雹 side
「
深い昏睡状態であったはずの扶桑が目を覚まし、赭灼に染まった目を開く
「…………」
「
「……………」
茫洋としたその瞳はオレを捉え、そして扶桑は腕を縛る鎖を引き千切った
〈バカな…!そんなパワーを使ったりしたら危険だ!〉
ハンドラーの声はもはやただの雑音となり、山城の艤装もまた沈黙する
もとより
壊れてしまう事も覚悟していた
「
「…や…ま……しろ…」
もう動かない山城の
「ぐっ…がはぁっ…」
その時までは
そう…扶桑は、接近するなり
首を絞めてきたのだった
「あなたは…やましろじゃない…」
その握力はとてもさっきまで眠っていたとは思えないほどに強く
視界が徐々に暗くなっていく
(…やばい…死んだかも…?)
〈よせ扶桑!〉
「…………!」
扶桑がバネでもついているかのように飛び跳ねて退がり、血流を取り戻した肉体に酸素が充足する感覚を味わながらその原因を理解した
「肉塊…もうこんなところまで!」
そう、先ほど逃げてきた肉塊が
もう施設の一階全体を制圧しかけていたのだ
「まずい…逃げるぞ扶桑!」
「!…」
採光窓は存在しないこのクリーンルームに置いて、出入口は肉塊が入ってきたその扉以外にない
ここを抜けるためには、どうにかして肉塊を吹き飛ばす必要がある…!
オレの方へと向かう肉塊は無視してステップやジャンプで回避し続け
扶桑の方に向かう肉塊をなんとかして防ぐべく頭を巡らせる
「何か秘策はないのかハンドラー!」
〈すまない、給油と再爆装、順次出撃を急いでいるが、給油の時間が足りない!
今6機目を飛ばしたところだ!〉
「クソッ!遅いぞ!」
〈俺に言うな!これでも最速なんだぞ!〉
〈私の方は今全機出撃が終わったわ、到着予測時間は7分後、それまで耐えなさい〉
「遅いっ!」
もうどうしようもない状態でありながら七分間なんて耐久できるわけがない
どうすればいいんだ…?
どうすれば生き残れる?
どう…どうすれば!
「扶桑!」
考えているうちに、ずいぶん深く考え込んでしまっていたらしい
自分の考えていた以上に行動を放棄していた肉体が、咄嗟の命令にエラーを出す
「………っ!」
もはや躱しようの無い距離、
そこに、オレの体を挟み込む
「っ!」
「ぐぅぁぁぁっ!」
肉塊がオレの足に突き刺さる
その瞬間、視界が真っ白になる
「いやぁぁぁっ!」
そして、絶叫が天を裂く
それは、城滝でも、もちろん肉塊でも無い
それは、扶桑の声だった
「ぐぁぁうぉぉおっ!」
足に突き刺さる肉塊を気合で弾き飛ばし、そのまま扶桑に駆け寄る
「
「……ん」
扶桑の手が、今度は艤装に伸びる
「やましろ…」
その瞬間、強制的に艤装が解除され
オレは弾かれる
「…」
そして、そこには
山城コピー艤装を着けた扶桑がいた
「…戻ってきた、ずっと、離れ離れだったもの、えぇ、ありがとう
…行きましょう、一緒に」
支離滅裂な言動だが
言いたいことはわかる
「だが、その艤装はエネルギー切れ状態、燃料や弾薬を補給しないと…」
「大丈夫、大丈夫よ」
その言葉は、何の意味もないはずで
しかし絶対的な力を伴っていた
「…私が、全部やってあげるから
もう、怖がらなくていいの」
そして、やはりなんの変わりもなく襲いかかって来る肉塊が爆散する
「……は?」
「壊すわ…」
初めて使うはずの艤装、そもそも使用できるはずのない他人の艤装
それを完璧に扱って
溢れるほどの覇気と共に砲撃を繰り返す扶桑
〈ど、どうなってる!?急にバイタルデータが変化したぞ!〉
扶桑の方から聞こえた通信
ハンドラーの困惑したような声
「扶桑が山城の艤装を使ってるんだ!すごい動き!初めて使ったとは到底思えないぞ!」
ハンドラーに情報を届けるために
大声を出すと、それに反応したのか勢いを増した肉塊を、扶桑は躊躇なく打ち潰していく
〈状況はわかった、扶桑の回収に成功、ついでに覚醒にも成功して
現在は時間切れの山城艤装を扶桑に適合させて使ってるんだな?〉
「…そう」
扶桑が呟くような声で返事をして
〈了解だ、扶桑…声だけですまんがオペレーターを務めている、『ハンドラー』だ
今作戦中のオペレートを行う
早速だが、この肉塊については物理攻撃よりも霊的攻撃の方が効果が高い
艤装を使った砲撃、射撃を強く勧める…そして、あと一分40秒で『時間』だ〉
その言葉は、扶桑には伝わっていないようだが、オレには意味がわかった
加賀の出す彗星江草隊が到着する予定時間まで、あと一分四十秒
もうすこし耐えれば、それで勝ち
そういうことだろう?
「扶桑、少しの間耐えられるか?」
「………ん……」
戦場においては艤装のないオレなんて存在意義がないので大人しく引っ込んでおく
しかし、扶桑はどうも断片的な単語しか話さないので、オレが視覚から獲得した情報で補填してやらないと情報が妥当に伝わらないだろう
「…扶桑、あとちょっとで仲間が助けてくれる、それまで耐えてくれ!」
「ええ」
扶桑は黙々と、近づいてくる肉塊を処理し始めた
もうお分かりだとは思いますが
この章のメインキャラクターは二人組の
「博士+叢雲」「扶桑+城滝」です
以前作中で、『山城が深海棲艦になって襲ってきた時』には扶桑が山城に対して「醜悪な艤装」と言って撃破していますが、今度は扶桑が『醜悪な艤装』を使わされていて、コピー山城艤装を再適合することで無理やり回復させる、という真逆の流れを意識しています
まぁ、都合上代役ですが
600話記念番外編は
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過去編軍学校
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過去編深海勢
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裏山とかの話を
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……