戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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悲劇と喜劇

「不知火は大丈夫なの?」

 

収容、艤装解除後即時搬送された不知火の元を、即ち医務室へと訪れたビスマルクの第一声がそれである

 

「大丈夫…とは言い切れませんね

何がどうなったらこうなるのかは不明ですが、左足にはひどい損傷があります

右足の方はともかく、左足はもう、通常の入渠処置では回復不能であるので

切除を余儀なくされると思われます」

 

「そんな…不知火…」

 

我が事のように不安げな表情になるビスマルク、里見中尉はニヤリと笑った

 

「普通なら、ね」

 

「どういうこと?」

 

ビスマルクも視線を鋭くして問い返し、里見中尉はそれに応じる

 

「普通なら入渠しても回復は難しいでしょう、ですが…」

「勿体ぶる時間はないわ、早く結論を言って」

 

「左足を損傷部位より上まで切除、止血せずにそのまま入渠、高速修復材で強制活性化した体細胞を用いた器官再形成で足を作り直すことは可能です

ただし、これは危険である上に完全に回復できるという確証はありません

それに…麻酔も止血もできない以上、足の切除そのものに多大な負担と激痛が伴います」

 

「………」

 

「それでも、いい…早く!」

 

言葉を失うビスマルクに対し

さっきまで意識を失っていたはずの不知火が告げた

 

「私はもう戦力外です…どうせこの戦闘では復帰できません、だから私は置いて

早く行ってください」

「そんな、そんな言い方って」

 

「早く行ってください!

私は傷を治療する!あなたは敵を撃滅する!それが今必要なことなんです!」

「不知火、大声を出すのは傷に障りますよ」

 

ベッドに横たわる不知火の隣に立った里見中尉が不知火を抑えて、

「それに、不知火の言う通りでもある…ビスマルク、貴女を庇った不知火の覚悟を

無駄にしないでやってください」

 

「…了解、ビスマルク

再出撃するわ」

 

一瞬の逡巡の後、ビスマルクは身を翻して医務室を去って行った

 

 

 

「不知火、良いんですか?」

「良いんですよ、どんな痛みでも耐えてみせます、それが陽炎型駆逐艦

二番艦たる私の務め」

 

「その覚悟は受け取りました」

 

里見中尉は不知火の

止血帯を締めた左足に触れて

「もしかしたら、これが見納めになるかも知れない、よく覚えておきなさい」

 

そっと囁いた

 

「手術、および入渠措置の前に

何がありますか?」

 

「暁さんに、伝言をお願いします」

 


 

「はぁ…はぁ……」

 

地点乙、大和の艦隊では

すでに雑魚深海棲艦の大半を処理し終わり、姫との戦いが始まっていた

 

「…春雨…」

「時雨姉サン…」

 

向かい合う二人の駆逐艦

かたや鎮守府最古参の一人

白露型駆逐艦、二番艦時雨

 

かたや深海棲艦最強格

姫級の一画、駆逐棲姫

 

互いのことは互いに知っているが故に、互いに動くことのできない膠着状態

それを、一発の砲声が切り裂いた

 

どこから聞こえたのか

誰が撃ったのか、何を撃ったのか

それはわからない、だがしかし

たしかに砲声は空気を揺らし

膠着していた戦場に一石を投じた

 

「ハァッ!」「っ!」

 

鏡合わせの砲撃は互いに回避

時雨は即座に機銃を取り、駆逐棲姫の進路軌道上にばら撒くが

駆逐棲姫のスピードの方が上

 

大きな軌道で動く彼女には当たらない

 

「甘インデスヨ」

「まだ終わってないよ」

 

時雨をはるかに超える高機動で撹乱戦法を取る駆逐棲姫、しかし狙いすました砲撃が徐々にその動きを捉え

 

「…!」「そこだ!」

 

ついに直撃を決める

「イタッ…マダマダ」

 

しかし、速度は鈍るどころかむしろ上がっていき、本来なりありえないほどの急角度ターンを用いて時雨の背後をとる

「堕チテ!」

 

必死な叫び声と共に放たれた砲弾は

時雨に迫り

 

直撃

艤装の装甲がダメージを吸収した代償に砕けて、小破判定が下される

一方で装甲の厚い姫級である駆逐棲姫には真っ当な傷と言えるようなものはない

 

単純な性能差、この一言であるが

やはりそれは戦力に直接影響する

 

そして、戦力の絶対的差と呼ばれるものは、もう一つある

 

「全砲門、開け!」

「止まった…撃て!」

 

『数』である

 

深海棲艦最強格の姫級

駆逐棲姫は、しかし孤独

配下や同格、格上といった関係はあれど、仲間と呼べるようなものはなかった

 

いや、失ってしまったのだ

はるかかつて、

沈んでしまったその時に

 

「イタイジャナイ…カ……ッ!」

 

しかしダメージを受けつつも反撃は行い、怯みっぱなしにはならない

さすがは姫級だけあって

攻撃自体の精度も威力も高い

 

「あっぶな!」「ギガァァッッ!」

 

全員が反撃を受けるが、見事にかわす…が、揺らいだ瞬間に襲い掛かる残存敵の群れの対処にかかりきりになって、時雨対駆逐棲姫の戦闘に援護を出せる余裕がなくなってしまう

 

「…まだいける!」

「コッチダッテ…!」

残存の棲艦に任せた他の艦娘も無視しているのか

時雨に対してだけ一直線に突き進むその姿は、どこか悲壮感すら漂わせていた

 

かすり傷や艤装破壊

少しずつダメージを積み重ねて

ついに互いに大破判定が出る

 

「…決着をつけよう、次の一撃で終わりだ、春雨』

「分カリマシタ…時雨姉サン」

 

鈍い喚声を上げる足の艤装を撫でて、姿勢を正し、駆逐棲姫(ハルサメ)は加速に備える

主機を壊しても構わないと言わんばかりにファンを高速回転させながら、時雨は主砲を真っ直ぐに構える

 

……………

 

戦場には喧騒が満ちて

何をきっかけにすることも難しいような状況、しかし

 

二人は互いに耳をすませて

「「!」」

 

時雨が砲を動かすより早く走り抜けると言わんばかりの速度で走ってくる春雨

それに対して時雨は…

 

()()()()

砲を捨てて、突進した時雨は

春雨を両手で抱きとめた

 

「エ…」

「もう離さないよ、春雨

たとえ深海棲艦になろうと

たとえ誰が何を言おうと

僕は君を離さない」

 

しっかりと春雨を捕まえて抱きしめる時雨

 

「ダッテ私ハ姫級ノ」「関係ない」

 

「イッパイ戦ッタ敵デ」

「それがどうかした?」

 

「ワ」「だから、その御託は、僕が妹を連れて帰るのになにか関係ある?

まぁ、なにを言われても聞きはしないけどね」

 

「……」

「ふふっ、その黙り込む癖は治らなかったんだね…さぁ、帰ろっか

ぼくたちの家に、今や新しき鎮守府、創海鎮守府に」

 

「…ハイ」

 

静かに頷いた駆逐棲姫に

時雨は笑って、

艤装から取り出した帽子を渡す

「ずっと待っていたんだ、会える日を夢見て…まさかこうなるとは思わなかったけど」

 

渡された帽子をそっと抱いて

今まで被っていた頭部艤装

鬼、姫級の象徴であるツノを捨てる

 

その瞬間、白かった体に

色が満ちる

 

「白露型駆逐艦、五番艦春雨

帰還しました」

 

「お帰り、春雨」

 

-春雨が鎮守府に帰ってきました-

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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