「…突入していったぞ、通信はもう届かない」
「なら話は早いですね」
〈そうだな〉
メディックの言葉と同時に、突然響く声
それは
「自己紹介は不要でしょう?
「ええいうざったい!黙れ花油!」
「そんなつれないことを仰らないでくださいよ先輩、積もる話と研究レポートがあなたを待ってるんですから」
「何があろうと誇りを手放した研究者のレポートなんぞ見たくもない
ろくでもない人体実験を繰り返した記録がせいぜいだろうが!」
花油は揉み手をしながらやたらと絡んでくるようで、ひどくうざったい
「いやいや〜全くお人が悪い…貴方も似たような事をしているというのに」
「私は人として、研究者としての誇りを捨てたわけではない、事実私の実験は人体実験でこそあれど安全性の担保と十分な保障の上で許諾を得て行っているものだ!」
メディックは絡んでくる花油を邪険に振り払いながら叫んだ、しかし
その瞬間、ゾッとするほどに冷たい、抑揚のない声が放たれる
「それが私の妻を殺した貴方の言い分ですか?」
「なんだと?」
「私の妻は、足柄は!他ならぬ貴方に殺されたんだ!」
白衣をはためかせながら怒鳴る花油
その声に込められた憎悪と激怒が、わずかにメディックを圧す
「…足柄…だと?」
「忘れたとは言わせない…四年前の西暦2016年、6月25日の水曜日
貴方が死なせた
「……足柄、か…」
目線を上げて、思索に入り
懐から取り出したメガネをかけるメディック
「そうだな、思い出したよ
四年前、6月の終わり…私は呉の鎮守府に駐在する研究員だった」
通信から流れてくるのは
モノローグにも似た語り
「そして、私は予定していた足柄の解体を実施し、その艤装を分解した」
「そして貴方は!実験と称して足柄を殺したんだ!」「違う、それは彼女自身の意志だ」
ヒステリックな叫びは
すぐさまに否定される
「艤装の解体中、深海棲艦の襲撃にあった…そして彼女は、解体を実施し分離した艤装を再び起動させ、コアとの接続無しに強引に海に出た、そして戦艦タ級の砲撃から駆逐艦を守ってその身を散らした」
「なんだと…!良い加減な事を」
「良い加減に聞こえるかな?
正式な記録では艤装の解体の後に病死となっているが事実は違う、彼女は無理を押して出撃し、そして轟沈したんだ」
「そんな…そんなはずはない!
退任だったんだ…あの日に!それがどうしてそんなことになる!」
「………………」
「言えるわけがないだろうが…」
メディックのつぶやく声は
もはや花油には届かない
「嘘だ、嘘だ嘘だ!
足柄が…
呆然とした花油の声は、
誰にも聞かれることはない
「僕の足柄が…自分から出撃…?そんなわけがない、退任の日だったんだ
ようやくたどり着いた…幸せになれる日だったんだ…それをお前が奪った
それは変えようのない事実だ!」
「事実がどうあれ、君にはすでに現実が見えていないことは確かなようだな」
皮肉を込めて、研究者としての失格を言い渡すメディックに、憎悪を込めた目が向けられる
それは狂気と虚偽を混合し
ドロドロに溶けた何かと化していた
「死ね…光流の仇ぃいぃいいっ!」
「君の嫁は…いや、もはや私にそれをいう資格はないか…」
狂気的な瞳は濁り果て
その手には拳銃が握られた
そして一つの音が死を告げる
心臓を撃ち抜かれたメディックは
その直前に、小柄な少女へと姿を変えていた
コピー品ではない『叢雲の艤装』が展開し、肉体を艦娘:叢雲に置換
一瞬にして
「それは!」
「私は叢雲、特型駆逐艦五番艦の叢雲よ…えぇ、言いたいことはわかるわ
でも、私はこの人を守るって決めたの
あなたの事情なんて、そこには介在しないのよ」
蒼灰色の髪を揺らす少女は
それだけを言い切ると艤装を顕現させる
「足柄さんの心も理解せずに、勝手に無茶苦茶化するようなあなたなんて!」
そのまま主砲を向けて
一気に撃つ
「っ!」
硝煙と爆発、同時に衝撃でカメラが破損したのか、メディックの視点カメラがブラックアウトする
「しかし…これがあなたの切り札でしたか…いかに艦娘の砲撃と言えど…」
「まだ立つの!?」
音声だけは続いているようだが
花油には効いていないようだ
「駆逐艦ではなぁっ!」
「きゃぁぁぁっ!」
ぐちぐちと肉を引き裂くような音とともに、叢雲の悲鳴が聞こえてくる
「小型の駆逐艦にしか適合できない程度の貴方とは違う!私は戦艦の力に適合したんだ!駆逐艦如きが!私の前に立つなぁぁっ!」
炸裂音と共に、通信は今度こそ途絶した
すまねぇ足柄さん…
600話記念番外編は
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……