戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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決意

「捉えたっ!」

「マケナイ!」

 

「主砲!撃てぇーいっ♪」

「よりどりみどりっぽい!」

 

航空戦は拮抗し、制空はどちらにも傾かない、そしてそのまま

砲撃戦フェーズに移り

攻撃が放たれる

 

超強力な主砲を複数備えているわけでもないタ級相手なら、いかにフラグシップでも超反応持ちの愛宕の短期攻略は難しいだろう

 

「俺達がやるべきは…戦場全体の状況のコントロールだ」

「はい!」

 

赤城と共に、互いの艦載機を操りながら闘う

相手はヲ級のフラグシップ

不足無しどころか、こちらの役者不足を案じる話である

 

「ヲ……ヲ…」

 

すでに発話を放棄したらしいヲ級フラグシップは全力で残った20機ほどの艦載機を制御し始め、その精密かつ多彩な動作は

赤城の放った烈風を押し戻す程になっていた

 

だが、それはあくまで航空戦での話、全集中力を航空戦に傾けているヲ級は

立ちっぱなしになっているので

その隙を狙い……

 

「っぽい」

 

集中…狙撃!

 

「グガァッ!」

絶叫と共にヌ級似の帽子の方が爆散、ヲ級は…ガクっと崩れ落ちた

 

「死んでないか?」

「クリティカルですね」

 

どうもアレがクリティカルらしい

……そんな弱点ヒットみたいな物なの?崩れ落ちたんだけど

 

「……ヲ……ヲ〜」

目から光が消えてる…

 

「なんか可哀想になってくる…」

まぁ、敵だから仕方ないけど

 

「…ヲ級!貴様ラ…ッ!」

 

目に憎悪の炎を灯したタ級が、なんと単体で砲撃戦フェーズを二巡する能力を発揮

再度砲撃してくる

 

「んだとぉっ!」

「提督…貴様カラダ!」

 

「させませーん」

「やらせないっぽい!」

 

全力砲撃に対応する駆逐艦二人

無邪気な笑顔で砲撃ブッパな辺り、なかなかサイコだと思う

 

「…砕ケッ!」

 

へ級も対空攻撃を開始、俺の零戦五十二型は次々に撃墜される…高価いのに

 

「落とされる方が悪いって言われますよ?まぁ航空戦が終わったので

私にやることはありませんけど」

 

「そうか、そんなもんか?…資材管理側からは悲鳴が上がるな」

 

大淀のお叱りを覚悟しないとな

…甘んじて受けるべきか

 

「考エ事ガ出来ル余裕ガアルノカッ!」

「あるよ」

 

だってその攻撃は、

俺たちが誘導しているんだから

 

「準備は万端よ、突撃します!」

 

開戦から派手に動く他の艦に対し

五十鈴は最低限の攻撃のみにとどめて身を潜めていたのだ

 

「すべて、この一撃の為に」

 

「何…グァァッ!」

 

タ級フラグシップに

相対的には貧弱でも、十分な火力を備える五十鈴の砲撃が突き刺さる

 

「……ふぅ……」

 

息を吐く…流石にフラグシップ戦艦のオーラは体に悪い、寿命も縮むというものだ

 

「…だからといって、負ける気はしない」

「ぴっぎぃ!」

 

[いくよ、提督][いっくよー!]

[了解][ぴっぎぎぃいっ!]

 

頭の中だけで会話を済ませ

意思を統一する

 

そして

 

「速き事…」[島風の如く!]

 

全力加速での突撃、俺が最も得意とする戦法であるのと同時に

島風が得意とするスピード戦を相手に強いる戦術だ

 

「支援するよ!」

ずっとハ級を抑えていた鈴谷が砲をこちらに向けて、それを察した俺は

コースを要求して.首を傾ける

 

『首横を通して相手の顔面に叩き込め』

つまり、そういうことだ

 

「っ!」「ッ!」

 

鈴谷なら絶対に通すと信じている

だからこんな危険なことが出来る

 

一瞬の後

 

鈴谷は俺の無茶振りに応えてくれた

 

轟音と共に首横を通り過ぎる砲弾をブラインドとして、再び加速

 

「この距離なら!弾幕は張れないな!」

「バカナ!貴様死ニタイノカ!」

 

タ級とて戦艦であり、フラグシップ

意地も矜持も捨てはしない

その予測通りに、格闘戦に乗ってきた

 

「全艦に通達!こいつは俺が殺る!みんなは他の艦を!」

《了解!》

 

もはや躊躇もなく

俺とタ級を無視する艦娘たち

 

「愚カ者メガッ!」

「それはどうかな?」

 

海面を揺らしながら

拳と脚が交差する

 

身長の高いタ級のすらっとした白い脚が俺の首を狙えば、腕を立てて弾き

その勢いのままに俺の加速を乗せた拳がボディに突き刺さる

 

「貰った!」

「マダダッ!」

 

飛び膝蹴りを叩きつけた俺は、勝利を確信して…その一瞬の後に、天地が反転した

 

「私ガ柔道ヲヤッテイルトハ…思ワナカッタカ」

 

艦娘とは違って、儀装を付けていようと、生身部分には浮力はない

そのまま水に沈みそうになり…

 

「死ネ」

こちらに向けられたタ級の主砲の砲身を見据える

 

「…まだだよ…」

即座に深海の力を全力で引き出し

発生した浮力で、

ビート板のように水から飛び出す

 

「ハァッ!」

「ヌガッ!」

 

[提督っ!戻ってきて!]

[まだ、俺は大丈夫だ!]

 

左腕に生成された主砲(大顎)をタ級に向けて…驚愕に染まった顔を喰い千切らんとする

 

「うぉぉっ!」

「ッ!」

 

そこに、駆逐ハ級が飛び込んでくる

身を挺した防御によって、大顎による捕食攻撃は失敗に終わり…しかし

駆逐ハ級後期型を1匹、喰らったという明確な戦果を残した

 

「ハ級ッ!馬鹿者!」

「まだ…モウ一度!」

 

「サセン!」

 

リ級が鈴谷に撃たれた腕に構わず

残った片方の艤装で主砲を発射

俺の腕の顎を弾き砕く

 

「ぐっが…ぁぁっ!」

瞬間、激痛が走る

まるで腕の骨肉を引きちぎられたような激痛が

 

[提督っ!]

「構うナっ!」

 

「流星隊!突撃!」

赤城の奇襲に対応できずに、隻腕のリ級が爆散する

 

「サラバ…!」

爆発した艤装から黒煙が上がり

 

「クッ!」

その中にタ級が飛び込み、ヲ級の首を加えたハ級が後を追う

 

「リ級の仇…!」

 

へ級が絶叫を上げ…絶望的なまでのオーラを撒き散らし始める

 

「ウォォォ…………ウォォッ!」

 

その声は広がることなく…周囲に残留して、濃度を上げていく

 

絶望の呪詛は死を歌う

 

友の亡骸を踏んで進もう

敵の骨を砕いて歩こう

 

我が敵の心血を海に撒き

我が友の永の慰めとせん

 

「…殺ス…」

 

オーラはやがて黒く凝り、固まって

新たな艤装を作り出す

 

「ガァォァアアッ!」

 

すでに存在する艤装を噛み砕くように取り込み、へ級自身もさらに肉体部分が人型に近づいていく

粗雑な造形だった頭部は仮面のようではあるが美しい顔になり、

暗かった色素は薄くなって

下半身丸ごと殻のようだった艤装は、はっきりと両足の装甲へと変わっていく

 

 

「なんだ…それ」

そんな変化は今まで確認されていない、と動揺する俺に、鈴谷が警告を飛ばしてくる

 

「アイツは未知の敵になった!再識別の要ありと判断するし!」

「提督!離れてください!」

 

愛宕の声と同時に、それに反応したらしいへ級?が突撃してきた

 

「きゃあっ!」

「ヤバっ!」

 

重巡二人も全力で回避するが、

凄まじい速度を叩き出したへ級は

体当たりのように鈴谷にぶつかり

 

一瞬にして鈴谷は大破に追い込まれる

 

「っ!」

「提督、みんなを連れて逃げて!」

 

鈴谷の絶叫と同時に

装甲が損壊していく

 

中破するときは『闘争本能の発露』により、一時的な興奮状態が発生して

カットイン発生率が上がるのだが

 

大破した艦娘は性能がガタ落ちする、

体に限界がくるのだ

 

それでもなお、鈴谷は

一人で残る道を選んだ

 

自らを捨て石にして、未知の敵の情報を少しでも伝えろと、そういったのだ

 

「鈴谷!」「行って提督っ!」

 

悲鳴じみた叫びとともに

鈴谷は、激しく低下した性能で出せる全力で前進、戦闘機動を取る

 

「ウォォォッッ!」

 

当然、敵の的にされながらだ

 

「鈴谷!お前こそ退がれ!」

「提督!鈴谷さんの想いを、無駄にしないでください!」

 

配置を逆にするべく進もうとした俺を引き止めるのは、血を吐くような五十鈴の声

 

「っ!」

 

俺は…

「提督、ご決断を」

 

[提督、もう…鈴谷さんは助からない、それは本人が一番わかってるよ]

 

………クソッ!

 

「愛宕!艦隊指揮を引き継げ!五十鈴!駆逐艦から目を離すな!

夕立と暁は左右と対潜警戒!赤城は対空警戒しつつ索敵でルートを割り出せ!鎮守府へ、全速で撤退する!」

 

《了解!》

 

艦隊を全速でまとめ、輪形陣を敷いて

全員でカバーし合う隊形を構築

全力で離脱する

 

「…………っ!」

 

歯を食いしばって、

ただひたすらに進む

 

 

side change

蒼羅side out

鈴谷side in

 

「あーあ、もう鈴谷は終わりかな…ごめんね提督、もっといっしょにお話ししたかったし、いい思いだってさせて上げたかった、笑顔を見たかった…」

 

もう二度と、現世で見ることはないだろう顔を記憶に焼き付けて

結局言えなかった言葉を零す

 

「……」

「大好きでした、提督」

 

突進してくる絶望を見据えながら

鈴谷は微笑って

 

「私の勝ち」

 

一言、告げた

 

提督が生き残ってさえいれば

鎮守府は死なない

私が死んでも、沈んでも

提督なら、また助けてくれる

 

「だから、私の勝ちだよ、へ級」

でも、やられっぱなしは性に合わない

最後に一つ、

擦り傷くらいは残してやろう

 

「やっちゃうよ!」

私は力の入らない腕で主砲を持ち上げ

霞む瞳で照準を合わせる

 

タイミングなんていらない

ただ、相手の突撃に合わせて

受け止めながら撃てばいい

 

確実に刺し違えとなるだろう

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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