だ、だからお前個人を、神巫蒼羅として愛することは出来ない」
「やっぱり、ですよね」
メガネのない深水の瞳を
見据えて、
そこに薄く掛かる涙の色をみつめる
「…だけどさ、それはあんまりだ、俺は艦娘を泣かせたいわけじゃない
…今回だけ、原則を曲げる
シンデレラの刻限までだ」
「ていとくっ!」
大淀が飛びついてくる
「あらあら〜?聞いちゃったわ〜♪」
ガチャリ、と扉が開く
入って来たのは…声の通り龍田
「…どういうつもりだ…龍田」
「どうもこうもないわ〜?提督が艦娘を愛するってことは〜、みんな平等に愛してもらえるってことよね〜?」
「っ!」
その一言は、俺にとってあまりに絶望的な響きを伴っていた
「マズイ…」[ヤバイよ提督!]
あまりに大淀がアレだったせいか
それとも俺が揺らぐことそのものが狙われていたのか、それは分からないが
とにかく龍田に狙われていたのだ
それはつまり…
「僕たちも聞いてるってことだよ」
「館内放送で流れてマース!」
時雨と金剛の二人、さらに
「あはは…聞いちゃいました…」
「私たちはその、戦力に関係ないですし…」
間宮と鳳翔、続々と増えて行く艦娘たち
「聞いたぴょん!シンデレラの刻限って随分ロマンチックぴょん!」
ニヤニヤ笑いながら近寄ってくる卯月
「提督も可愛いところあるじゃん?」
鈴谷たちが
気づけば10人を超えたメンバーたちが執務室に集まっていた
《ちゃーんと愛してね♪提督っ♪》
俺は…選択を間違ったのかもしれない
でも、悪い結果にはならない
そんな気がする
俺が意志を強く保ち続ければ
何も問題はないはずだ…
そして、色々と出される要望やらなにやらに応え続けて(大半は応えられないものだったが)もうじきに、年を越すという所で
「年越しそばを作ってますから、みなさんどうぞ♪」
間宮さんと鳳翔さんが
年越しそばを配布し始める
「それじゃあ皆さん、私は短い間でしたが…今年一年ありがとうございました、
来年も、よろしくお願いします」
年越しのカウントダウンに入り
鳳翔さんが口火を切る
それに便乗する形で
「今年一年、みんな、ありがとう
来年もよろしくお願いします!」
《ありがとうございました!》
全員での斉唱となった
しっとりした大淀さんはどうでした?
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