戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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ようやくの復帰

「て、い、と、く?」

「はいなんでしょうかほうしょうさん」

 

あのあと、さらに三日間監禁されてみっちり説教漬けにされ、食事はもはや無味乾燥…いや、もとは美味かった…筈だ、多分きっと、初日はそれなりに美味しいと思った…記憶があると思う

 

しかし、時間が二日、三日と過ぎて行くにつれて味覚機能が死に始め、最終的に水気があるか否かを判別する程度のことすらできているか怪しい状態に成り果てている

 

連日連夜説教につぐ説教、当然凄まじいストレスで毛根は痩せ、流石にハゲ状態とは行かずとも、引けば抜けるレベルにまで堕ち果てている…無論ながら艦娘に見せられる状態ではないため、面会自粛を余儀なくされているのだった

 

「…はぁ」

「ため息をついている場合ですか?」

「いえなんでもないですゆるしてくださいもう」

 

起きているのか寝ているのかもわからない状況、夢の中にすら鳳翔さんは出てきたし、夢の中ですら正座説教であった、なんで夢の中ってわかったか?そりゃあ地面にヒビを入れてみたからだ

 

そんなことをどうしてって思ったみんな、それができるレベルで精神を壊される経験をしてればできる、そう納得してくれ

 

とにかく俺は現実と夢の区別も付いていない状態でひたすら説教され続けて発狂しないように耐え続けるので精一杯なのだ、『鎮守府の建屋より艦娘一人の方が大切である』と説く俺ならば、多分自身の身より鎮守府の建屋を優先するようなことはないと思うが

 

もはや『いつもの俺』なら何をする状況なのかもわからないのである

 

「あばばばば…」

[提督っ!起きて!大丈夫夢だからっ!」

 

目の前に飛び出してきたのは、川内

「…お前も幻影か…?」

 

三日目ともなるとストレスのあまりに幻影が発生している、まだいないはずの涼月が膝に乗ってきたり、もういないはずの隼鷹が酒を勧めてきたり、ベッドに入ってふと窓側を見れば榛名がこちらを見つめながら

 

『布団一組は狭いですね、でも…』とか言ってきたり、

 

「この幻影はそう簡単には消えないよ!うっかりすると、提督の方が消えちゃうかもしれない」

「……」

 

目の前の軽く地面を足で叩いた、その瞬間に、空気が変わる、川内の魂界に引き込まれた、そう理解する前に川内が飛び込んでくる

 

「ふっ!」

俺はそれを、正面から迎撃して

俺自身の修めた暗黒カラテの奥義『セイケンツキ』を繰り出す

 

「くっ!」

しかし、川内の幻影は艤装の装甲板を盾代わりにして、一撃を防ぎ…

「空蝉、霧隠れの術、だよ」

「後ろっ?!」

 

背後から組討を仕掛けてきた

 

「もう大丈夫だよ、提督、落ち着いて…大丈夫、ここには提督を傷つけるものはない、提督が世界で一番安心できる場所だから」

 

「………」

「大丈夫、提督…蒼羅さんは、もう怒られなくていいんだから」

 

川内に抱きつかれながら

その囁き声を聞かされる

ここ最近荒れ果てて、鮫肌のヤスリの如くささくれ立った精神に、その言葉はよく沁みた

 

「…提督、大丈夫だよ」

「川内…」

 

「うん、川内だよ、提督」

優しい声は、俺から離れて、正面に回る

それはどう見ても、改二を発動した川内で、それを目に写した瞬間、崩れ落ちそうになる

 

ここ三日間、鳳翔さん以外の艦娘は目にしてるていなかったし、明石以外の艦娘に戻った元深海棲艦とも着任挨拶すらできていない

 

そんな中で目にした川内が

どれだけ精神的な大きな影響を持つかなど、一目瞭然であろう

 

「…川内…」

「うん、提督…あ、提督っ!?」

 

のちに聞くと、俺は情けないことにそのまま気絶してしまったらしい

…まぁ、極限の環境から生還したのだ、仕方ないとも言えるだろう

 

「…で、叱られすぎで気絶、魂内の川内さんの手引きで回復、なんともアニメチックな話ですねぇ…」

「里見君に言われたくないよ」

 

「提督を追い込んで置いてよく言うよ」

「まず俺にはなぜお前がいるのか全くわからないぞ時雨」

 

「提督への愛…いや、提督からの愛の賜物?」

 

「ごめん全くわからない」

 

いつもの時雨の言葉を完全にスルーして、とりあえず立つ…精神が限界を超えた気絶なんてしている割に、思考や意識に影響は薄い様だ

 

「よし、とりあえず一旦寝させてもらう、いいな?」「まだ鳳」「いいな」

 

答えは聞かずに、時雨の手を引いて医務室を出る、これは遁走ではなく凱旋

逃げるのではなく、帰還する

だから別に鳳翔さんに怯える必要などない…ないのだ!

 

「これその内祥鳳さんとかにまで影響起こしそうで怖いなぁ」

 

膝から下が高速振動している状態が止まらない、それだけだ…うん

怯えてるんじゃない

ただ長期間の星座で足が疲れているんだ

 

「帰って寝よう…そしたら久し振りに執務ができるよ」

「ちょっと提督!?どうしたんだい?普段は書類が届いても嫌そうな顔なのに」

 

時雨が前に回り込んで目を合わせてくる

 

「ほら、嫌そうな顔してもまじめにやってはいただろう?それに…今の俺は

しばらく執務に携わっていないから、少しくらいはやっておかないと」

「…ふぅん?」

 

「それに、艦隊指揮もしばらく…一週間もやっていない、もともと現場指揮は旗艦に投げがちだけど、それでも何もしないのは違うだろ?」

 

早口で言い切り、時雨の手を軽く引く

 

「行こう、大淀たちに負担を掛けているんだ」「うん、提督」

 

二つ返事で頷く時雨とともに

執務室へ向かい…

 

「あれ?」

「…提督?」

 

壁を拭いていたユカナと目が合った

 

「…えっと…はじめまして、三日前に夢葛鎮守府から転属してきました

総合管理妖精、ゆかなと申します」

 

「…お、おう…創海鎮守府提督、神巫蒼羅中佐が着任を歓迎する」

「提督、中佐だったんですか?てっきり…いえ、階級章はちゃんと中佐でしたね」

「臨時任官権限とかあるし、な…意外と実権的には前後するもんだけど」

 

まさかここに来て伏兵がいると思っていなかった俺も、ユカナも沈黙する

 

「…て、提督、執務室にいらしたということは…」「完全回復だ、指揮に戻るよ」

 

ユカナの声を先取りして

さっさと告げる

 

「それより…なんでここにいる?」

「それはまぁ、ここに着任しましたから」

 

目を泳がせるユカナを諦め

ずっと俺の腕を取っていた時雨に聞くことにした

 

「時雨、どういうことか分かるか?」

「…うん、提督…まず妖精は基本的に自由だけど、契約で鎮守府に住む

つまり、着任する、そして転属した以上、ここに正式に所属する妖精のうち一人になったって事」

「わかったOKだ」

 

つまり、ユカナは創海鎮守府の所属になった、これだけの話だ

いざとなったら秘書妖精や大淀が制圧できない、ということはないだろうし

まぁまぁ問題はないか

 

「…とりあえず、お茶淹れてきますね」

「緑茶頼む」

「はーい」

 

お茶でも飲んで落ち着こう

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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