戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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遺されたモノ

「姫の島はどうなった!?」

「今、壊滅の報が来ました!」

 

赤城の航空隊からの連絡らしい

 

「…提督、ご報告があります

…犠牲者について」

 

「っ!」

 

その痛ましげな表情から

大体は察することができた

 

「艦隊から…轟沈者が出たのか?」

「…支援艦隊に編成されていた応援艦が、全員」

 

「全員…!」

 

それは、予測外だった

「創海鎮守府の艦娘には被害はごく少数、ただ…」

「ただ?」

 

「大本営の暁ちゃんの身代わりに、暁ちゃんが艤装のダメージを肩代わりして

艤装完全破壊、戦闘不能です」

 

「……完全破壊…ついに、ウチに起こってしまったか」

 

艤装完全破壊、それは

擬似解体状態とも言える

艦娘としての力を完全に喪失した状態だ

 

そして、

 

「その艤装は?」

「すでに、ソロルの明石さんが緊急修理を行いましたが、応急修理要員も間に合わない程の一瞬で、艤装の七割を喪失してしまっていて…」

 

「コアも、機能停止か」

 

湾岸に置かれていた臨時ドックの方に視線を向ける…あんまり快適そうな環境じゃないな、ってかあれ、周囲から見えちゃうじゃないか

ってことは艤装置き場の側面が強いのか?

 

「…とにかく、犠牲者のサルベージを行うぞ、空母艦娘と重巡艦娘に、手空きの者は?」

「重症、大破の艦娘がほとんどです

…大和さんも最後まで戦い抜いて、大破なさっていますし…扶桑さんも」

 

沈鬱な表情の赤城を遮るように

「私は動けるぞ!」

 

長門の声が聞こえた

「長門…お前」

 

そこにいたのは、左目に眼帯をかけて、左腕を吊っている長門

どう見ても状態は良好と言えない

 

「無理をするな長門、お前も入渠に回れ」

「馬鹿をいうな提督、こんな時こそ…ビッグセブンとして、ぐっ…立ち上がって見せねばならないのだ」

 

「それでお前が倒れてちゃダメだろ?…赤城、もう時期夜だが艦載機は?」

「私の担当していた攻撃機部隊はほぼ全滅と言える程に撃ち落とされていますが、彩雲ならここにもありました…取って来ます!」

 

彩雲で空から偵察しつつ

状況を把握、サルベージ計画を立てる、と言う前に赤城は走り去っていった

 

「…大なり小なり、被害はある

轟沈がいないだけマシか…

だが、俺たちは艤装技師、完全破壊じゃなけりゃ轟沈だってサルベージできる」

 

やれることは、まだある

轟沈艦娘が深海棲艦になるのには

いくつかの要素がある

 

それは『強い恨みなどの感情』

『艤装の機能が健在』

『生命が残っている』

この三つに分けられるだろう

 

艤装は轟沈状態だろうと、コアの機能が停止しなければ生命維持ができる

つまり、轟沈後短期間なら

その命はまだ残っている

その艦娘たちを引き上げ(サルベージし)てやれば、修理も可能だ

 

「出来るだけ早く…出来るだけ多くを救わなくては!」

 

轟沈後、生命維持が切れるまでの時間は状態や運にもよるが

 

「およそ半日!」

 

「…提督!彩雲持ってきました!」

「速吸も…お手伝いします!」

「大発動艇も動かせる状態であります」

 

満身創痍のまま、それでも大発動艇を出すあきつ丸と、赤城と一緒に彩雲を飛ばそうとする速吸

 

「…私も大発は使えるからな

無論、捜索には参加させてもらう」

 

長門まで同調して大発を出し始めた

 

「…馬鹿どもめ…止めはしないが

絶対に守って欲しいことが一つある」

 

俺が号令を出さなくても

勝手にやり始めた艦娘たちに

改めて指令を送る

 

「お前らまで沈むんじゃないぞ

それだけだ!」

 

サルベージは時間と手腕が問われる

いかに素早く、いかに効率よく動けるか、それが救える人数の多寡を決めるといっても過言ではない

 

「…よし、俺も捜索を開始する」

 

支援艦隊の展開していた位置を

島の全体図(仮設ソロル鎮守府の作戦司令室にあった)と照らし合わせて

海流などに流されている位置を予測し、それを指示すると同時に艇を出して

自分も海中メガネで探し始める

 

「…よし、二名確認」

 

そのままダイブして…無論素潜りではなく、ダイバースーツを用意したが

 

片方ずつ引き上げる

 

艦娘のように一気にとはいかないが

それでもボーッとしているよりは

遥かにマシだ

 

「引き上げるまで、相手が生きてるか死んでるかわからん、なんてのはちょっと嫌だが、遺体でも引き上げてやりたいとも思うし

よっと!…もちろん、助けられるならそれもいい」

 

応急修理要員や俺自身の艤装修理で次々に回収した艦娘の艤装を修理して

最低限稼働できる状態になり次第強制励起する

 

それで眼を覚ますかどうかで死んでいるかどうかわかる

 

(我々も!働ける分マシです!)

(クタクタになっても、

死ぬよりは良いですからね)

 

何人かを引き上げて、修理して

…眼を覚ますのは10人に一人か二人程度

 

「…クッソ…ダメだ」

 

艤装を修理しても、

眼を覚まさないものは数多く

今にも眼を開きそうなのに、その命はすでに失われてしまっている事を示している

 

「…次!」

 

俺は、数を引き上げる作戦から

徐々に艤装修理が可能そうな艦娘を引き上げる方針にシフトして

ソロルの提督とも協力して

工廠を開けてもらい

 

そこに

(とりあえず基礎にコンクリート打ちっ放しの壁ですけど…)

(何にもないよりはマシでしょ)

(ビス箱用意しました!)

(ドライバーここにかけるよー)

(艤装の強制励起装置(イグニッションキー)、ここに置けば良いですか?)

 

「この際集中できる仕切りがあれば良い!五番のビスどこ? 4号のレンチちょうだい!六角の!イグニッションキーはその棚!艦種ごとに置いてあるから間違えないでね!」

 

超速で指示を飛ばしながら

未処置状態のまま、他の艦娘が回収してきた艦娘たちの艤装を修理していく

 

無論、目が醒めるものもいるが

それはごく少数の幸運だった艦娘だけだ

 

「…んっ…」

 

そして、ここにも幸運な者が一人

「目覚めてくれたか、良かった

…状況が理解できないなはわかるが、今は誘導に従ってくれ」

 

(こっちでーす!)

(入渠ドックはこちら〜)

 

視線すら向かずに事務的な一言だけを掛けて、そのまま妖精に流す

薄情とは自分でも思うが、他の艦娘を救えるかどうかの瀬戸際なのだ

もう助かった艦娘にまで手をかけている暇はない

 

「…っ!」

「目覚めてくれたか、向こうに入渠ドックがあるから、妖精の指示に従って--」

「なぜ沈ませなかった!」

 

同じ事務的な説明をしようとした瞬間、襟首を掴みあげられる

 

「仕事の邪魔だ、退いてくれ」「貴様っ!」

 

ガクガク揺すられながらも

手は一ミリもズレる事なく

仕事を進めて、イグニッションキーを挿し、強制励起…失敗、死亡判定だ

 

「ダメか」

次の艦娘に「なぜ手を尽くさない!」

 

「うるさい、俺たちは手を尽くした、艤装を修理すれば生きているなら目覚めさせる事ができる」

 

「ならそんな中途半端な状態で」「黙れ」

 

今度は俺が、邪魔をしてきた艦娘…重巡、那智を黙らせる番だった

 

「何もしていないお前は邪魔なんだよ

俺は艦娘たちを助けるために動いているんだ、もう助かったお前が邪魔をするな」

 

「ならなぜ私を助けた!私など放っておいて羽黒を」「羽黒は死んだよ、もういない」

 

そう、今まさに起動失敗で死亡判定が下った艦娘こそ、妙高型四番艦、羽黒

妙高型の末妹なのだから

 

「私は…」

「遺体は後で運び出す」

「な…貴様!人の心は無いのか!」

 

「今は心を問う時間じゃ無いんだ

すまないな」

 

その言葉は、誰にも理解される事なく

ただし風に乗って消えた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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