戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

275 / 649
風の様に速く、ストローの様に吸う

「ようやく解放された…」

「だからといって、すぐに無理をしてはいけませんよ?」

 

「…わかってるよ」

 

ボソッと答えつつ、

まずは工廠側に向かう

 

side change

蒼羅side out

里見side in

 

「退院おめでとうパーティの事、知らせなくてよかったんですか?」

彼を見送った直後、

後ろから龍田さんが声をかけて来た

 

「知らせない方が良いでしょう、ほらサプライズパーティです、一応ながらですが

計画だって立てているんですし、艦娘側にも『提督が知らない』ことは知らせてませんし、せいぜい楽しみましょう」

 

「意地が悪いわね…ふふっ」

 

笑いながら龍田さんは去っていく

 

「…心配させた分、せいぜい艦娘を笑顔にしなさい、新人提督」

 

僕も笑って、提督の姿を思い出す

 

最初は酷かった

なにせ侵食率37%、もはや人外の領域へと踏み込んでいたのだから、

シュウシュウと音を立てながら傷が修復される、通常踏まれるべき手順を無視して

直接回復する肉体、

意思に関係なく発光する左目

白く染まった左半身

 

あれを見れば提督や艦娘ならば

たとえ未熟な候補生であろうと、間違いようもなく『深海棲艦』と答えるであろう

 

怪物の如き姿から、しかし彼は驚異的な回復を見せた、通常、怨念に取り込まれたものは変質する前の状態に回帰することなどあり得ないのに

 

「貴重なサンプルの貴重度がさらに上がった、本当にどこまでもあの人は…」

 

これでは881に本人の方が狙われてしまうじゃないか、情報は隠すのにも限界があるというのに

 

しかし、なんと言っても

 

「…戻れただけマシです…僕と違って」

 

side change

里見side out

蒼羅side in

 

「さぁて、メンテと調整と修理頑張ろう!」

 

ひっさしぶりのまともな修理に体が震えてくる

 

「ふふふふ……」

工廠の保管棚に鎮座する艤装達に向かって笑いかける

 

「待たせたな」

 

キュイン…と、わずかに

艤装が輝いた

 

「オラッ!ネジを作るんだよ!オラッ!」

 

三十分後、俺は全力で楽しんでいた

「ふははははははっ!」

 

全力で楽しんでいた

 

時刻は未だ昼を指さず、

当然メンテ(楽しみ)は終わらない

 

「よっ!ほっ!ひゃっはぁぁっ!」

 

ついテンションが上がってアクロバティックな動きが出てしまっている

本来なら無駄なのですることの無い動きだが、できると言えばできる動きでもある

 

安全靴で蹴り上げたキャップを空中で留めたり、投げたドライバーが落ちてくるまでの間にネジを固定したり、やりたい放題である

 

「ふぅ……ふっ」

 

まるで辛いことを忘れられる楽しみのようにメンテに打ち込んでいるのだが

そこに声がかけられる

 

「あ、こんな所にいたんですか、先輩」

 

その声の主人は

 

「先輩?どうしたんですか?先輩?」

 

俺をそう呼ぶ鎮守府唯一の人物

陽炎では無く、速吸

 

「速吸?」

「はい、はじめまして、先輩♪

速水林檎(ハヤミ・リンゴ)、補給艦速吸として着任しました」

 

ぴし!と敬礼する速吸

名乗られておいてなんだが…全く名前を覚えていない

 

「…だれだ?」

「え?」

 

「「……………」」

 

二人で向かい合ったまま、沈黙する

 

「もしかして…神巫先輩、私のこと…覚えてない…ですか?」

「すまん、覚えてない…速水林檎?同級生にその名前はないはずだが…」

「………ひくっ……ぇぐっ…」

 

突然表情が崩れて泣き出す少女

 

「おいどうした?速吸?」

「い…いえ…なんでもないです…

ただ…ちょっと目に塩が…」

 

「どう見ても泣いてんだよ!ええい止せ!涙を床に広がるんじゃない!」

 

あまりにもあんまりな物言いながら、なんとか涙を止めようと必死なのは伝わったのか

 

涙は徐々に薄れて消えていく

 

「…先輩…ぐす……」

「だから俺はお前にそう呼ばれる覚えはないのだが…ん?」

 

先程、こいつは、俺が『先・後輩』関係を否定した時に泣き出した

 

「後輩……後輩………」

 

記憶から、ありったけの後輩に纏わる話を掘り出す

 

その中にあったのは……

 

「あ!」

「…?」

 

たしか、そんな名前のやつがいた様な気がする…

 

「はっ!?お前か!ってかお前、一個下じゃねえか!」

 

俺が技師科に入ってから新入学してきた学年の連中に、名前が該当した

 

「俺じゃなかったら忘れてたぞ速水…逆に覚えてる俺がおかしいレベルだ」

 

「先輩!覚えててくれてるじゃないですか!」

 

ひしっ!と抱きついてくる速吸だが

 

「痛い痛い痛い!お前ちょっとそれ対人にはパワー強いよ!」

「え?…あ、失礼しました!」

 

パワーが強すぎて骨がゴリゴリ鳴ってしまった…全く、

 

「ちゃんと調整はしようね

艤装持ってる時は特に意識してくれ」

「はい!」

 

元気のいい返事だ事

 

「あ、提督、もう10時ですから

休憩にしませんか?速吸、お茶用意してきたんです」

 

「ん?あぁ、もうそんな時間か」

 

相変わらず、気が回る奴…

そういえばこいつ、後輩に一人欲しい

とか嫁に欲しい、とか言われていたのに、なんで俺になんて寄ってきたのか

未だにわからない

 

「これ、もうすぐ片付くから

そしたら本棟の方に戻って休憩だ」

「はい!速吸、了解です!」

 

相変わらず元気な返事だ…

 

結局、速吸着任のニュースは

俺のいない間に鎮守府全体に知れ渡っていた様で、艦娘達も驚く様子はなく

 

新人を歓迎する様子だ

 

…陽炎はややムッとした気配だったが

 

「先輩は渡さないから!」

「こっちこそ…負けません」

 

……何をやってるんだろうか

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。