戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

371 / 649
新章 一人語り
片思い


提督が触れた瞬間、

深海鶴棲姫の動きが突然止まり

そして

 

その数秒後、なんの前触れもなく

唐突に全身に罅が入り

ガラスのように体が砕け散る

 

そこに残っていたのは…提督だけ

 

「提督っ!」「テートクー!」

 

真っ先に金剛さんと榛名さんが駆け出して、それに続いて私たちも彼のもとへ

 

残っていた暴走形態の深海棲艦は

もう第六駆逐隊が相手している一隻だけなので、安心して彼の元へと行ける

 

「提督!」

 

無表情の提督は、金剛さんが抱きつきに行ったのを受け止めて、海面から突然落下した

 

「な!ちょっとテートク!?」

 

ばしゃぁ!という音と共に

海へと半身を沈めた提督を

金剛さんが榛名さんと一緒に抱える

 

「いったいどういう事デース!?アイヴィの主機が完全停止してマース!」

「っ!?」

 

艤装完全停止、それを聞いた瞬間に激しく動揺する翔鶴さん、私の目には

それはとても不自然に見えました

 

「翔鶴さん、どういう事ですか?」

 

「…艤装完全停止、それは

艦娘でいうところの解体を意味します、儀装の中核がどうなっているかは

私には分かりかねますが

おそらく、提督にはもう、海に立つ力は…残されていないのでしょう」

 

それを聞いた瞬間、いっそ奇妙なまでの無表情になった金剛さんと、形容し難い表情を浮かべる扶桑さん

 

「…テートクは…もう、戦わなくて良いんデスカ?…」

「人の身で前線に出るのは危険すぎます…それを止めるというのなら…喜ばしいと、思うべきなのでしょうけど…でも…」

 

深海棲艦を倒すために力を使い尽くして、その果てに待つのが海上での立ち往生なんて

あまりにも酷すぎる

 

「…そうか、これで、もう

技師…いや、神巫は、海に出なくて良くなったのか…」

 

武蔵も一抹の寂しさをにじませた表情のまま、金剛さんから気絶している提督を引き取って

そのまま抱えた

 

「まずは陸へ運ぶぞ」「…はい」

 

それは如何なる感情だったのか、

私にはわからない

 

提督が戦わなくて良くなった

それは嬉しい、筈なのに

“提督は戦えなくなってしまった“

頭のどこかでそう考える私がいる

 

なぜかはわからないけど、提督が現場から離れるのを嫌がっている

本来なら喜ぶべき、提督が危険から遠ざかったとみなすべきなのに

前線から引いたと、提督が離れてしまったとも思う

 

「…どうして…?」

 

いくら頭を振っても、その迷いは晴れることはなかった

 

side change

大和side out

金剛side in

 

テートクは取りあえず陸に上がって

医務室に放り込まれて

そこで検査を受ける事になりマシタ

 

確認した限りでは

外傷はおそらく至近弾の断片による擦り傷と切り傷、火傷程度

ただし大和撫子の負荷による

右上腕の靭帯断裂と骨折だそうデス

 

提督の体は治るのかと尋ねても

里見さんは曖昧な表現でごまかしてしまいマス、おそらくはもう、

提督が海上で戦える目はないのでショウ

 

…?

提督に戦わなくて良いなんて言い張っておいて、いざとなるとワタシが悲しむなんて

おかしな話デース…

 

「テートク…提督…もうこれ以上…心配かけさせないで…」

 

私に、似合いもしない

泣き言なんて言わせないでよ

提督…

 

 

side change

金剛side out

武蔵side in

 

どうやら、神巫は一命を取り留めたそうだ、まぁそれについては心配もしていない

 

しなし奇妙な事に

戦闘中、

貴奴が深海鶴棲姫に接触した直後

深海鶴棲姫が『消滅した』

 

それについてはだれも何もわかっていない

直接見たのが私たちだけなのだから、研究の一助とするべくできるだけ詳細に記録していたのだが、戦闘自体を録画していた訳でもなし

どうしても記憶頼りになる

それは勘弁願おう

 

「命に別状が無かろうと、

目が覚めんのでは困るな…」

 

永遠に気絶しているのでは

植物状態や死んでいるのと大差ない

いつか目覚めることを信じる事にしよう

 

 

「よし、ここの医務に話を聞こう」

 

私は思い立ったら即行動を理念としている、些かも躊躇なく、創海鎮守府の医務官

里見中尉の元へ向かった

 

「単刀直入に聞こう、提督はどうなった?」

「どう、と聞かれましても…」

「ならば質問を変えるぞ、あれは何をしたんだ?」

 

「…そう、ですね。

おそらく、自分の魂の力全部を

深海鶴棲姫に流し込んで

力の喪失を代償に、その存在を『満たし』深海鶴棲姫を撃破した…のではないかと」

 

「…どういう事だ?」

 

聞き返す私に、彼は適当なフリップを持ってきて、説明を簡略化しはじめる

 

「良いですか?まずは、提督の体についての状況を説明します、提督は

艦の魂に自分の魂を直接接続する、という荒技で自らを疑似的に艦娘と同じ状態にしています」

 

キュッという音を立てながらペンで提督や艦娘、艦と書き込み、提督と艦娘とをそれぞれ個別の円で囲み、その間に線を引く

 

「通常、提督と艦娘の魂の接続は、このように『縁』という形で行われます

心柱の接続がこれに相当します

当然ながらフィードバック率は低いです」

 

提督と艦娘を結ぶ線の上に『縁』と書き込むと、次に里見中尉は、提督の円に重なるように『艦』の字に円を付けて

 

「神巫提督はこのように、直接魂を接続していました」

 

「なるほど…読めたぞ、つまり

体への影響は魂に接続していた艦本体の魂が提督の魂を圧迫していたからか!」

「いいえ」

 

これだと確信した私の言葉は

いとも簡単に否定された

「正確には提督の魂は、艦の川内に融合し、その力の引き出しを可能として

一時的に『艦娘になる』事ができました、もはや一つの存在と化しているので

魂の圧迫とは関係ありません」

 

「…………」

 

「それに、まず問題なのは現在の提督の状況です、艦娘の皆さんの報告を鑑みるに

おそらく、提督は、深海鶴棲姫の艦本体の魂にアクセスし、自らの魂を注ぎ込んで、容量の限界を超えさせる事でその魂を崩壊させた

その代償として、魂を激しく損耗し、艦娘との接続も一時的に途切れている

と思われます」

 

「さらにわかりやすく言うと

提督は深海鶴棲姫のコアに魂の一部を置いてきたんです、そのせいで目覚めない

魂が欠けたダメージは、人間には大きすぎますからね…まぁあの提督のこと

もう二ヶ月もすれば起きてくるんでしょうけど」

 

そう言って、なんら心配などしていないかのように笑っている里見中尉を見ると

本当に神巫提督のことを信頼しているんだな、と思う

 

…これでは無駄に心配している私が馬鹿のようではないか、全く…

よし、戦闘も終わったし

条件も満たしたものと考えよう

…うん!

 

「よし、里見中尉、私はそろそろお暇させてもらうぞ、そろそろ佐世保に帰らねばならないからな」

 

身を翻して歩き出す

私は突然押しかけた身、あまり長く留まることはできないからな

 

「おや、提督への挨拶は

よろしいんですか?」

 

「二ヶ月は待てんよ、それに」

 

「それに?」

 

背中に投げられた

鸚鵡返しの問いに、振り返って答えた

 

「生きてさえいれば、

またどこかで会えるからな」

 

応えは帰ってこなかった




片(艦娘サイドの)思い

タイトル詐欺じゃないな、ヨシ!

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。