戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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会敵

「…よし、この奥だな」

 

焼けて、衝撃に晒され

長年分の無理もあり

すでに朽ちている床を鳴らしながら

 

俺は夢葛鎮守府の地下へと向かっていた

 

「………」

 

先程の陰からするに、姫の守りは盤石でも、こちらはそうでもないらしい

既に破壊された建屋だからか

攻撃対象に入ってすらいない

 

「司令棟とは行き来できるが、そうそう楽ではないポイント

ちょうど戦術目標地点になりやすい拠点の分散配置に似ているが…」

 

「偶然でしょうね」

 

もともと多少の平地はあった島らしく、その中央からややズレた位置に存在していた鎮守府と、中央に存在する司令棟が近いのは

ユカナの言う通り恐らく偶然だ

 

司令棟がどこかによっていたら爆撃の的だ、損害を強いるためには全方位に砲を配置できる中央付近が望ましい

 

「…まぁ、気にしないことにして

姫のコアはこの地下にあると思われる」

 

「はい、感覚的にもそのようです」

 

ユカナの声に従いながら、俺はゆっくりと、確実に歩いて行き…

 

そして、到達した

 

「…これか…」

 

艤装の装甲板部分と複雑に絡まった黄金色の球体、それは紛うことなく深海棲艦の艤装コア

 

「…俺が単独で突入するから、支援頼んだ」

「はい!」

[了解だよ][ついて行きましょうか?]

 

[いや、陸奥には退路の確保を頼みたい、川内は直掩をたのむ、手が足りない]

 

[[了解!]]

 

意識内の二人に呼びかけてから

俺は手を伸ばして…それに触れた

 

反転

 

揺動する時計/蠕動する悪意

誰かが笑う/誰かが沈む

 

悲しみと喜びは等価交換

二重螺旋のごとく在れ

 

「…ここは………」

「深海樹華のなか、提督が入ってくるとは思ってなかったけど、この島はやらせないわよ?」

 

「…俺はお前がいると思ってなかったよ」

 

そこにいたのは、ゴシック調の黒いドレスに身を包んだ、白い肌の少女

年の頃は…暁と同じくらいだろうか

これで鈴谷や熊野と同じくらいと言われても反応に困る、という程度の歳だ

 

「…バカにしてるの?」

「まさか」

 

向かい合った位置の少女に目を合わせる

 

「提督、貴方は何をしに来たの?」

「知れたこと、ただこの島を眠らせに来ただけだ」

 

「そう…なら、話はここで終わりよ…貴方は帰りなさい」

「ほう、それはどういう意味だ?」

 

俺は少女に問い返すと

少女は仮面の如き無表情のまま応えた

 

「この島はもう終わりよ、海に帰ることも、華々しく散る事も出来ないの

だから、緩慢な死が決定したこの島に、貴方がいる方はない

それに、貴方はアイツ等とは関係ないでしょう?」

 

少女が指差す先に、

映像が浮かび上がる

 

そこに写っていたのは、ソロルの艦娘たち

 

「ソロルの…」

「関係ないなら、貴方は無傷で返してあげる、だからさっさと帰りなさい…

さぁ、早く」

 

「……悪いが、あの艦隊は同盟相手なんだ」

「……そう、退く気はないのね?」

 

「もちろんだ」

 

そう答えた瞬間、

白かった空間が暗く染まる

 

周囲の白一色が、黒く、赤く彩られる

 

「なら…ここから帰すことは出来ないわ…溶かされて消えなさい!」

 

「っ!」

 

スカートをはためかせて空中に浮かぶ少女に、若干驚愕しつつも、反撃の糸口を見つけて

 

「陸奥!」

「なぁに?」

 

「輝那たのむ!」「了解よ!」

 

打てば響く返事で、輝那が右手に収まる

 

「…狙って…」

「無駄よ」

 

陸奥の声と同時に、少女…離島鬼姫が10個の艤装体を召喚、歪な鋼の塊が

物理的に防御を固める

 

「持ち主のない艤装なんて!」

「私たちは怨念や憎悪、復讐心を力に変えるの…この程度のこと、私には造作もないわ」

 

勝ち誇る少女に対して

俺達の対処はあくまでも冷静だった

 

「…徹甲弾」「了解」

 

俺は魂の力を強く注ぎ込み、輝那をNX形態に組み替え変形させて、徹甲弾を込める

 

文字通りの鉄の壁で防御体制をとった離島鬼姫がそれに気づくはずもなく…

「発射!」

 

バァォン!爆音と共に、

通常弾とは比較にならないほどのエネルギーが放たれ…防御用の無人艤装に搭載されたシールドを貫通、そのまま鬼姫に突き刺さる

 

「…ぐぅぁっ!」

 

油断の代価はそれなりだったようで

艤装に開いた穴から

苦痛に歪む顔が見えた

 

「…やってくれたわねぇっ!殺す!」

 

もはや表情や言葉遣いをごまかす余裕すら失せたのか、それとも取り繕うのをやめたのか、それはわからないが

 

急に言葉遣いが荒くなった離島鬼姫は、俺たちに向けて手を振ると同時に

無人艤装がギシギシと鳴りながら動き出す

 

「…整備不良だな!」

 

見るからに噛み合っていないパーツや、磨り減ったパーツか目立つそれを

艤装技師の前において、何も起きないはずもなく…

 

「はぁっ!」

 

(おもむろ)に取り出したドライバーとレンチの餌食になり一息に分解された

 

「まだぁっ!」

 

追加で召喚される艤装体や、各種武装が一斉に鳴り、集中砲火を始める

 

「…大和撫子 抜刀!」

「応!」

 

ポン!という軽い音と共に飛び出した大和を背にしつつ、同時に大和撫子の装甲能力を発動、弾着の衝撃を無効化する

 

「………らぁっ!」

 

押し殺した声と共に、弾丸の如く飛び出して…

 

「そこっ!」

 

ひときわ巨大な砲がその軌道を押し潰さんと迫る

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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