戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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鼓吹

夕刻になり、ソロル鎮守府の建屋(各々の鎮守府から連れてこられた妖精達が増改築を行い、なんとか『鎮守府』と言い張れる程度の対面は整った)

 

で待機していたところ

 

突然館内放送の音が鳴った

ちなみに、回線設備は当初なかったので、島…いや、夢葛鎮守府出身の妖精達の協力のもとでソロル、ラバウル第5、創海鎮守府の妖精達が突貫で作った

 

「えー、えー、テストテスト。聞こえているか?」

 

誰にいっているのかソロルの提督の声が聞こえてきた

 

「皆、提督だ。こんばんは。

館内放送なんて慣れないんだが直接みんなに言いたくてね。夜分すまないが聞いて欲しい」

 

放送設備も不備はない

試しに廊下側に出ても聞こえている、大丈夫だ

 

「さて、もう伝わったと思うが、明日の夜明け頃、全員参加で大きな戦いが始まる。」

 

「それはみんな知ってるぜ

なんせその為に来たんだからな」

 

天龍がソロルの提督にツッコミを入れているが、そもそもその声は届いていない

 

が、俺も同じ気分だ

好きなだけ言ってやれ

 

「長年使った、この鎮守府正面の入江を舞台として、来る相手は一体だ」

 

「その一体が一体では済まない群体型なんですけどね…」

 

珍しく、放送につぶやくもの

「スケール感が違ったっぽい」

皮肉に笑うもの、

反応はそれぞれだ

 

「しかし、情報を統合すると、一体で入江の半分はあろうかという大きさらしい」

 

「……」

本当はどのくらいなのかはわからないが、たしかにそれなりの大きさはある

まさに島なのだから

 

「…先に言っておく。私は敵が怖い」

鎮守府のあちこちでガタガタッ!と音がする、勇壮な鼓舞を期待していた艦娘が転んだのだろうか…

 

「む……ちゃくちゃ怖い!今夜は到底寝られない!トイレには長門に付いて来てもらいたい!」

 

「バカなのかここの提督は?」

「…いや多分、そういう軽口が狙いだと思うんだが…たしかに怖いよなぁ…」

 

なにせあの規模の敵なのだ

凄まじい激戦になるだろうし

結局無理矢理に建てた小屋であるこの仮説鎮守府など、主砲の一発でゴミ山に変わるのは目に見えている

 

「なんなら、提督には私が付いて行ってやろうか?」

「遠慮する、飯は抜いてるし、水も飲んでないんだ、トイレには行かないさ」

 

長門が茶目っ気たっぷりにウインクして来るが、俺まで恥さらしをするつもりはない

 

「決戦時に腹を空かしては戦にならんぞ?」

「大丈夫、夜明け前に炊き出しがある」

 

油断も隙も作りはしない

というか、その為にあきつ丸を連れてきたのだから

 

「だが!」

そのタイミングで、充分に待ちを入れたと判断したのか、ソロルの提督が声をあげた

 

「これを皆に言ったのは、不安なのは皆一緒ということを知っておいて欲しかったからだ」

 

そこで俺達の軽口は途絶え

ソロルの提督の話に集中する

 

「決戦の直前に不安だというのは言いにくい事だ、ついに黙ったまま心に秘める事もあるだろう」

 

「だが、恐れを持ったまま出撃して欲しくない。つい緊張して、いつも出来ている事が出来なくなるからだ」

 

確かにな、それに、艦娘が実力を発揮する事ができるか、出来ないかは提督に左右される、つまりは提督にその技量があるか

心柱を存分に発揮できる心があるかだが、その点このソロルの提督は完璧だな

緊張を取り除き、しっかりと慮り

それをはっきりと口にする

 

それは信頼を得るための第一手段であり、人における求心力である

 

「現在、この鎮守府には、艦娘も、深海棲艦も、たった1つの目的の為に集っている」

 

そう、この鎮守府にきて驚いた事は、それだ

 

艦娘達の恐るべき練度もあるが

なにより、深海棲艦と同居している

それもウチとは比べ物にならないほど大規模に

 

「それは、明日の朝やって来る敵を、いつもの通り、作戦通りに戦って、勝利する為だ」

 

艦娘達の視線が集中し始める

…ちょっと辛いな、俺が提督なのに、ここの提督の煽りが完璧すぎて信頼を奪われてしまいそうだ

 

「皆でやるべき事を、いつも通りやろう。

相手を一つ一つ攻略して、勝ち戦に仕上げよう、そして」

 

ソロルの提督は一息入れて

次の言葉を強調する

 

「駆逐隊のロ級さんに、親友の弔い合戦への花道を作ってあげようじゃないか!」

 

最後の発破で、艦娘達の士気も

上がってきているのか、鎮守府のあちこちで声が上がる

 

それを確認したのか

ソロルの提督は一言

「じゃあ見張りの者以外は目を瞑り、横になり、少しでも体を休めておくように、以上だ」

 

最後に告げてから

マイクのスイッチを切った

 

流石に自分が寝られないといった直後に艦娘に寝ろとは言えないか

 

…とはいえ、この熱気で寝ろと言われても無理だと思うが

 

「提督!館内放送まで使ってなんて情けないことを言っているんだ!」

 

彼方の提督室…いや作戦指令室から、向こうの長門の怒鳴り声が聞こえた…

 

最初は提督室と呼ばれていたが、ソロルの提督自らが改称したのだという

 

…流石に深海棲艦を引き連れて自らを提督とは名乗り難いのだろうか?

その気持ちはわかるが

 

「…長門、金剛、扶桑、大和、

思えば榛名以外は全員一番艦(ネームシップ)だな」

「その榛名も、出向での一時着任デース、ビスマルクを含めても

正規着任組は全員ネームシップデース」

 

「…願わくば、姉妹全員を揃えたかったんだが、な」

 

「提督?」

 

俺の言葉に、何かを感じ取ったのか

扶桑がこちらに向けた視線を強める

 

「…死ぬ気ですか?」

「いや、そう簡単に死んでやる気なんてないよ?ただ、別れる可能性も否定できない子達といるんだ、少しくらい感傷的にもなるさ」

 

「-っ…提督」

 

「提督、それ以上はほかの艦娘にもよくない、その話はやめにしよう」

「…あぁ」

 

長門の声に遮られ

俺は口を閉ざす

 

「それじゃあ俺は、明日の0400にまた来るから、何もない広間だけど

まぁ、静かに寝ててくれ」

「はい、この戦いの後で

また、話に決着をつけましょう」

 

大和凄まじい視線に背を押されて

俺は仮設仮眠室に向かった

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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