戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ディスタンス

とはいえど、すぐに成果が出るわけではない、深海棲艦経験者(ドロップ)の艦娘も

中身的には深海棲艦そのものである隠海棲艦にも、その声の意味はわからないのだと言う

 

「聞こえない声を、解読はできんか」

 

俺が聞いた音を出来るだけ書き出してみはしたのだが、流石にグラフの振幅で音はわからないか

 

「いえ、音はわかります

私は聴音機を装備してますから」

「…それ、そう言うものじゃないだろ」

 

「私モ分カルワ、デモコノ声ハ、私が聞イタモノト違イスギルノ」

 

「…かつて私が聞いた歌とも全く違う、意味がわからない…深海を離反しても

あの歌声はしっかりと覚えているわ

アレとは全く異なるものよ」

 

「共通のフレーズもなし、鈴谷はそもそも深海の頃の記憶もほとんど無し

分析業務はちょっと戦力外かなぁ」

 

「駆逐古姫としての記憶にも

これと違うけど、声はあるわ

歌とも呼べないような、ぶつ切りの言葉がつなげられた、詩のようなものだけど」

 

神風の記憶にあった詩とやらは

すでに机に広げられた紙の中に記されている、内容も

 

『古の者、古の者、

打ち捨てられ、忘れ去られし古き砂

再び此方に、掬おう、

それは遥かな時の砂時計』

 

…正直、意味がわからない

それらしきフレーズもないし

俺が聞いた歌の歌詞とも違う

 

「どこが同じ、違うじゃなく、どんなリズムだったか?それにも着目する必要がありそうだな」

 

「リズムねぇ…いっそ全部

文章にして書き出してみたらどうだ?

 

レ級の言葉に刺激を受けて

みんなに紙を配る

 

味気も色もないレポート用紙だが

却って集中できるシンプルなデザインが良かったのか、不満は出ない

 

「…よし、これで良い…と思う」

「そこは確定してくれよ」

 

皆の記憶にある限りの深海の声を書いてもらい、それを揃える

 

「…駆逐古姫(神風)から南方棲戦姫(大和)、軽巡棲姫と順に長くなる

一番長いのが軽巡棲姫で

レ級とタ級(鈴谷)が短いな」

 

「ってことは…戦力が歌の長さに直結してる?」

「大型艦が必ずしも長いわけじゃないのか…」

 

戦艦であるはずのタ級とレ級が短く、戦艦の中でも強力な姫である南方棲戦姫が長い

この差はおそらく、姫級か否か

 

空母棲鬼もレ級より長いが

八行分、十三行の南方棲戦姫より短い

 

「やはりイロハ→鬼→姫級の順に長くなり、強い分長い、それが長さの法則らしいな」

 

そして解析は続き…

 

「古き砂…駆逐古姫のことだよな

……忘れさられし…これはどういうことなんだろう」

 

「空を睨んだ黒色の炎…ツノ?かしら?」

 

それぞれの単語から意味を抽出来て、文章化すると、それぞれの艦の外形や成り立ち、名前に由来する文章になることが判明した

 

のだが、この二時間

発見できたのはそれだけだ

どうやって深海棲艦を作っているのか、目的は何なのか、その辺りはまるでわかっていない

 

「手詰まりか…」

 

「もう良い時間ですから!医務室じゃなくて食堂か執務室でやってください!」

 

突然響いた声に

その場の全員の視線が集中する

そこには、里見君が立っていた

 

「里見さん…」

「ア………」

「そう言えばここ…」

 

「医務室でしたね…」

「あひゃひゃひゃ!」

 

揃いも揃って間抜けな顔を晒す元深海棲艦の皆を連れて、執務室へも戻る

 

「よし、再開しようか」

 

俺の言葉に、今更か…と言わんばかりの気配を漂わせる連中

 

「今更言われても…」

「やる気なくなっちゃったよ…」

 

復活は絶望的に思えるので

そのまま今日は解散にする

 

「焦らずじっくりやれば良いさ」

「それじゃ、帰るね」

「カエラセテモラウワ」

 

皆なが自室へと帰ってゆく

 

「よし、俺も」

「提督?ご飯の時間ですよ〜?」

 

「っ!?」

 

一瞬にして警戒に入った俺の真正面から、執務室に入って来たのは、龍田

 

「何しに来た、龍田」

「別に何も〜?ご飯の時間を伝えにきただけよ〜」

「そうか」

 

なら良いだろう、

ちょうど腹も減っていたし

 

間宮さんの所で食べよう

 

………インスタントは最近食べていないなぁ、個人的に好きなのに

 

特にあの塩分入れりゃ良いんだろ?と言わんばかりの粗雑な味が良いんだよ

……体に悪いが

 

「…というわけで食堂に来たんだが」

 

最近食堂に来ていなかったからか、鳳翔さんと間宮さんとあきつ丸の視線が冷たい

 

「あきつ丸、お前は違うだろうが」

「自分は正式に厨房の所属であります、提督殿の記憶違いであります」

 

「……大淀に聞くか」

 

それは良いとしても

鳳翔さんからの冷たすぎる気配が…具体的には雨の中で気温3度くらいでヤバい

あれはもはや殺人級の御技だ

 

「提督、お茶でもどうぞ」

「あ、間宮さんありがとう」

 

顔面蒼白で震えていた俺に、間宮さんがお茶をくれる

 

気が利くどころではない

間宮さんが恵みの女神に見える

 

「…提督」

 

耳元で、ゆっくりと囁かれる

 

「大丈夫ですよ、鳳翔さんも本気では怒ってませんから、ちょっと叱られて

しっかり反省して、そしたらまた美味しいもの、食べましょう?」

「……」

 

コクリ、と頷く

 

そして、徐々に圧力を増す

鳳翔さんの一撃(お言葉)をどう受け流すかを思案しはじめるのだった

 

「提督」

「!」

 

「まずは一言…御生還、お待ちしておりました」

 

「え?」

 

「もはや引退の身、提督に何を申せる立場でもございません、ですがこれだけは

お祝い申し上げます」

 

鳳翔さんの言葉に、逆に驚く

鳳翔さんが、怒ってない?

 

「…えっと、鳳翔…さん?」

 

「私はもう、鳳翔と呼ばれた軽空母ではないのですから、もはや由も無く、何を怒ると言うのでしょう」

 

あ、違う、これ

鳳翔さんめっちゃ怒ってる

超怒ってるけど表面に全く出てないだけだ

 

「えっと…」

「良いのです、提督

もう取り繕わなくて

 

もう怒りはしませんから」

 

超怖い、いつもの微笑みの裏側に絶望的な寒気を感じる

 

「……ごめん」

「あとで、執務室、です」

 

「…………」

 

この後、半日説教された

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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