「はい、大淀さん、連絡ありがとうございます…はい、大丈夫です」
一人の女性が、電話を切った
「…良いのか?」
「はい、
向かい合う男女
暗い声に、どこかよそよそしい返事、それはかつての圧政の反動であり
同時に、今の二人の関係を表していた
「そうか、なら俺は止めない…俺はあまりにもやり過ぎた…もう何を言っても俺には止めることなどできんだろう…行け、かつて目指した理想の元へ」
諦観を滲ませる声は
もはや返事など求めない
彼は今も昔も変わらずに
ただ決定と結果だけを告げる
それが、断絶と離別への架け橋であると知っていても、彼はその生き方を変えられなかったのだから
「…行かせていただきます」
そうして彼女は、執務室を出る
迷いのない足取りは
変わることなく海へと進んだ
「なぁ頼むよ大将、約束だろ?」
それは唐突に響く声
あってはならないはずの声
「うむ、『必要な時に必要なことを』それを成す時が来たようだな」
答える言葉はどこまでも誠実
約束に則り、かつて告げた条項を果たすために、その違反を黙認する
「うん、大将…ありがとう
行ってくるよ」
「無断出撃…いや、諸事情で正式辞令が出遅れただけだから、思いっきりやれよ」
もはや彼女があるべきに場所に帰ってくることはないと、それを知っていても
大将と呼ばれた男は止めない
彼女の成長を見届けて
それがあるべき場所が変わった事を、知っているが故に
「!…わかった…それじゃ!
行ってくるぜ!ひゃっはー!」
彼女の想いは届いたのだろう
彼女の言葉は形を成した
それを喜ぶより前に
彼女はするべき事をする為に
行くべき場所へと向かうのだった
「やれるか…?」
長門さんが戦艦タ級達
重量級の深海棲艦の群れを相手に取り
主砲…を諦めて拳を構える
「フフフゥ……」
それを嘲笑うかのように
深海棲艦達は各々の武器を取り、強力な攻撃を次々に繰り出す
「ぅぐっ!」
「長門さんっ!」
「構うな!」
明石さんと電ちゃんは鎮守府外の東側、工廠の方を防衛に向かって
今ここにいるのは私と長門さんだけ
「清霜…油断するなよ?」
「はい!」
ここは海ではなく陸
戦闘エリアが展開できない場所
戦闘エリアさえ展開できれば
基本的には周囲には被害が出ることはない
稀に戦闘フィールドの中に取り込まれたものが戦闘の余波で壊されてしまうことはあるけど、それは誤差や些少な犠牲の範囲内であって、被害率として低い
でも、陸では話が違ってくる
それが問題
「鎮守府の方に砲撃が飛んで行ったら…鎮守府の提督が危ない!」
「それは私とて庇いきれん、だが提督も自衛程度の戦闘力はある、清霜!提督を信じろ!提督は事故程度で死んだりはしない!
お前は提督とあまり関わっていないかもしれんが、私たちは知っている
提督は少なくとも約束を破りはしなかった!」
「はい!」
しっかりと鼓舞してくれる長門さんに元気よく返事をして、私も砲を向ける
魚雷を使用できない陸上戦が故に、雷装値を火力に合計して攻撃力を算出する夜戦状態での攻撃力も激しく落ちるし、そもそも戦闘エリアが使えない以上
明確なフェーズ分けのされた戦闘にすらならない乱戦の可能性大
「…それでも、やるしかない!」
「その意気だ!」
私の声にちゃんと応じてくれた
長門さんと一緒に、
両手の砲で砲撃を仕掛ける
駆逐艦の使う小口径砲なんてせいぜいが豆鉄砲、戦艦相手にロクな効果はない
それでも、チリも積もれば山になるって言うから、私は諦めない!
「可愛イワァ…」
「慈悲ハナイ、ヤラセテモラウ」
「姫ノ命令ダ、悪ク思ウナ」
「傷ツケルノハ忍ビナイガ…」
「我々トテ…ヤルベキ事ヲ違エル事ハデキナイカラナ」
やはり陸上戦を想定してか
機銃や高射装置、爆雷、副砲といった地上でも使用可能な武装を主とした装備を構える棲艦達
「いけるな!」
「はい!」
その声を契機として
その場の全員が同時に動く
《砲撃戦 開始!》
誰の仕切りもなく、
誰が先走ることも遅れることもなく、敵味方の区別もなく全くの同時に響いた
射程の長い短いは海上ではないこの山路には影響せず、攻撃の順番は明記されない
それでと砲撃は射程が長い方が有利であることに違いはない
「っ?!」
短射程である私はとにかく近づかなければ話にならないので、全力で接近を試みる
一応高い地形適正をもっているらしい私は、接近戦の訓練こそ受けたけど
到底熟練とは言いがたい
もちろん、私の目指す戦艦の形にも程遠い
「けど!それでもおっ!」
重巡や戦艦の敵艦からの攻撃や必死で回避して、全力で接近する
「撃てっ!」
両手に握った砲で狙うのは
肉体部分のクリティカルヒット
「撃てぇぇっ!」
長門さんもおっきな連装副砲で援護してくれているうちに、全力で攻撃する
「…清霜!」
長門さんの声に合わせて後退
続け様に主砲を連射する長門さんの後ろに隠れて弾を再装填
「終わりました!」
「了解…未だ!」「はい!」
くるり、と交代して
再度砲を放つ
それを何度繰り返しただろうか
繰り返し、繰り返し
続けてきた事にいつしか意識は鈍化して、どこかがズレてきてしまったのだろう
それは起きてしまった
「撃てっ!」
引き金を引いたその瞬間
ガキリという音が鳴り
撃鉄が止まる
そう、
「っ!」
「下がれ清霜!」
とっさに長門さんが前にでて
私に降り注ぐ弾雨を防ぐ
肉体部分に直撃する多数の弾は
艤装の装甲を瞬く間に破壊して…
「ぬぅぅぅっ!!!」
血飛沫が硝煙に混ざって空へと散った
「長門さん!」
私が招いてしまった事態
それに直面して
私はただ、叫ぶことしかできなかった
「ながとさぁぁぁん!!」
600話記念番外編は
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……