あんな情けない放送の翌日未明、決戦の空気に包まれる島に、湯気と煙が立ち上る
「一列でお願いします」
あきつ丸と鳳翔(ソロル)そして間宮(ソロル)の二人の協力を得て
豚汁とおにぎり(戦闘糧食)の炊き出しを行っていた
「…やってるなぁ…」
はるか昔、技師になる前に
鳳翔さんの炊き出しを食べ損ねた事を思い出した俺は、若干焦りながら列に付き
「…はい、どうぞ」
「ありがとう」
やったね、今回はちゃんともらえた
「…よし」
「何が良しなんですか?」
となりに座ってきたのは…
「大和か、どうした?」
うちの鎮守府では後発ながら
高い艦隊指揮能力と戦力を併せ持つ強力な戦艦娘、大和だった
「別に、なんでもありませんよ
提督のお側に、居たかっただけです」
「お前よくもそんな恥ずかしげもなく言えるね?流石にそれは俺も恥ずかしいよ」
大和の言葉に、若干赤面しつつも
大和の方を見遣る
「冗談ですよ、これをお渡ししに来ました」
かちゃり、という鞘鳴りと同時に
差し出されたのは
棕櫚の目隠しに覆われた
「撫子?なんで?」
「里見さんから、お聞きしました
提督の侵食率が上がっている事、提督自身の寿命が、そう長くないかもしれないという事、そして
全てを聞いた上で、私はこう判断しました」
「…少なくとも、身を守るための手札が増えるに越したことはありません
手札不足で危険に瀕することはあっても、手札が余って困る事はありませんから」
大和は優しく微笑んで
俺に、
「…わかった、使わせてもらう」
「ただし」
俺が手を伸ばすと、その手から逃れるように身を離して、撫子を躱し
「これを使うにあたって約束があります、一つ『大切なものを守るためだけに使うこと』二つ『私の事を忘れない』これは約束ですよ?」
「あぁ、肝に銘じよう」
「それだけ言ってくだされば十分です、どうぞ」
今度こそ、大和から
撫子を受け取る
「…よし、それじゃあ行こうか」
「はい、もうじき、最後の配置前顔合わせですし」
二人して立ち上がり
「あ、その前に」
たくあん入りのおにぎりを食べきって、それから大和に軽く手を振る
「また会おう、俺は艤装技師として最善を尽くすから、お前は主力艦隊に混ざって火砲で戦ってくれ」
「はい!必ず、提督に勝利を」
最後の言葉は明るく、軽く
二人は各々の道へと向かった
「…偵察隊が来たか」
大本営からの増援舞台の中でも先発偵察を担当する航空隊だ
龍驤、瑞鳳が総勢約90機の震電による強行偵察を行うらしい…尋常なものであれば良いのだが
通信棟で、大本営の五十鈴に聞いた話では、その龍驤が問題らしい
情報を総合すると、姫の島の接近に気づいていなかった艦隊が、島に接近
その直後に音信不通になった
十中八九、姫の迎撃で全滅した
その艦隊の本来の旗艦が、当時たまたま小破していて入渠中だった龍驤
自分が不在の間に突然同僚の艦隊が消滅したことに責任を感じて、それ以上に復讐に燃えているのだろう
だが、それだけでは無いと思う
『龍驤』は普段の振る舞いから、底抜けに明るい子供のように思われがちだが、本来のところは思慮深く、意志力と決断力に富み
友誼に篤い人物である
「…もしかすれば、出来るだけやって、自滅するつもりかも知れん」
まさかとは思うが…な
「……やれる事はやるか」
一応、俺も艦載機の整備はしておく
「ぴぃぃ」
「お前は出てくるなよ?作戦行動中には敵の姿と誤認する可能性もあるし
お前が出るのは本当にそれしか無い時と、決戦の時だけだ」
帽子から転がり出て来た白タコヤキに、一応注意しておく
「ぴに」
ぷいっ、とそっぽを向いてしまった
「ぴぎぃっ、びきゅぴきい」
「嫌い、知らないっじゃないよ、お前がいたら艦娘に撃ち落とされる可能性だってあるだろ?それに最終兵器には前線に出張られちゃこまるんだよ」
「ぴぎきゅうきぴき?」
「おう、最終兵器だよ?俺より目良いし、早いだろ?それに爆装持ちだし
だから俺はお前を最後の砦にしてるの」
「きゅっぴー♪」
「はいはい」
そっと頭(どこ?)を撫でると
目を閉じる白タコヤキ
寝るなよ?
「ぎゅ!」
わかってるならいいや
「俺は艦載機の整備するから、お前はちょっと待ってろ…そもそもこれも龍驤と同じ陰陽師型の隼鷹に教わったんだよなぁ」
手元の袖から
50枚程の札を取り出して
「!」
資材エネルギーを注ぎ込むと
それらが艦載機へと変わる
これは妖精なしの直接制御機だが、群体を対象に使う事で単純な操作しかできない代わりに
妖精を介さない直接制御での編隊使用が可能だ
俺が使える資材エネルギー自体にも限りがあるので、あまり長くは使えないという問題があるが、それはそれ
鎮守府にいるうちは裏道がある
「…ここに、置いて…」
ボーキサイトの材料をポンポンと置いていく、そう、つまり俺が先に枯渇するのが問題な以上
外部から直接補給すればいいのだ
艦娘は自分の資材でポンと具現化できるし、妖精がついてるからなんの問題もないが、俺の場合はそうもいかない
だからこういう裏道が必要になる
「…さて」
メンテといっても簡易的なものだし、爆装機体は既に済ませているので
あとは高速仕様の飛行テストと
カメラの調整くらいだ
「…よし、以前の彩雲が使っていたカメラを流用していたけど、十分に写ってる」
ちゃんと映像がフィルムに出ている事を確認して、ネジやナットに傷みはないか
あるいはプロペラ部分に傷や異常がないか、主機は正常に動くか
次々にテストしていき
…よし、オーケー
「全機回収」
全てを札に戻して、袖にしまい
「さて、いくか」
俺は技師として、
仮ドックの方に向かった
ドック側で
時間短縮になるとはいえ、高速修復材よりは遅いのだから、すこし無駄かもしれないが
「速吸もいるし、あきつ丸、間宮、鳳翔、後援は万全の状態と言えるだろう
あとは前線に期待するしかない」
結局、前線に出張れないのは俺も同じ、出張ったとしても犠牲装甲のない俺では即座に蜂の巣である
「…無事でいてくれ」
指揮は既に現場側に移っている
俺は技師としての仕事をしよう
地形は関係ないです
600話記念番外編は
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……