戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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貴方と、私

「必要な処置とか言っといて…暇なんだよ…暇つぶしくらいさせろよ…」

 

ひたすら瞑想していると

足を組むなとか言うくせに

ただダラダラ歩行訓練なんかさせられるんだよなぁ…入院自体極めて短期だし、ごく普通に歩けているしスタミナに問題はないのだから、やる意味もないと言うのに

 

あれこそ実態を無視して

スケジュールばかりを見ているんじゃないのかとすら思う

 

「まぁ、流石にそれは言わないけど」

 

[提督もお暇みたいだしぃ…はい!]

 

反転

 

風が吹く

 

「ほい!いらっしゃい!提督」

「…久しぶりに来たな、ここ(川内)

 

「まぁ、最近忙しかったしね」

 

川内の艦内には本当に久しぶりに来た気がする

 

「でさ、提督提督!」

「ん?」

 

ハイテンションな呼びかけに

俺が声を返すと

 

「ごはん!一緒に食べよ?」

「…いいのかな」

「もう!忘れてるでしょ!提督

ここでの食事は向こうには影響しませーん!ね♪」

 

ウインクしてくる川内に押されて

食堂の方に向かう

 

「…それじゃ、私作るから、提督はまってて」

「俺も手伝うよ」

 

ただ待っているだけは性に合わないし、というと、川内に止められる

 

「提督〜?私はそんなに信頼できないかな?…言い方がズルかったね

ごめんなさい

でも、私が作りたいの

提督はまってて、ね、お願い」

 

「………わかった」

 

俺が了承とともに席に着くと

川内は鼻歌まじりの声と共に

厨房の方へ向かった

 

「まってて、か…」

 

そんな事を言われたのは

いつぶりだろうか

 

いつのまにか、ずっと一緒にいるから

と川内とのコミュニケーションを蔑ろにしていたのかもしれない

 

俺が今までの行動を考え直していると、いつのまにか川内が横に立っていた

「提督♪お待ちどお…あんまり待ってなかった感じ?」

「いや、待ってたさ

ただでさえ美味しい食事に飢えていたところだ」

 

「ふふっ、期待してね」

 

優しく微笑む川内…普段のオレンジの制服に、上から白エプロンを掛けている

 

白エプロンの川内は

普段のオレンジの活発なイメージから、急に落ち着いた美人なイメージになるからすごい

 

「いただきます!」

「召し上がれ」

 

にこにこしている川内から

さっさと視線を切った俺は

 

塩鮭の身の端を切り、まずは一口

すかさず米を一口

 

丁寧に塩抜きされながらも身の全体にしっかりとした塩味を残し、

それでいて締まりもある

歯ごたえもよく、

塩鮭として完璧だと思う

 

「…うまい…」

 

塩味を活かして米を食う

ひと段落つけば

味噌汁へ向かう

 

なめこと豆腐の味噌汁は

白味噌仕立てで、鰹の

出汁の効いた落ち着いた風味だ

 

……はぁ…落ち着く…

 

「これだけでご飯3杯はいける

 

…いや冗談だ、流石に3杯は厳しい

まぁ、それだけうまいって意味」

 

「わかってるよ、でも

それだけおいしそうに食べてくれるとこっちとしても嬉しいの」

 

俺が食っている最中

ずっと正面の席で俺を見ていたらしい川内が応えて…今までのリアクションが全部見られていたと悟るや急に恥ずかしくなった俺は顔を伏せる

 

「あれ〜?どうしたの?」

「わざとらしいぞ川内…」

 

ニヤニヤ笑いながら川内が顔を寄せてくる、こいつ!可愛いからって

やっていいことと悪いことがあるだろう!

 

「うっふふん♪やりたい事と

やってもいい事の区別は付いてるよ?」

「ご機嫌じゃねえか!」

 

突っ込みながらも箸は止まらない

いつの間にやら、甘めの卵焼きと昆布巻きが底を尽く寸前になっている…

もちろん米はとうに二杯目だ

 

「いくら食べても太らないのが有り難い所だけどさ、ここで食べ過ぎて

それが癖になっちゃうと

向こうでも食べ過ぎちゃうよ?」

「それについては考えがある

自分が食べられる量の制限を用意すれば、それを超えて食うことはない

 

………筈だ」

 

「あ、それ欲望に負けるよ?

フラグってやつ、

私ちゃんと知ってるんだからね」

 

川内と掛け合いをしながら飯を食う時間の、なんと早いことか

気づけば皿は空っぽになっていた

 

「バカな…野菜はかなりあったというのに…」

「もう、提督ったら…」

 

笑いながら川内に礼を言って

「ごちそうさまでした」

最後に、手を合わせる

 

食材と、料理人に対しての礼儀なのだ、うまい食事に飢えていた俺を満たしてくれた川内に感謝を捧げよう

 

「あはは…提督、真面目だね

そんな提督にだからこそ、かな

私は、毎日でも食事を作ってあげたい、提督の嬉しそうな表情を見たい

隣にいたい、抱きしめたい」

 

そっと、川内が近寄ってくる

 

「提督、今までもう十分寝たんじゃない?食欲を満たせばやることは一つだよ」

 

「……」

 

つまり、それは

「…夜戦のお誘い…だよ?」

 

そっと、俺の頬に手を当てる川内

それは徐々に降りて、首筋を冷やし

さらに、

 

「…っ!」

 

「提督?」

 

俺は椅子を立ち、一歩、下がる

避けた、と取られてもおかしくはない

以前から川内は、他の艦娘と違って

明確に俺に好意があることを宣言していたし、そういう事を仕掛けてきても

おかしくないとは思っていたが

 

まさか、このタイミングで、とは

「……提督、やっぱりダメなの?」

「………すまん、俺は…」

 

「ダメなんだ、そう」

 

俺の答えは半ばから遮られ

川内の表情は曇る

 

「提督、私はさ、

提督のことが大好きなんだ

これは前にも言ったよね?」

「…あぁ」

 

「でも、さ、私は艦で、提督は人間で、それも異世界の人

だから

そもそも諦めてたんだ

提督の事

 

でも、だからこそ

私は提督を愛し続けるの

私は愛の返還を求めない、ずっと提督の事を見守って、愛し続ける

その形として、結果的に一緒に居られればいいなっていうだけ」

 

「………」

「都合良い女でも、困った時に頼れる人でも、お節介な奴でもいい

どんな形でも、提督との関係(繋がり)は維持していたい、離れたくないの」

 

腕を絡めて、身を寄せてくる川内

「提督、ううん、蒼羅さん

私と、ずっと一緒にいて」

 

「…………」

「答えは出さなくていい、私は答えを求めないから、煮え切らなくていい、

いつか振り向かせてみせるから

私を愛さなくていい

私は貴方を愛し続けるから

私は、貴方の事を愛しているの

だから、蒼羅さん

私の想いを、受け取って」

 

煮え切らない関係で、ずっと続けるのは不可能だ、いつか冷めてしまうか

火が通り切ってしまうだろう

 

だが、川内はそれを許容するといった

それはあまりにも難しく

悲しい決意だったのだろうか

 

少なくとも、俺はそこまでの想いを向けられるとは思えない

だが、それでも

川内は待ってくれるのだろう

 

「……私は、いつでも待ってる

だから、いつか

私に応えて」

 

川内はそれだけ言い切って、身を翻して去っていく

 

それはあまりにも鮮やかで

目で追いそうになる

 

「あ、提督」

唐突に振り向いた川内は

こちらに微笑みかけて

 

「私、提督への干渉はやめるけど、提督へのアプローチはやめないからね?」

 

反転

 

サラリと、一言だけを残していった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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