日常は帰らず
あれから、全員の修理を終えて
創海鎮守府に帰るまで、三日間かかった
それほどまでの人数、轟沈していたのだ
後半が深海棲艦ばかりだったのも、修理難度に拍車をかけた
艦娘のメカニカルな艤装と違い
極めて生物的な艤装を持ち、艤装と肉体が融合してすらいる深海棲艦は機械的手段での修理が困難を極めるのだ
無論、外殻だけ綺麗にして終わり、とはいかない
幸いにもソロル在住の元深海棲艦妖精『
外科的な手段での治療と同時に艤装の修復を行い、轟沈艦の…約一割ほどはサルベージに成功した
…のだが、その後消滅してしまう艦が多発し、結局艦娘にまで戻せる艦は殆どいなかった
俺も驚いたが、深海棲艦は
恨みを消し去ることで存在ごと消滅するらしい
「…俺は体験したことがなかったんだが、こうも連発すると、な」
「そうですねぇ…深海棲艦が光に溶けて消えるところなんて、なかなか見ませんよね」
轟沈のそれとも違う、穏やかな光の中に消えていく深海棲艦達
それは生きる力を怨讐に頼っていた深海棲艦が、支柱となっていたモノを失った抜け殻と化した事で発生した現象である
成仏、というよりは、消滅と形容したほうがいいのだろう
「…轟沈後、死亡確認された深海棲艦もみんな消えてしまいましたし、サルベージ出来た深海棲艦も消滅、それじゃあ報われませんよねぇ」
「そうだな、あまりにも無益…とは言わないが、せめて笑顔を見せて欲しかったな」
「艦娘に戻ったものも、僅かながらに居るんですよ?そこのあたり、忘れていませんか?」
「いや、忘れてなんていないよ
…ねぇ、
「うふふっ…なにか?」
こちらに流し目をくれて微笑む明石
先日サルベージに成功したタ級が
東雲によって解体され
艦娘に戻った姿だ
大体の深海棲艦は艦娘から、さらに人間に解体されていったのだが
ごく僅かな例外として、明石は艦娘のまま帰属することになった
練度94の明石改、どこの鎮守府に行っても即戦力になるだろう
「私は大本営に行きますよ?
鎮守府には原則的に
『
「大本営か…」
「はい、今大本営は人材不足らしいですからね、やることも多いと思います
…提督に助けてもらった身ですから、提督のために働きたかったんですけど、ね」
再び、チラリと視線を寄せてくる明石
ちなみに、ここは創海鎮守府のドックである、ソロルから大本営に直行するには遠すぎる、として中継地点にさせてもらった
のだが、明らかに嘘である何しろ、関東にあるこの鎮守府は南側のソロル鎮守府から寄るには、大本営より遠い
…もちろん書類は本物だったが
どうやったのかはまるで不明
…本当に中継地点になっていたのは沖津丸であり、補給代はウチから出した
ついでに暁と俺の護衛も担当してもらうことになった…今はそれも終わって雑談していたのだが
今、明石はコンクリートの埠頭から立ち上がって、海上に降り、少し進んでから笑顔で振り返って
「さて、もう行きますね
それじゃあ、頑張ってください
大本営での表彰とか昇進とかあったら知らせてくださいね?」
そのまま去って行った
「あぁ、今回は無かったけどな」
そう、今回の『姫の島』
既存の深海棲艦大発生現象や期間限定海域開放などの現象には当て嵌まらないとして
特級機密に指定されてしまった
つまり、秘匿案件として扱われ
一切表には出ない
全て、無かったこととして処理される形になった
「…つまりは褒賞とか昇進とかも一切ないんだよなぁ…」
資材も丸損になるし、大本営からの補償もない
…当然のことながら、轟沈した艦娘達も、無かったことになる
「まぁそれだけは、ちょっと納得がいかないんだが、今回の件も
怪物級として出現した離島鬼姫は結局『深海棲艦によって滅ぼされた鎮守府』が召喚、生成したわけだから、安易に公言するわけにはいかないってのはわかるんだけどさ」
「…沈んでしまったみなさんも、戻ってくるわけじゃ、ありませんからね」
「沈んだなら、まだ帰ってくる目はある、だが、爆撃をうけた彼女達は
死んでしまったからな」
艦娘達も、艤装大破を超えた状態で攻撃を受けるのならともかく、無傷の状態から一瞬で完全破壊にまでやられるとは思わなかっただろうし
「まぁ、想定のしようもなかった事だし、彼女達も覚悟はしていただろう
かつてない敵との戦いだ
死ぬなら自己責任、とも考えるべきかもしれない」
己が無能を省みよ、と叫ぶ自責を切り上げるためにわざと声を出して
[何してるの?提督にそんなの似合わないでしょ]
川内に笑われてしまった
[失われたものを悔やみすぎると、今あるものが溢れていくわよ?]
[陸奥…]
二人からの言葉は、字面だけを見れば薄情であったり、厳しかったりするが
その本質は優しく、思慮がある
「よし、やる気出していこう」
[その意気だよ!]
[頑張ってね]
俺も座っていたコンクリートの地面から立ち上がり、執務室に向かう
あとで大淀を呼んで艦娘達を講堂に集めてもらわないと
「あ、司令官!」
「…?どうした、雷」
「暁のことよ!」
鎮守府の本棟に向かおうとした俺を即座に捕捉した少女が駆け寄ってきた
その話題は…つい四日前に
艤装完全破壊で艦娘として死んだ判定が下った自らの姉、暁についての話
どうやら今日はまだまだ忙しいらしい
「暁がどうしたんだ?何が起こったか、起きようとしているのか
時系列を立てて教えてくれ」
「えぇ、まずは破壊状態で帰ってきた直後、しばらくは塞ぎ込んでたわ」
…どうやら、まだこの事件は終わっていないらしい
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