あれからの生活で、すっかり頭の中に別人がいない生活に慣れてしまった
いや、元に戻ったというべきだろうか?…まぁ、それはともかくだが
「…提督としてこれはどうなんだ…」
自分で言ってしまうほどに体力は落ちていた、一般的な成人男性より体力があるという自信はあったが、やはり半年寝っぱなしは堪えたらしい
佐世保帰りのこの体も大きく衰え、回復には一月を要した…それも、十分に回復したとは言えない
未だに毎日ぐぅたらと過ごして菓子食って寝てる自称インドア派男子程度の体力しかない
そんな物では現場指揮は到底取れない…いや、現場指揮はもう俺が取る事は無いんだったな
「…おう、どうした?」
「提督、失礼します」
病室に夕張が入ってきて、
俺に…差し出した…のは
「なにこれ」
「レポートです、提督の体調と状態についての、これまでの推移とこれからの予測も含めての物です」
「レポートってこんなに分厚いものか?…ちょっとした論文に匹敵するぞこれ…」
「大丈夫です、研究論文ならもっと長いものが既に存在していますから、
それに提督の体や状態をもとにした研究の結果、という側面もあるので
このくらいの厚みは当然ですよ」
提督とは研究の実験台の事だったのか
俺は初めて知ったぞそんな事
「まぁとにかく、提督の現在の状況だったり、一応の説明だったりを書いてありますので
暇な時間に読んでおいてくださいね?…夕張との約束ですよ♪」
「そんな可愛く言っても無駄だぞ」
「可愛ければいいんです!
可愛いは正義なんです!」
「…はいはい…まったく…」
分厚いレポートはやはり急造の腕に堪えるので、適当にそばの机に置かせてもらう
意外とパワーのある夕張はリハビリ中の俺の体なんぞに気を払ってはくれない…
いや、払い方が足りないのだ
「それで?他には何かあるかい?」
「いいえ、それだけですよ…あ、そう言えば」
「なんだ?」
「提督がいない間に、新規建造されたり、派遣着任された方々って、もうご挨拶されてますか?」
「いや、俺は出歩くこともできないし、肉体的な方の意味での衰弱でしばらくの間は面会謝絶だったからな…まだ挨拶はできてないよ」
「そうですか、では
皆さんを呼びますよ」
俺に返事を聞かないまま、夕張はさっさと出ていく、もうちょっと慎重になってくれないか?
おいそこ、ブーメランとか言うな
「…」
諦めて遠い目をしていると
しばらくして何人かの艦娘たちが入ってきた
「ボクが最上さ、大丈夫、今度は衝突しないって、ホントだよ?」
「ごきげんよう、三隈です
今まではご挨拶にも伺えず、大変申し訳ありませんでした」
「ごきげんよう、私が重巡、熊野ですわ」
かつては鈴谷しかいなかった最上型の残り三人である、
「金剛姉様の妹分、比叡です
経験を積んで、姉様に少しでも近付きたいです」
「金剛型高速戦艦、榛名、正式に転属着任いたしました!提督♪今後とも、よろしくお願いしますね」
「はじめまして、高速戦艦霧島です」
さらには榛名を挟んで横に並ぶ
金剛型姉妹の二、四女と初顔合わせとなった
「これで金剛型が四人揃いマシター!」
「…いつからいたんだ?」
「ずっと前からデース!」
もう驚かないことにした
俺はもう金剛型で驚くのはやめたんだ、うん
「バーニングッ!」「よせ」
ベッドの俺に飛びついてくる金剛を制止すると、露骨に不満そうな顔になってしまった
「金剛、お前は長女なんだから規範を示せ…それ以前にお前は戦艦だろうが」
『お姉ちゃんなんだから我慢して』
理論である、特に利点もない年上なんて立場であるが故に自由を削られると言うので、言われると若干イラつくが、言う側は当然のように使ってくる理論
これを俺が行使する日が来るとは思ってもいなかったが、金剛を制止するのは
それだけの理由ではない
金剛のパワーは長門型ほどでないにしろ、戦艦であるので当然高く
今の俺にそれに対抗できる力はない
つまるところ、勢いで押し倒されたらそのままヤられる可能性があるのだ
職場内の風紀を気にせねばならない上司である以上は、その辺の警戒もせざるを得ない
…うん?なんか金剛に言ってる理論と自分に適用してるルールが似てるな…
よし、考えないことにしよう
「…私は巡洋戦艦デース!だから軽巡と同じ枠でOK!lets!」「だめです!」
再び飛び込もうとして、実際にジャンプまで行った金剛を、榛名が迎撃して
足が地面から離れて…ベクトルを殺しきれず…俺の方に飛び込んでくるっ!
「お前ら本当になにやってんだよ!」
金剛のエネルギッシュさは予測を超えていたのか、霧島は固まったままだし
比叡は動くことすら忘れているかのようにポケーっとただ見ているだけだ
未改造の最上達は重巡の中でも小型かつ軽量なため、この状況に介入できるほどのパワーがない…詰みだな
結果、
見事に俺が身を預けていたベットに
金剛と榛名が飛び込んできたわけだ
これは…金剛の目論見は成功というべきなのだろうか?少なくとも空中激突からの着地失敗で目を回してしまっているように見えるが…
「とりあえず最上、三隈、まずは里見くんを呼んでくれないか?
二人は頭を打ってしまったようだ」
「…は、はい!」
「かしこまりました!」
慌てて退出する最上型二人
熊野は待機だ、迷ったら帰れなくなってしまうという謎の特性があるからな
「霧島は氷を取ってくれ、
そこの冷蔵庫にある、比叡は…うん、なにもしなくて結構だ、この二人を見ててくれ」
ぶつけてしまったらしい額と
かなりの勢いで落下してきたので、念のため背中の方を打っていることを想定して
冷却材を用意してもらうことにした
俺も備品のタオルなどを使った氷嚢と氷枕の用意を手伝う
二人は大丈夫だろうか…
「提督、お気遣いありがとうございます、病み上がりなのに、ご迷惑をおかけしてしまって…」
「何、気にするようなことじゃない
金剛はエネルギッシュだからな
…多少、ついていけない所もあるが
俺自身も、どこぞの提督達も、明るくて元気な金剛からは、沢山の元気や幸せを貰っている
…今回のも、多分そういう落とし所になるから、問題ないよ」
フワッとした表現でごまかしつつ
用意したタオルでくるんだ氷嚢を
ぶつけたらしい額にそっと当てる
「…個人的には…俺も、金剛のことは好きなんだけどな…」
あらぬことを口走りつつも
目を回している本人には聞こえないと分かっているので無視する
「後で里見くんに説教をしてもらおう」
金剛の背が、ピクリと震えた気がした
600話記念番外編は
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しぐ……しぐ……