戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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地点乙 桜の花、風に踊る

姫が消えたとはいえ、駆逐棲姫が集めてきた艦隊が消えるわけではない、ただでさえ火力に乏しい点を自覚して、艦隊に数を揃えて対策を取っていた駆逐棲姫

 

その艦隊は凄まじいほどの数を以って押し寄せていた…わけでもないが

姫を中核とした艦隊は

姫自体の指揮によって

艦娘同様にスペックを上昇させる

 

姫を失ったが故に、性能が維持されているのか、下がっているかは未知数だが、とにかく数が多い

おまけに情報の回りが遅いのか

姫がいなくなったことに気づいていない艦が多く、意気軒昂たる攻勢は何も変わっていない

 

「…姫がいなくても攻撃をやめないなんて…」

「大和!」

「はい!」

 

初春の警告と同時に襲いかかってきた重巡ネ級の砲撃を自らの堅牢な装甲で受け止め、味方への被害を防ぎつつ

冷静に応射して敵を沈めていく大和

 

彼女こそ冷静だが、そもそも

戦場が白熱しすぎていて

敵味方が入り乱れ、周囲は混乱状態にあった

 

「これは危険ですね…」

 

こうも敵味方が入り乱れていると

大和のスペックを以ってしても至近距離への接近を許してしまうこともある、そして

 

「至近距離での雷撃は…危険です」

 

今まさに懐に入ってきたイ級を蹴り付けて吹き飛ばし、傘で機銃を受け流す

 

あたりには深海棲艦、そればかり、水面は見えるがそれも残骸がそこら中に見られて黒くなっている

 

「初春さん?!」

 

…おまけに敵に囲まれたせいで

友軍を見失いやすい

「見失ってしまいましたか…」

 

「バカメ!」

「馬鹿とは何ですか馬鹿とは」

 

突撃してきた駆逐ロ級を右腕の艤装の装甲で受け止め、拳で反撃、叩き返す

 

至近距離での対応はとかく忙しい

そもそもタスクの多い大和は

多重処理を嫌って接近を避けようとするが、それをすると艦隊から孤立する上に、今度は同じように前線を離れていた戦艦の砲撃を雨霰と受けてしまう

 

流石にそれは装甲がもたないので遠慮したいところである

 

「大破している時雨ちゃんは春雨ちゃんと一緒に鎮守府に帰りましたけど、

天龍さんは大丈夫でしょうか…?」

 

そう、視界を埋めるほど圧倒的な数を頼みとする敵に囲まれながらでは

味方艦隊の援護もできなければ

ぞそも相互の位置関係の把握すらできない

 

幸にして通信は通じているから、沈んではいない(最悪の事態にはなっていない)ことはわかるのだが、それ以外は不明である

 

「ちょっと困りましたね…」

 

「ボケットシテイルカラ!」

「沈ムンダヨ!」

 

「いいえ?別段呆けているわけではありませんよ?」

 

砲弾を砲弾で迎撃しつつ

あえて持ってきていた中口径砲で牽制射撃、そのサイズの戦艦にしては快速とされる

速度を落とさずに適正射程まで移動して…

 

「主砲、撃てっ!」

 

46センチ三連装砲で沈めた

 

やはり数こそあれど、

その質は高くない

 

これに囲まれたところで、質の極地である大和型からすれば厭わしくこそあれど、忌まわしい状況ではない

 

「…さて、お二人を探さないと」

 

戦場で長時間逸れたままになってしまうのは危険、そう判断した大和は

二人との合流を急いだ

 

 

「数がへらねぇ!そっちはどうだ!?」

 

背後に向かって叫べども

その声にいらえはない

 

「チッ!…面倒な連中だぜ!」

 

天龍型は旧式、よく言われる事だ

だが、天龍は決して弱くはない

 

想いの強さが力に直結する艦娘において、旧式とは弱いこととイコールにはならない

 

むしろ年月を経て蓄積された経験と想念は単なる性能(カタログスペック)の差を凌駕するほどの力を発揮する、旧式は時に最新型にすら勝るのだ

 

「負けられない戦いだからな…」

 

普段ならば、『撤退』の二文字は安全策として、時に願い、時に強制されるもの

だが今は違う

この戦いに交代(後退)はあれど撤退はない

あるとしたらそれは鎮守府の危機を意味していて、絶対にあってはならないものだ

 

「天龍!聞こえるか!」

「初春か!どこだ!?」

 

聞こえてきたのは、初春の声

大和とはさっき逸れてしまった天龍であるが、その大和について行ったはずの初春の声が聞こえるとなると…

 

「大和はどうした!?」

「囲まれた時に逸れてしまった!」

 

「なるほど…よし!こっちこい!」

 

聞こえた声から位置を推測し居場所を特定、そちらに方向に向かいつつ

連続砲撃で雑魚を散らす

 

大和のような大口径主砲で

華々しく戦うなんてことはできない軽巡洋艦だが、たかが軽巡一隻とは言わせない

 

「個体最強の天龍!それがオレだからな!」

 

無論、古参兵である天龍は

艦の記憶も相まって、艤装のリミッター解除のやり方も知っているし出来る

多少整備だってするし

材料があれば装備開発、改修の真似事も出来る

 

だがやはり、この天龍

過剰適合を除いてなお突出するスペックをもつ、戦闘力の個体最強なのだ

 

「…見えたぞ!」

 

初春の髪色は深海棲艦に紛れることはない薄紫色、故に低身長の初春でも

深海棲艦の中にいれば目立つ

それを目印にして探した結果…

 

そこら中に弾をばらまいたが

それでもなんとか合流に成功した

 

「よし!」

「天龍!」

 

艦種に関係なく気軽に名を呼び合える友人関係であるが故に許しているが

本来、規律的には

艦種が上の天龍は敬称が付くべき

 

それを略して呼ぶのは

やはり初春だけだ

 

「おう、初春!」

「ようやく合流できたの」

 

故に、天龍は笑う

 

戦場に絶対はない、再会を誓った友が次の日には沈んでいるその世界を生き抜いた戦士として、戦場での再会を祝して

 

「んで…ごーや」

「でち!」

 

いつのまにか足元にきていた

ゴーヤが浮上する

 

「いつから気づいてたでち?」

「最初から、オレの足元にずっといたのも気づいてた」

 

「はえ〜…すっごいでち」

「本当に気づいておったのかの?」

 

そんな気の抜けた掛け合い、

 

戦場の中にあって

ここにだけは異質な空気

平穏の空気が漂っていた

 

「沈メ…沈メ…」

 

それを壊した愚か者が、ここに一人

 

いや、それは蟻のように無尽蔵に

 

「シズメェェ!」

「死ネ…終ワリダ!」

 

湧き上がっては

波に攫われて消えてゆく

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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