戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ルージュ

提督side

 

「…っ!」

 

愛宕の目が外れた瞬間を見計らって

艦隊を離脱

 

[提督!?]

[たとえ無理でも、やらずに諦めて大切なものを失うより、

やって損をしたほうがいい!]

 

叫ぶように返しながら、俺は

空母棲鬼と軽巡棲姫から教わったことを思い出す

 

〈いい?提督、私たち鬼級、姫級のツノは電探の機能を持っているの

それは艤装の一部分であり、私たち自身の肉体でもある、提督にはすこし難しいかもしれないけれど、そういう感覚があるの

でね、このツノなんだけど…〉

〈自在ニ出シタリ、消シタリハ可能デス〉

 

〈具体的な感覚は…そうね、プールサイドとかで、頑張ってお腹引っ込める感覚?〉

〈ソレハ見栄っ張リデハ…〉

 

〈それはどうでもいいのよ、それに、ある程度強力な艦なら肉体から艤装を形成できるし、案外簡単よ?〉

 

雑談のような会話ながらに

重要なポイントは押さえている

 

艦娘の艤装と違い、深海棲艦の艤装はある程度生物的な性質を持ち、

持ち主の肉体と融合している

 

そして、持ち主の成長に伴い、自己進化して、常に主人に釣り合う力を与えるのだ

 

「ぉぉっ!」

 

全速力で転進、鈴谷がいる戦場へ向かう

 

「俺に応えろっ!」

 

左目が蒼く輝き、左腕は真白に染まる

 

「グォゴォォッ!」

 

ゴキゴキと骨の折れるような音と共に、左腕に黒い装甲が出現し

 

俺の血肉を礎に、大顎が顕現する

 

そして、俺はその左手で

今まで抜くことのなかった輝那を抜き

 

「…-!」

正眼に構えた

 

side change

蒼羅side out

鈴side in

 

「……」

「ォォオオッ!」

 

突撃してくるへ級に向けた砲塔は

意地でも逸らさない

 

「絶対に…!」

 

「ガァォァアアッ!」

「!」

 

へ級は、今の私の目には追えない速度で突進してきて…弾き飛ばされた

 

「っ!誰!?」

「俺だ」

 

その声は、間違いなく、誰よりも守るべき提督の声で、でもその姿は

ついさっきまでとは違っていた

 

「輝那TX(トライエッジ)…物は試しだな」

「な…提督!?なんで戻ってきたの!早く帰ってよ!」

 

「知るか、自分を捨てようとスルような奴の話なんか聞かん…サァ、へ級…始めヨウ」

 

その姿は、黒いはずの目に蒼く光を灯し、白い制服に黒い脚甲、左腕にリ級にも似た大きな腕甲を着けて、髪を白く染めた

 

深海棲艦の姿だった

 

「…お前に終ワリをくれてヤル」

「ウォォォッッ!」

 

絶叫を上げながら突撃するへ級に

正確無比な射撃が飛ぶ

 

それは提督の左腕から…いや、その手に握られた拳銃から発射され

いともたやすくへ級の眼を破壊する

 

「グァァッッ!」

「理性はナシか…砕くダケで済む」

 

提督は普段の優しく、暖かい声からかけ離れた、底冷えするような声で呟く

 

「装甲展開…捕喰形態(プレデターフォーム)

 

提督の声に応じてか、腕の顎が大きく開き、その牙をむき出しにする

 

「喰らえ…っ!」

 

周囲の海水を抉りながら、顎が閉じる、それはたしかに、必殺の間合いに敵を捉えていて

 

「ヌッ!」

瞬間移動じみた動きで跳躍したへ級は、それを回避した

 

side change

鈴谷side out 蒼羅side in

 

 

「輝那NX…いや、ダメか」

 

拳銃形態のままでは大口径の狙撃銃用弾は使えない、そして、拳銃弾は

機銃程度の威力しかない

 

それではヤツを止めることはできない

そこまで思考が及んだ直後

俺は決断した

 

[提督っ!やめなさい!]

[すまんな陸奥]

 

深海棲艦由来の憎悪、憤怒

その他様々な感情を力に変えて注ぎ込んだ艤装が、輝那へと溶け込み

 

そして、一発の銃弾を形成した

 

「輝那の新たな力、って訳じゃないが…使えるものは使う」

 

望んだものは、

奴を止められる衝撃と火力、

得られたものは一発の銃弾

 

外すわけにはいかない

 

「すぅ……はぁ……」

 

深呼吸と共に、集中する

 

視界から、奴と鈴谷以外全てが消える

そして、奴が最も単純な動きを取る瞬間、突撃の一瞬に狙いを定める

 

「…fire!」

 

引き金を聞いた瞬間、

銃口から爆炎が噴き上げる

 

そして、凄まじいまでの衝撃を伴って飛翔した弾丸は、過たず

へ級の装甲を打ち砕き、その身を突撃コースから弾き飛ばす事に成功する

 

「っ!誰!?」

 

鈴谷がこっちを向いてきたので

最低限の言葉で返す

 

「俺だ」

 

銃身をひどく傷めたようだが

撃つことはできた、そうだな

NX(次の一撃)のもう一つ後だから

 

「輝那TX(トライエッジ)…物は試しだな」

 

やはり、深海棲艦の出力は艦娘を大きく上回るようだ、結果として

NX並みの火力を得ることができた

新たな切り札になるだろう

 

「提督っ!?なんで戻ってきたの!早く帰ってよ!」

 

「知るか、自分を捨てようとスルような奴の話なんか聞かん」

 

俺はへ級へと向き直り

一言、

 

「サァ、へ級、始めヨウ」

 

騒々しい艦娘たちの声はいつのまにか消え去り、思考には海鳴りだけが響く

 

最高のコンディションだ

 

「…お前二終わりをくれてヤル」

 

静かに告げると同時に

標的を変えて突進してくるへ級に

輝那を向けて

 

眼球へ銃弾を送り込む

 

「グガァッ!」

「理性はナシか…砕くダケで済む」

 

銃弾は節約できるな、理性があれば眼球を破壊された時点で撤退するだろう

視界を失えば勝率は激減するからだ

 

俺はへ級にタイミングを合わせて腕に力を込め、

 

「装甲展開…補喰形態」

 

命令と同時に腕を引き

力を溜めて…今だっ!

 

「喰らえ…っ!」

 

確実に間合いに捉えた瞬間、バネのように腕を伸ばして…顎が噛み付く

 

周囲の海水ごと敵を呑み込まんとした一撃は、しかし空を切り

 

飛び退いたへ級に、砲弾が直撃した

 

「…これくらい…意地でも…」

 

普段の笑顔など何処へやら、

鬼気迫るまでの表情で方を構えていたのは、大破状態のままの鈴谷

 

「グウルルァア…」

 

どちらを攻撃するか迷っているな…

鈴谷を攻撃されたら轟沈してしまうし

ここは俺が派手に動くか

 

「うぉぉおっ!」

 

叫びながら突進して、

脚甲を活かした飛び蹴り、そして

 

「魚雷喰らえや!」

ゼロ距離魚雷による自爆覚悟の攻撃と、再び伸ばした左腕の顎を向けて

 

激突する

 

「鈴谷!今のうちに退がれ!

行け!応急修理要員!」

 

(了解です!)

(我ら修理担当!)

(轟沈は食い止めます!)

 

応急修理要員が俺の艤装の上から飛び出して鈴谷の方へ飛んでいく

 

これで最低限の保険はできた

このまま!

 

「ハァァァァァアッ!」

「でぇやあっ!」

 

へ級はなんと俺のパワーと競り合い

双方を押しのける

 

「これで!」

鈴谷が雷撃戦フェイズに突入

魚雷を放つが

 

へ級も新たな身体に慣れ始めているのか、全弾回避される

 

「っ!」

 

すぐに次を狙い始めたへ級に、

俺は対応して拳を構える

 

「まだまだあっ!」

「ダァァッ!」

 

狙う攻撃はただ一つ、圧倒的な一撃

「提督!」

「やるぞ!」

 

鈴谷が砲撃と派手な動きでへ級を引き寄せ、俺は身を潜めて…隙を見計らう

 

「狙って…狙って…!」

 

俺はギリギリまでヘ級に攻撃を悟られないように、姿を徹底的に隠し

 

「fire!」

暗いオーラを込めた弾丸を装填し

再び輝那TXを放つ

 

「ダァァァッ!当タルカァッ!」

ついに言語すら取り戻して見せたへ級は

なんと弾丸を回避して

 

装甲を修復したばかりの鈴谷へと砲撃を加える

 

「きゃぁぁあっ!」

「鈴谷!」

 

回避の足が鈍り激しい攻撃に晒された鈴谷は再び大破してしまう

 

「せっかく直したのにぃ〜…」

「クソッ鈴谷!」

 

慌ててこれ以上の攻撃を避けるために割り込みを仕掛け…その隙を突かれた

 

「死ネ」「何ッ!?」

 

突然の飛び蹴り、しかし、その足は装甲を纏い、ブレード状の牙を伴っていた

 

「ぐふ………ぁ…」

胴体、貫通

 

俺の肉体を、いともたやすく貫通した足を引き抜くへ級

 

「ごふっ…」

 

side change

蒼羅side out 鈴谷side in

 

「ごふっ…」

「提督ッ!」

 

提督の背中から、黒い剣が突き出す

私をかばって

 

ポタリ、と私の頬に提督の血が掛かる、それは熱く、重く、ぬめっていて

なによりも、命の色をしていた

 

「…いや、嫌、嫌!」

「構うな、鈴谷…すぐに死にはしない」

 

赤い血を撒き散らしながら

提督は首だけで振り返って、笑う

 

「嫌よ提督!死なないでよ!」

「だから、そう簡単に死にはしない」

 

悲鳴をあげた私に、声をかけながら

提督は前を向き

 

「そう簡単に…

死んでやるわけにはいかない」

 

言葉とともに、剣が引き抜かれた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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