戦いたくなんてなかったんや

心の火

「そこっ！」

離島鬼姫の放った艤装体の咆哮と共に、巨大な砲が放たれ、砲弾が飛び出した人影を打ち据えるために突き進み

そして、

「せいやぁぁっ！」

少(・)女(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)高(・)い(・)声(・)と共に、切断された

「…川内、参上！」

そう、砲弾の雨の中、大和撫子を握って飛び出したのは、川内だったのだ

「！？」

混乱する姫の背に、クナイ魚雷が突き刺さる

「か…」

「終わりだよ」

そう、川内が召喚されて飛び出す一瞬のうちに、お互いの得物を交換していたのだ

背後に立った俺の声に、離島鬼姫はゆっくりと振り返り…

「…」

ニヤリ、とわらった

「っ！提督離れて」「！」

俺はその声が聞こえるよりも前に飛び上がり、同時に…魂内だからこそできることだが、空気を蹴って再跳躍、シンプルなデザインの手甲と先ほど手放したクナイ魚雷の代わりにサバイバルナイフを形成した

直後、爆風が溢れる

「まだ終わらない…終われない

わたしは…みんなのために！」

「その想いは誰にも通じていないとしてもか？…もはや復讐は望まれていない！」

「それでも私(復讐者)はここにいる！怨恨の炎はこの島(炉)にあって燃え続けている！」

「その炎はいずれ君自身を焼き尽くすぞ！」

「復讐者は本懐を遂げれば燃え尽きるのみ！私自身がどうなろうと構いはしないわ！」

俺の言葉はまるで届かず、ただ巨大な炎に風を吹き込むだけで終わってしまった

「提督っ！」「来るな！」

離島鬼姫から暗い炎が吹き上がり

それはやがて姫自身の肉体を呑み込んで、漆黒の業火と化す

「…灰にまで魂は残らない、ああなれば心が焼かれて死ぬだけだ…」

「提督！とにかく逃げるわよ」

「急いで！」

周りの艤装体全てを破壊し、顕現した陸奥が促す、同時に川内が俺の手を取り…

「早いとこ出よう！」

「あぁっ！」

二人とともに、ゲートを形成すべく精神力を掛ける…

「無駄よ」

背後から響く声は、

それを嘲笑って迫って来る

「ここは私のコア、貴方の精神が介入していようと、私の支配する空間であることに変わりはないわ」

炎と一体化したシルエットが嗤う

それは絶望を告げる言葉

魂を直接焼き尽くす炎から、決して逃れ得ないという宣告

「死になさい！」

とっさに二人を庇い、緊急的に作成した手甲を大楯に変形させる

「ぐぅっっ！」

しかし、当然のことながら炎が当たっている盾は加熱され、把持するための取っ手にすらも熱は溢れる

「提督！」

ジュウゥッ、という肉の焼ける音と共に、俺自身の手が焦がされて行くが、それでも盾は離さない

「………っ！」

焼け焦げて行く盾は、しかし形を失わず

『盾は壊れていない』が故に『その炎は盾を超えられない』

精神論だが、この場所に於いてもっとも正統性のある理論とは根性である

なにせ精神力こそこの世界での最重要事項、それ以外は付随する飾り程度のパーツに過ぎないのだから

「…川内、陸奥、脱出は？！」

「無理！ゲートが形成できないわ！」

陸奥の返事と同時に、川内が主砲、脚部装備だけを召喚、主砲を炎に向かってぶっ放すが…実体がないエネルギーである炎に砲弾など、有効打になり得ない

「これで…終わりよ！」

炎の勢いが増して行く、同時に盾の熱量もさらに上がり…やがて赤熱状態になる

「このまま焼き溶かしてあげるわ」

俺は返事をする余裕も捨てて、盾の維持のみに注力する、盾から4枚の板が十字に突き出し、それぞれコンクリートの地面に、虚空に突き刺さる

そう、ただのラウンドシールドから、金属製放熱フィンと同時に姿勢固定用スタピライザープレートが追加生成されたのだ

「…！」

さらに俺はたった今生成されたフィン部分に、液体窒素を生成し

「対ショック姿勢！」

叫ぶと同時に、爆発

そう、液体窒素は蒸発して気体になるとき、急激に膨張して体積を増す、256倍にも膨れ上がるのだ

盾の表面に蓄積された熱を根こそぎ奪った液体窒素は、その膨張圧を持って周辺の空気を弾き飛ばし、そこに揺蕩っていた炎をとまた、吹き飛ばした

「窒素は安定した気体、酸化しない、つまり炎は維持できない！」

体そのものと融合した炎を吹き飛ばされ、顕現を維持できなくなったのか、離島鬼姫は少女の姿に戻る兆候も見せない

「…よし…！？」

「提督！やったの！？」

その瞬間が、明暗を分けた