「私、さ」
「…………」
「改二の時に、暴走、しかけたんだ」
「あぁ、」
「でも、提督の声で戻ってこられた」
「あぁ」
「だから、提督に、ありがとうって言いたくて、来たんだ」
しんみりとした声に
つい、返事も単調になる
そもそも、鈴谷は返事を求めてなどいないのだから、それでも良い
「提督」
「なんだ?」
「ううん、何でもない」
そう言って、鈴谷は微笑った
どこか晴れやかな表情で
「途中からだけど、鈴谷も参加させてもらうからね」
……?
「何に?」
「何ってそりゃ…えっと…」
自分で言って混乱するなよ鈴谷
[提督〜?それは聞いちゃいけない事なんじゃないかな〜?]
[唐突に入ってくるなよお前]
川内に割って入られるが
今はお呼びではない、
鈴谷の方に集中させてもらおう
「まぁ、いいや…」
閉塞した話題は飛ばしてしまうに限る
俺は話題転換を提示して
…
「それじゃあさ、提督」
鈴谷は新しい話題を出してくれた
「…
「…?」
「私の名前、改二になった時に、思い出したんだ…笑っちゃう事に
私、かなりオバサンなんだよ?」
「…………は?」
「鈴として生まれてから、艦娘になるまでに18年、艦娘になってからの任期4年
沈んで、深海棲艦になってから…何年だろ?体感で多分5年くらい
そうなるともう三十路手前なんだよね〜」
笑いながら言うことではないと思うのだが…
鈴谷、いや鈴は笑顔を崩さない
「でもさ、この年月は、艦娘になって、時の止まった鈴谷には関係ない
いや、思い出にはなってるんだけど、失っちゃった記憶の方が多いから実感ないの」
「そう…なのか…」
その中には、きっと楽しかった思い出や、大切な記憶だってあったはずだ
それを失って、失ったことを理解して、それでも尚笑えるなんて
「鈴谷は、強いんだな」
「ん?そりゃ強いよ、高練度の重巡だし…『装備と練度は十分です!』ってやつ?」
「やめてくれ、鳥肌が立つ…いやそう言う意味じゃない、俯くな!表情を曇らせるんじゃない!」
俺が失言に気づいた時には
もう遅かった…
「ひどい…ひどいよ提督…なんてね♪、鈴谷と鹿島じゃキャラ違いすぎるし
あんまに似合わないのが当然でしょ」
軽く手を振りながら椅子を立つ鈴谷
「んでまぁ、なんでこんなこと言い出したのかっていうと、せっかく思い出せたんだから、誰かに話したかったってのもあるし
提督に、私のことを知って欲しかったってのもあるの」
「…で、提督?」
突然グッと近づいてくる鈴谷
「私、記憶漁っても初めてだったんだけど、鈴谷の初めてのお味は?」
「……!?」
鈴谷の初めて?なにそれどういう事?
俺そんな美味しい思いしてたの?
[提督〜?不埒感知機に反応ありだよ!]
[なんだその探知機?!]
[エッチな提督に制裁を下すためのマッスィーン、その名も不埒感知機『エクスペクター参式改』っ!]
[意味わかんねぇ!そもそも前後で分裂し過ぎだろ!なんだエクスペクター参式改って!一と二もあるのか?!]
謎のインターセプトに混乱しつつ
俺は俺の考えをはじき出す
「お前の初めてをもらった覚えなどない」
[提督!そこは考えないの!開発年とかそんな感じ!]
[だから開発年が三ってのはいつの三年なんだよ!]
[気にしないって言ってるでしょーっ!]
互いに叫び合いになってしまった頭の中をよそに、凍りついた空気を味わう
「提督…それ、本気で言ってる?」
「勿論だ、俺は鈴谷の初めてなんて貰ってないぞ?」
「………もしかして、提督?」
「ん?」
「…提督の、エッチ」
「………(白目)」
「そっちの初めてじゃないからね?あ、でも…ファーストキス、軽く見られたら怒るから」
「初めてってキスのほうか…なるほど、あの感触は…」
「ちょっと!本人を前に思い出さないでよ!…恥ずかしいじゃん」
[あ、これ可愛い、提督、これ可愛いよ]
[まぁ、可愛いことは否定しないが」
赤面する鈴谷はたしかに可愛い
一部趣味人なら襲っていただろう
しかし現状の俺は上下半身がガンダムめいた分離をしかけた身、
この状態で下半身に無理をさせれば今度こそ分離してしまいかねない
……テケテケかな?
「…で、でも、さ」
「……………」
果てしない沈黙のなか
鈴谷がわずかに震えながら聞いてきた
「そっちの方も、初めてって言ったら、驚く?」
その瞬間、俺の意識は暗転した
「はーい、蒼羅?」
「…姉さん」
何故わざわざ会話中に中断を強いるようなことをしたのか、と問おうとすると
「ストップ、どうせ猥談の中座が嫌だったんでしょ?」
先手を取られてしまった
「でもね?お姉ちゃんはそういうの、いけないと思うの」
「はぁ…」
「エッチなお話はいけないと思うの!」
「……………」
「お姉ちゃんは許可しないんだからね?」
その姉さんが話に割り込んでくるなんて蛮行に出るとは思ってもいなかった
「ぅっ…そうじゃなくて!
蒼羅!お姉ちゃんは怒ってます!」
「そりゃまたなんでさ?」
「信じて送り出した深海エネルギーが勝手に乱用されて挙句弟をダークサイドに送ってくるなんて…」
「それ元ネタみさくらさんだからね?むしろエロゲのタイトルだからね?そっちのが猥談だよ台無しじゃないか!」
「まったく!力を乱用し過ぎるのはダメって言ったでしょう!
それが何だとでも言うつもりなの?
深海の侵食が物質化するレベルにまで寄って来てるのは自分のせいなんだから!」
反論は『私怒ってます』ムーブに押しつぶされてしまったようだ
「私の力は使い過ぎたらこっちに来ちゃうんだから!他人の前にまず自分の方を心配しなさい、お姉ちゃん命令です」
「………」
俺はぼんやりした目で姉さんを見つめる
…
「いい?提督として頑張ってるのは勿論応援してるけど、無茶をし過ぎるのはダメ
怪我を治せるから放置なんてもっとダメ」
「…………」
「これ以上、深海の力は使わないって、約束して?」「それは出来ない」
俺は即答する
なぜなら、それは俺の戦闘の根幹をなす部分であり、再生を使わずして
『肉体を使い捨てる』戦法は使えないからだ
左腕、および肩あたりまでは骨まで消し飛んでも再生する、が故に
あえて敵の攻撃を受け止めて
肉を切らせて骨を断つ、戦法を使うことが出来る
俺の基本戦術であるそれを封じて戦うと言うのはほぼ不可能だ
徹底した遠距離からの必殺狙撃でもしない限りは
「だからそれがダメなの!そんな事してたらすぐに全身真っ白になっちゃうよ?」
「全身真っ白!?」
俺の体はボドボドになるのか?
「修復の度に少しずつ深海棲艦の肉体に近づいている、だから、そんな
戦い方を続けてたら、深海棲艦に取り込まれてしまうの」
「…………」
「だから、修復に頼ってはダメ
もう、戦わないで」
「………わかった」
流石にそうまで言われれば
あえて深海に突撃しに行くこともないだろう
仕方ないか…
「わかればよろしい」
何故そこでドヤ顔になるんだ姉さん…」
600話記念番外編は
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裏山とかの話を
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……