戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

282 / 649
メンタルメタル

「終わった……ようやく」

 

干からびた俺は

執務室で崩れ落ちていた

 

「ほーしょーこわい…」

 

「わかってくださいましたか?」

「はいわかりましたすいませんでした」

 

ガタガタ震えながらの返事であった

 

さっと出て行った鳳翔さんの姿が、扉に遮られて消えると同時に、深く息をつく

 

「…思考を無にするんだ……」

 

俺は考えるのをやめた

 

 

 

 

 

暗転

 

具体的には何時間経ったかわからないが

ずっと同じように自己封印されていたのだろう俺は、いつのまにか

誰かに膝枕されていることに気付いた

 

「蒼羅が廃人にされちゃうなんてねぇ…残念、可愛い蒼羅は譲れないし

これ以上傷つけるなら

貴方の作り上げて来た鎮守府だって滅ぼす覚悟はあるわ」

 

「ねぇ…さん?」

「?!蒼羅!そうよ、お姉ちゃんよ」

 

ゆっくりと髪を梳いていた手が離される

 

「起きてくれてよかったわ

ずっと待ってたんだから」

 

ぽんぽんと頭を叩かれる

 

「起きて、蒼羅

廃人状態ならマシだけど、ここの光景は正気度を削るわ、お姉ちゃんはちょっと頑張り過ぎたから眠りたいの」

「…姉さんが、頑張り過ぎ?」

 

俺の知る限り姉さんはそこまで苦労しているような様子もなく、万物を嘲笑うかのように上手に結果を出していく天才だったのだが

 

「おバカ、そんな訳ないわよ

私は要領がいいだけ、要は天才肌ではあるけど、本物の天才じゃないのよ

だからちょっと疲れちゃったわ

蒼羅の膝貸して?」

 

「…俺の膝の上……最近誰かの椅子にされがちなんだが…」

 

「いいじゃない、それだけ魅力的ってことよ?ほら座って?」

 

俺を座らせて、今度は

位置の逆転した膝枕が始まる

 

「おやすみ、蒼羅…あ、この空間自体がちょっと()()()()から、私だけを見つめているか、目を閉じていた方がいいわよ?」

 

姉さんは目を閉じる前に

謎の一言を残し、さっさと寝付いた

 

「…それじゃわからないんだが…」

 

特に言うこともなく、俺も目を閉じて

 

姉さんを薄目で見る

 

膝枕って、されている側はあんまり感覚ないけど、してる側はかなり

楽しいなこれ

 

何より無防備に寝付いている姉さんの顔を、すぐそばに捉えることが出来るし

……考えないようにしていたが

この距離なら触れることだって簡単だ

 

「…俺クソかよ…」

 

自責しながら目を閉じる

だがせめて、

 

先ほどまでされていたように

姉さんの髪を梳くくらいは

許してもらおう

 

いざとなれば、油断していたそっちが悪いとでも言えば、なんとでもごまかせる

 

……と思う

 

「姉さんよ…本当に俺たちの家系は精神が鋼なんだな…」

 

我慢しようとすればいくらでも我慢できる

 

それは、俺が姉さんのことを大切に思っているからだ、『大切でもないがいい女』

とでもなれば、俺はきっと

躊躇なく襲っていただろう

 

…それぐらい魅力的だというだけだ

 

「if、もしもの話だぞ?」

 

くどいくらいに念を押しながら

頭の中で騒ぐいつもの声に言い訳して

 

ようやく、

その声が聞こえないことに気づく

 

「川内?」

 

…………

「おい、川内、聞こえてないのか?」

 

「聞こえてないわよ、どころか認識すらしてないんじゃないかしら?」

 

唐突に下から聞こえた声に

顔を下に向ければ

当然ながら姉さんと目が合う

 

「なぜ?」

「ここは貴方の魂の中でも、一等暗くて、深いところ、そんな所に

艦娘が接続なんてしないわ

この間のはあの子が無理をしたから出来ただけよ」

 

 

姉さんは気だるげに身を揺すりながら、半開きになっていた目を閉じる

 

「しばらくしたら起きるわ

そしたら貴方は元の世界に戻りなさい、この間も言った通り、ここの空間自体が無理がある、危険な空間だから

あまり長く引き込んでおくこと自体が危険なの」

 

「ならなぜこの空間に」

「弟と一緒にいたいと思うのはおかしいかしら?こんなに愛してるのに

伝わってくれないのは辛いわね」

 

ニタニタと笑いながら口元を隠して泣き始める演技をする姉さん

 

「…やめてくれ、もうやめて

本当にやめてくれ」

 

「あら?どうかしたの?」

 

「鳳翔さんに泣き脅し食らったの思い出した」

「あ……ご愁傷様」

 

「悲惨だよ、全く、ありとあらゆる手段で(精神)攻撃してくるんだよ

…こっちが泣きたいっての…

メンタル崩したら深海に喰われるから鉄の意志で死守したけど涙腺崩壊寸前だよ」

 

表情とか声とか感覚的なそれで感じ取ったのか、やや表情が薄れる姉さん

 

「…よしよし、甘やかしてあげる

ボロボロになっても立ち続けた勇者にはヒロインからのご褒美が必要だからね」

 

「姉さんそれ膝枕される側が言っても意味ないと思うよ?…ってか25にもなって姉弟がこんな関係でいいのだろうか」

「そんなことは考えない、私はずっと前で止まってるし?弟のことが大好きな姉のままだから、

逆に蒼羅はお姉ちゃんのことが嫌いなのかしら?」

 

「んなわけない」

 

それだけは全否定する

元の世界でよ23年と少し、

こっちの世界での2年半

 

総合して25年半の人生で一度も姉に嫌悪は抱いたことがなかった

……同時に、そこまで深く感情が動くことがなかった、というのもあるが

 

当時の俺は感情が死んだ自閉状態になっていたし、表情筋も固まっていた

故に過去の感情についてはよくわからないのだが、特に大切、ではあれど

切り捨てる事が出来る程度の距離感はあったと思う

 

「今は到底無理だが…な」

 

「…なにが?」

「なんでもないよ、姉さん

それよりしっかり休んだら?」

 

今度は俺が、姉さんの額に手をかざして、姉さんを止める番だった

 

「おやすみ、姉さん、俺も寝るし

あんま気にしないでくれよ?」

「…そこまでいうなら、仕方ないわ

 

最後に一言だけ、

 

自分の歌を信じなさい」

 

それだけ言って、姉さんは目を閉じる

 

「ちょっと姉さん?!どういう意味?姉さん!?」

 

そのあとしばらく揺すって、諦めて、そして目覚めを待つのだった

 

五時間ほど待たされたのだが

それ自体は辛くなかった

 

姉さんの体重は軽いからな…

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。