戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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メデュケイション

「…よし、第二回遺体捜索を、開始するぞ」

 

食事を終えて、僅かながらに余裕を取り戻した俺達は、すぐさま二度目の遺体捜索に向かい

 

その最中に島に将官が来ていた事に気付かなかった、

 

「…クッソ…どんだけ死んでんだよ…」

 

深海棲艦もいるし、白タコヤキの分身まで動員して捜索をしているのに

ひっきりなしに引き上げられる轟沈者達

 

80名の援護艦娘がほぼ全員沈んでいるんだから当然だが

 

「沈んでいるのは深海棲艦もいる

全員引き上げるぞ」

「了解!」

 

手空きの艦娘を引き上げの実働要員として借り受け、同時に艤装修理に集中する

 

「よし…周辺は引き上げれたか」

 

「あまりにも重傷…というかもう見込みない艦娘とかは…残念だが荷物エリアに

修理のメがあるかどうか、ってのはこのあたりに」

 

指示は大雑把でも良い

そのくらいは既に了解しているのだから、

 

「まずは…っと」

最初に上がってたのは…山城さんか

 

「最初っからキツいの来たなぁ…」

泣き言も言いたくなるってものだ

それもそのはず

その山城さんは…初撃で艤装を破壊されてから爆撃を受けたらしく

左半身が酷く損壊した…とても修復可能とは思えない状態だったのだ

 

「呉第三鎮守府所属の山城、死亡確認」

 

手元の応援に送られてきた艦娘のリストに印をつけていく

 

事務的に見えるかもしれないが

戦後に死傷者を数えるのなんてそんなものだろう

 

「所属不明だが、深海棲艦のリ級、タ級、レア級、ホ級、イ級、ハ級…色々と引っ張り上げてきたなぁ…」

 

明らかに死んでいるものも、艤装が治せれば復活できそうなものも区別なく

とりあえず拾われてくる

仕方がないので、まずはみんな沖津丸に乗せて急いで陸に戻していく

 

それから…明石に頼んで追加で送ってもらった装備と資材で修理を始めようとして--

 

「大将殿!?」

「あぁ、戦闘が終わったと聞いてな

急いできたのだが…皆、劣悪な環境の中での戦闘を強いられていたようだな」

 

「環境そのものは、戦闘中に悪化したのですが…その、仮説鎮守府を体当たりで潰されまして」

 

「なるほど…もう、ウチの予備食料は開放したからの、当座の腹を満たす程度の量はあるはずだ」

「恐れ入ります」

 

将官相手にヘコヘコしてはいるが

俺は中佐なのでこれが当然である

 

「…被害は先ほど、ソロルの提督から聞いたよ、主力隊艦娘80名に加えて深海棲艦

約1300体が轟沈、とな」

 

「大きな被害です、だが

それだけの価値はあった、最低限に抑えられたとは思もっていませんが

それでも必要な犠牲だった、と割り切っています」

 

表情を殺して、極めて平静な声で言い切った俺に、大将は少し眉を顰めて

 

「君は、そういう考え方なんだな」

「…必要であれば、それを救おうとして無駄に犠牲を増やすわけにも行きません、最大多数の生存のために」

 

一を殺して九を救う

それが必要ならば、せねばならない

…その一を誰にするかは

俺が決めることだが

 

「うむ、それもまた、軍人の心だ

必要なことを、必要と割り切る

なかなか出来ないことだよ」

 

「はい…それでは自分は、修理に戻らせていただきます」

「うむ、行きたまえ」

 

大将に敬礼してから、失礼にならない程度に急いで臨時工廠に移動する

最高効率とまでは行かないが

十分に考えられたアイテム配置を施された工廠なら、野良修理よりいい仕事もできる

 

「それに、みんな引き上げ終わったら、ちゃんとやり残したことを終わらせたい」

 

そう、サルベージの速度のために

『最低限稼働可能なレベル』

までにしか修復していない艤装達

それらをちゃんと治しきって

完全に修復したい

 

せめて綺麗な状態で、鎮守府()に帰してあげたいのだ…今更何を

と思うかもしれないし、そもそも何の意味もないただの自己満足である事は把握している

だが、それは

 

間違いなく、行うべき事だ

 

死化粧、とでもいうべきだろうか

葬儀があるわけでもない艦娘達に、手向けとなるのならば、せめて艤装の修理くらいはしてあげたいと思っている

 

「…よし、まだまだ…頑張れる」

 

一度深呼吸して、状態をリセットする、それからしっかりと意識を取り直して…

 

「ふうっ!」

 

吐息と共に、ドライバーを投げ、レンチを投げ、板金を投げ…空中に浮かぶ道具達

それは常に空中に投げられ続け

衝突も落下もせずに空にとどまる

 

空工展開、

二級艤装技師(デュオデ)の基礎技能だ

 

「よし!」

最後に強制励起装置(イグニッションキー)を接続して、原動機に、火を入れる

 

ガチン!という音と共に

エンジンが強制起動され…空転の音と共に止まる

 

「やはり、か」

 

失われつつある命を留める事はできても、すでに失われた命を取り戻す事はできない

それは生命の原則であり、有史以来…いや、神話においても破り得ない不変の真理

故に、この綾波が眼を覚ます事はないと、わかっている

 

わかっているのに…それでも、どこかで期待してしまう

 

自分の技には、一応の自負はある

それなら以上の技量だとは思っている

だが、それだけでなく

偶然の要素や時間、必要なレベルは高く、それに満たない物は切り捨てられる

 

今、目の前に横たわっている

綾波も、その一人だったというだけだ

 

「すまない」

 

そして、俺は綾波を諦めて

次へ…タ級の修理に赴く

 

できるだけ早く、

全員の修理を終えるために

 

最大多数の生還のために

その諦めが、必要なのだと自分に言い聞かせながら

 

「イグニッション!」

 

…ガチン!音が鳴る

火を入れられた艤装は音を立てて回転する主機を…そのままに光る!

 

「タ級!タ級っ!」

そこに一つ、奇跡は起こった

もはや生存は絶望的だった深海棲艦

戦艦タ級が、眼を覚ましたのだ

 

「よし!タ級、君はすぐに入渠ドックへ、急いでくれ!可及的速やかに

入渠を実施するぞ」

 

「ェ…エェ…」

 

俺に促されて立ち上がったタ級は

しかし、その直後に足をふらつかせ

俺に倒れかかってくる

 

「アラ…体…ガ…」

 

「無理をしなくていい、ゆっくり歩いてくれ、妖精達が誘導してくれるから

高速修復材だってあるんだから、すぐに治せるさ」

 

優しく声をかけて、まだ累々と連なる艦娘と深海棲艦を見遣る

 

「俺は彼女達の世話をしなきゃならないから、すまないが、妖精の先導に従ってくれ」

「…了解ヨ」

 

あぁ、よかった

また一人、救うことができた

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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