戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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提督まだまだ入院中

「以上です…まだまだ動かせませんからね?」

「…はぁ…………」

 

「二日三日で治るような傷じゃありません!もっとご自分の状態を理解してください!」

「わかってるけどさ…点滴だけは流石にきついんだよ」

 

鳳翔さんの飯を食って来た俺からすると、病院食はもはや食事ではない

あれの存在意義が理解出来ない

 

「いわゆるオートミールとかよりひどいぞあれ」

「栄養最重視なので!味が悪いなんて言わないでください!そもそも

味に文句をつけるならさっさと治して鳳翔さんの所に行ってください!」

 

それが出来りゃ苦労はしないんだよなぁ

 

「…まったく……」

 

里見君はさっさと歩み去っていった

「……ここからずっとまた暇なんだよなぁ」

 

俺がため息をつくと、同時にノックが重なる

 

「……入ってください」

「失礼します」

 

返答と共に入って来たのは

白い髪を伸ばした、浅葱色の瞳の女性

 

全体的に巫女服に近い格好で、右手に薬指、小指だけが露出した手袋をつけている

 

……彼女は我が艦隊にはいないはずだが

 

「はじめまして、提督、ご挨拶が遅れてこのような形になってしまい申し訳ありませんが、新規ドロップとして参りました、翔鶴型空母一番艦、翔鶴です

一航戦、二航戦の先輩方に

少しでも近づけるように、瑞鶴と一緒に頑張ります!」

 

いや、瑞鶴はいないんだけど…

すまん、

 

「よろしくお願いします」

「よろしく、ここの艤装技師兼提督をやっている、神巫蒼羅中佐だ」

 

「艤装技師…?」

「……ふむ、説明から始めようか?」

「い、いえ!提督のお手を煩わせる訳には!」

「構うな、今仕事がなくてな、暇を持て余してしまった提督の余興に付き合ってくれないか?と聞いているだけだ」

「…こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ぺこ、とお辞儀して来た翔鶴さんを促して、座ってもらう

 

一応だが、長い話になる以上は

上官の前、などという事は無視して座ってもらった方がいい

なにより、女性を立たせたまま長話なぞ俺の精神にダメージが出来る

 

「…失礼します」

やっぱり姿勢がいいなぁ、翔鶴さん

綺麗なシルエット……

 

[ジーッ……]

[なんだ?]

[ジーッ……]

 

「その、提督?」

「あ、いやすまない、なんでもないんだ、それじゃあ最初は、艤装の説明からかな?」

 

「いえ、艤装については、これでも艦娘ですので、一応把握しているつもりです」

「そうか、なら省こう

それでは、まずはメンテの重要性からだ」

 

「メンテナンスなら、自分でやりますけど…?」

「…甘いな……まだまだだ…

まぁ、たしかに修理や感覚的な修正は実際に使用する艦娘自身にやって貰う事もあるだろう、だが、それだけでは済まされない

艦娘自身が大破損害で寝込んでいる時に、艤装を修理して無理矢理動かすケースだってある、艦娘達をローテーションして防衛戦を維持する時もある

艦娘自身がメンテなんてやっていられる状態じゃない時もある

だから、妖精や艦娘だけの修理能力に依存しない、人間の技師がいる」

 

一気に言い切り、一度息を吸う

 

「技術は進歩する、それは人も同じ

艦娘は轟沈の心配から逃れる事はできないが、人は違う、だから前線に出て、帰ってこない心配がある艦娘だけでなく

内地で技術を進め、伝える者もいる

 

妖精は言語が基本的に通じない

人は通じる、

だから、妖精の技術を人が翻訳する

 

総合して、人の技師が一番先に進む」

 

「だから、先に進んだ人達は、みんなにその知恵を広める、自分達が道を開いて

進んで来た者として

後進を育てるために、自分たちが磨り減って、力尽きてしまう前に」

 

力尽きて、倒れてしまったら

もう、何も残せないから

その前に、

自分の得てきた術を形にして残す

 

それが艤装技師最期の大仕事

遺作(ラストワークス)なのだから

 

「………深いんですね」

「あぁ、俺が技師を志したのは、前職が工場だったってのがあったんだが

やることは全く違う、

共通点を探す方が難しいほどだ」

 

「でも、今は提督なんですよね?」

「あぁ、話せば長くなるが

提督兼技師だ、無論、今でもメカニックとして働く事もあるぞ?資格も取ってるし

実働時間がないと剥奪対象になってしまうからな」

 

その後、翔鶴に技師を熱く語ったところ、翔鶴自身も技術屋に興味を持ってくれた

ということで

 

「やってみようか、まずは

自分の、空母『翔鶴』艤装からだ」

「はい!」

 

医務室を抜け出して

翔鶴とともに工廠に来た

 

明石は説き伏せたし、

夕張には寝てもらった(代理)

 

「まずはボルトカバーを外し…」

一つ一つ、作業手順を説明して

まずは一つ、カバーを外す作業を見せる、次に翔鶴の手を取って

その動きをトレースさせて

翔鶴の動かし方を監督しつつ

アドバイスする

 

そして

 

「よし、それでいい、よく出来ました」

翔鶴から外されたカバーを受け取り、翔鶴を褒める

 

駆逐艦なら大仰に褒めてやればすぐに乗ってくれるのだが、大型艦の場合は

精神年齢が高いため、ベタ褒めは使えない、なのでこうやって

逐一確認と、状態が良好なら

一言褒める、程度に留め置く

 

「…よし、良いぞ」

「はい!」

 

無論失敗すれば叱る

…いや、躾とかではなく

工具が折れる、材料が逝くくらいなら良いが、艤装本体が壊れる可能性があったり

翔鶴自身に危険があったりする場合は容赦なく怒る

 

プログラム実行中に急停止…だけなら仕様上想定の範囲内だが、モーター回転中の機体に腕を入れるのは、腕ごと切り刻まれたり

最悪の場合は腕を引きちぎられたりする可能性だってあるので、流石に止めたし怒った

 

「せんせぇ…」

「翔鶴、涙目はよしなさい

むしろ癖がつく前に止められた事は吉報だ、今後、必ず!オート実行モードのまま機械内に手を入れたりしない事、いいね?」

「はい!」

 

エンジンを停止させて

十分に冷却して、状態が安定してからでなければ解体することもできない

一応原則として伝えてはいたが

実感が甘かったらしいな

 

自分で判断してやろうとするのはいいのだが、実際には経験値が足りてないので正確な判断や必要な行動の見極めができない、という状態には大きな問題があるのだ

 

「よし!今日はここまで!」

「はい!…えっと…もうですか?」

 

ぱっと頷いたはいいが

急に仕事が無くなった事に気付いた翔鶴は、物足りないと言わん気だが

みんな最近は艤装の使用環境が良いのか、あまりひどく傷つかない場合が多いのだ

 

それはつまり、あまりメンテを必要としないという事でもある

 

「ということで、今日はもう必要なメンテはないので終わります」

「はい!ご指導、

ありがとうございました」

 

レンチを抱えた笑顔の翔鶴さんは

やっぱりそれでも美人だった。

 

「ほう、精が出ますね」

「そりゃあまぁ、ね…興味を持ってくれたんだから………?」

 

突然の声に反射的に返しながら

ゆっくりと振り向くと

そこには

 

(離してください〜っ!)

夕張の首根っこを捕まえた里見君…

 

「にぃーげるんだよー!」

「逃がしません!」

 

突如恥も臆面もなく逃げ出した俺に

一瞬面食らったような表情になる里見君は、しかし、全力を出せない俺を余裕で追い詰め

 

「…さぁ、それだけ走り回れるならリハビリは急コースでいいでしょう…笑っていられるうちに病室に戻りますよ?」

「………くっ……」

 

俺は速やかに連行された

 

「明日から艦娘の出入りを禁止にしますよ?」

「それはやめて」

「嫌がるから罰になるんでじゃないですか、嫌がることをするのが一番良い

…僕だってこんな事はしたくないんですよ?ただ提督がそれを必要としている」

 

迫力のある笑顔が徐々に迫ってくる

そして

 

「ぐぅぉぉ……」

 

[悲報]暇がヤベェ

ダレカタスケテ………

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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