戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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地点丙 50%

海峡夜棲姫(山城)との戦いは熾烈を極めた

 

何よりもまず創海鎮守府が

黒杉になる前のまだ番号で呼ばれていた時代から所属していた艦娘

鎮守府最初の戦艦にして

最高練度に最速で到達した艦娘

 

それが山城なのだから、

深海棲艦になっても、その技量は健在、どころかむしろ、より一層磨かれてすらいる

 

戦艦らしからぬ身の軽さに

研ぎ澄まされた判断力

時には獣の如き直感に身を任せた危機感知と神速の反応

 

艤装に喰われるのではなく

艤装を喰ってすらいるその姿

 

それはまさに深海棲艦の完成形に最も近い姫の形

 

「…オ姉様ノタメニ…姉様ノタメニ!」

「もうやめなさい!山城!」

 

扶桑(わたし)、大井さんは目立つ傷もないが

秋雲ちゃんは撤退を余儀なくされ

赤城さんの艦載機も消耗が激しい

 

戦闘を継続するのは困難と言わざるを得ないが、それでも扶桑は立ち塞がる

ただ一人の姉として

 

たった一人の妹の過ちを止める為に

 

「…よし、いけます」

 

小破状態から傷の確認を終えたらしい赤城さんは勇ましく声を上げて

 

「第三次攻撃隊、発艦はじめ!」

 

残り全てを使い切るほどの勢いで矢を射る、同時に分散して形成されゆく艦載機を見て、私は思わず息を呑みました

 

それは、最高位の性能を持つ艦上攻撃機、烈風

 

本来ならここにはないはずの装備、それを赤城さんが持ってきたということは

「ここの任務は足止めですよ?!

本来の任務外の装備は」

「命令違反上等ですよ…負けるくらいなら!ね!」

 

大井さんの制止にも耳を貸さず、真っ直ぐに視線を保ち続ける赤城さん

 

決意は固く、雲を劈いて天高く昇った烈風は…急降下突撃、機銃による攻撃を敢行する

 

「行きますよっ!」

「タカダカ烈風ガァッ!」

 

向こうのヌ級フラグシップが叫ぶと同時に、恐るべき練度であることが見て取れるほどの機敏な動きをするタコヤキ型艦載機を発艦させ

一切を撃墜しようとする

 

しかし、

 

「…私は、第三スロットに非常に偏った数の艦載機を搭載するタイプの偏重型空母です、そして今回、そこ(第三スロット)に搭載しているのは

ただの烈風でもありません」

 

そっと目を閉じた赤城さんは静かに告げる

 

「私が搭載してきたのは

烈風改ニ戊型『()()()/()()()

 

 

たとえ、加賀さんと一緒でなくても

私は一航戦と知りなさい!」

 

目を開き、その瞳を濃緑に染めた赤城さんが叫ぶ

 

そして、四十機にも及ぶ烈風が

戦場を駆け抜ける

 

「…っ!」

 

赤城さんほどの空母といえど

凄まじい性能を持つ艦載機の多数運用は困難を極めるというのか、赤城さんは濃緑色に変わった両目から血を零しながら、それでも動きを止めず

そして攻撃を止めない

 

そのまま無数の爆撃砲撃雷撃の飛び交う戦場の中を舞い、凄絶に、華麗に

ただ群がるだけの棲艦達を沈めていく

 

「赤城さん!もう限界です!やめてください!」

 

「いいえ、私はまだ動きます

私の子供達(艦載機)も、まだ動けます!」

 

赤い装束を血に染め直し

普段はどんな時でも崩さない姿勢を揺るがしながらも艦載機の操作は止めない

 

そう、今の赤城さんは

妖精を介さない直接操作で四十機の精鋭機体全てを操っている

 

「ぁぁぁああぁぁっ!」

 

絶叫が響く…それは誰のものなのか

それはもう定かではないけれど

 

私は思考を挟むことなく

主砲を構えて…撃った

 

「もう貴女に未練を掛けるつもりはないわ、山城」

 

「オ姉様…」

「私と貴女が姉妹であっても

今の関係は敵同士

そして、赤城さんは決死の覚悟を決めた…なら私は!」

 

「おっと、その先はダメですよ」

 

ふと割り込んできたのは

明石さん

 

「さあ、艤装の修理は私に任せて

全力でやっちゃってください!」

 

「…承りました、()()()やらせていただきます!」

 

見慣れない階級章をつけた制服を纏った明石さんを背に回して、私自身でも扱いを至難とする、巨大かつ鈍重な艤装を唸らせ

 

「…扶桑改ニ」

 

はるか昔に顕現した、今は封印していたはずの、その言葉をそっと呟く

 

「約束通り、貴女と一緒の改ニです、山城…貴女が求めていた私の改ニは

貴女にとって、今纏っているそれのような濁った色だったの?」

 

「ソンナ訳無イジャナイ

オ姉様ハ…私ナンカジャ届カナイ高ミデ輝イテイルモノ…私ナンカジャ届カナイカラ!私ハコノ艤装デ差ヲ埋メル!オ姉様ノ背中ニ追イツクタメニ!」

 

「ならそんな物は捨てなさい

私と同じ改ニを求めた貴女が

そんな物を背負って満足しているのはもう見ていなく無いわ!」

 

「お姉様ノ分かラズ屋!

モウ良イワ…沈めル…沈メテ見セル!お姉様ニ!私の世界ヲ見セテアゲル!」

 

絶叫が轟くと同時に、砲門が開かれ

閃光が奔るその瞬間より前に

 

()()発砲した

 

「グゥゥッ!」

その一撃は、私自身の砲と引き換えに扶桑型(山城と)共通の欠点たる脆弱な中央部の構造を突き、その艤装を一瞬で大破させる

同時に自分自身もまた、艤装の主砲を失い、その反動で大きな負荷が掛かり

改ニが強制解除されてしまう

 

「…山城、もうやめなさい」

「ヤメラレナイワ…モウ止マラナイ、姉様ニ、最強の戦艦トシテノ景色ヲ

見セテアゲル迄ハ!」

 

大破した艤装を無理矢理に稼働させて強引に動き、隙あらばフィニッシュ魚雷を狙っていた大井さんを一撃で吹き飛ばす

 

「やられちゃった…?」

 

「砕ケ散レッ!」

突然飛び出てきた雷巡チ級が

自らの声と同時に爆殺される

 

そう、大破していたはずの大井さんが

一瞬で艤装を修復し、反撃した

 

そんな現象を、

私はニ通りしか知りません

それは、応急修理女神による轟沈即時全回復、そして

 

『改ニの実装に伴う艤装進化』

 

ここに来て3枚目の切り札

大井さんの改ニが開花したのでした

 

「さあ、冷たくて素敵な酸素魚雷、本当の力を叩きつけてやるのよ!」

 

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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