戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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技師は見た

「いくよ、サラトガ」

「もう、サラと呼んでって言ってるのに」

 

不機嫌そうなサラトガが足を止めて、同時に俺に視線を向けてくる、

 

「いくよサラトガ」

「サ ラ で す」

 

軽く手を引いても抵抗される

どうも本当に不機嫌なようだ

 

「いくよサラトガ」

「サラです!」

 

…これ呼ばないとエンドレスループするやつじゃないのか?

 

「……………サラ、帰ろう」

「はい!提督っ!」

 

笑顔になったサラトガが、今度は自分から手を引いて歩き出す

そして

 

「……見せつけてくれるね」

 

俺は後ろにいた大将が苦笑しているのを背で聞きながら急いで撤退した

「サラトガ、こういうのは大本営()ではやめてくれ、ウチ(鎮守府)ならまだしも外聞が悪いから」

「また戻ってる…提督はどうしたらサラって呼んでくれるのかしら?」

「多分永続的にない事だと思うよ」

 

そっと会議室周辺を離れた俺は

サラトガと繋いでいた手を離して

研究棟のほうに来ていた

 

サラトガのリクエストである

車での移動中に俺の来歴や昔の鎮守府のことを聞きたがっていたので話してやった研究室のことが興味をひいたらしい

 

艤装研究室、何度か大本営に来ている俺の特にお世話になった771研究室と

怨敵 881研究室の様子見をしたいそうだ

 

「ドーモシツチョウ=サン

カンナギ デス」

「ドーモ カンナギ=サン、室長デス」

 

室長は笑顔であったが、やはり目元の隈はひどい

 

…またなにか研究に詰まっていたのだろうか?

 

「おお!随伴はサラトガ君か!

素晴らしいな君は!…あぁなんというか、狭くなってしまった部屋だが

来たまえ、コーヒーでも出そう」

 

額にタオル…(おそらく冷えている)を巻いた室長はコーヒーを淹れると言い放って

どこかへ走って行った

 

おそらく俺達自体は口実で、

コーヒーが飲みたいのだろう

あの隈は3撤目と見た

 

「提督、あのひと大丈夫なのかしら」

「大丈夫だよ、問題ないね」

 

実際は5撤を見たことがあるから比較的マシ、というだけなのだが

それでも何も知らないサラトガには

本当に大丈夫に聞こえたようだ

 

「…そう」

 

「俺達はここで待ってよう」

 

サラトガを引き留めつつ

入り口奥のスペース(本来なら通路の中心部)に構成されている談話室的な場所のソファに腰を下ろす

 

「いいのかしら」

「いいんだよ」

 

そして、しばらくして

 

飛鳥さんと…室長と…更造一級艤装技師!?

 

「今月だけの臨時移動です、どうも」

「あ、ども…二級の」「一度会ったことがあるから知ってるよ、

大丈夫、説明はいらない

ちょっときて」

 

「えちょっ」「来て」

 

強引に手を引かれて連れ込まれたのは…随分と様変わりしていた研究室の奥

仮組み中の艤装らしいものが鎮座する部屋だった

 

「これがなんだか分かるかい?」

「…?艦型は正直言ってわからないです、小型の戦艦艤装にも軽巡のようにも見える

……今までにない艤装ですね」

 

「そう、正解だよ

これは名前のない新造艤装、つまりいまだ名も力も持たないナニカの艤装

これに名を与えることで別の艦娘の艤装に変わることだろう

 

これを使えば、艤装が完全破壊した艦娘の再建造も可能なはずだ

…ダメージコントロールとは少し違うが、破壊された艤装を捨てて即座にこの艤装に再接続すれば、艤装ダメージをゼロに戻せる

…練度は多少下がってしまうけどね」

 

「暁の艤装も…?」

「そういえば君のところの暁も艤装完全破壊状態なんだったね、これはプロトタイプの仮組みだから、正式に完成するのはまだ先だけど

完成したらそれを送ろう

『暁の艤装』にすれば良い」

 

「…ありがとうございます」

「もっとも、それには一つ、条件がある」

 

 

「それは、君が一級艤装技師(マイスター)になることだ」

「!」

 

 

マイスター、一級の艤装技師

世界に10人しかいない、

最高峰の技師

 

その称号を持つものが少なすぎるが故に認定資格の基準が存在しない

という、意味不明な称号だ

 

「しかし、俺はコア干渉も出来なく」「関係ないよ、コアとの共感なんて出来なくて良い、むしろ出来ない方がいい、それは邪魔になってしまうこともあるから」

 

更造技師は半笑いで手を離し

棚に上げられていた艤装を取り出す

 

「これは、摩耶の艤装

私が新造した私作の艤装…だから、本来の意味では『儀装』に該当する

でも間違いなく、これは摩耶の艤装をとして機能する、妖精もそう保証したよ」

 

ガシャ、という音と共に

摩耶の艤装を置いた更造技師は、次々に棚から艤装を出して行く

 

「一級艤装技師には、基準は存在しない、でも一級として認められるためには

一級としての所以が必要

そして、貴方のそれは二級では絶対にできない『艦娘の新造』という一級の特権を成すことで得られると思って」

 

表情も変えずにいくつかの艤装を並べる更造技師

 

「新造パーツの作成に『優』適性の貴方なら、努力の果てには可能な筈

…出来なければ、それは貴方がそこまでしか成長できない種だった、という事」

 

「天龍、深雪、松風…瑞鳳、川内…」

「全部私が作ったコピー艤装だよ」

 

「あ、こっちにいたのか神巫君、コーヒー入ったよ」

「あ室長!…すいません忘れてました」

 

地味にひどいことを言いながら、苦笑する室長からコーヒーの入ったビーカーを渡され、普通に受け入れてコーヒーを飲む

 

「…あやっぱうめぇ」

「だろう?良い豆を使っているんだ…どうだい?更造君も」「私はビーカーではコーヒーを飲まないタイプだからやめておく」

 

「そうか」

 

流石にビーカーコーヒーにも慣れてしまった俺とは違い、更造技師はマグカップ限定の人らしい……いや、そっちの方がまともなんだが

 

「サラトガ君が待っているよ

行ってあげたらどうだい?」

「…すいません、今ちょっと考え込んでいて」

 

落ち込んだ声に、室長はビーカーコーヒー(ちょっと良い豆使用)を飲みながら応える

 

「……艤装の新造、かな?

私も一時期悩んだが、私にはできないと落ち着いたよ、やはり私は既存の艤装をいじる方が向いている

君ならどうかはわからないが

向き不向きというものもある

あまり深く考えすぎると危ないよ」「出来る、それは私の見立てだけど、とにかくできる」

 

室長の言葉に、

更造技師が割り込んできた

 

「彼には出来る、出来る可能性が極めて高い、だからその芽を潰してはいけない

彼が一級になりえる人材だというのは、貴方も言っていた筈だ」

 

張り合うように声を上げる更造技師は、室長に威圧感のある視線を向けながら語る

 

「彼には素質がある、それは紛れもない事実だ、今は提督などという雑務に殺されているが、彼の持つ光は我々に比肩し得るもの

私にはそれを勧誘しない選択肢などあり得ない、彼は提督ではなく技師が本業であるべきだ

その方が人類全体の生存と勝利に貢献できる」

 

「しかしそれは本来の彼の持ち味を殺してしまう!今の状態に満足しているのなら

彼を強引に引き込む必要などない筈だ!」

「必要だ、必要だ、必要だ

戦力は常に不足している、現状を知っている貴方なら分かっている筈

なぜ頑なに拒むのか?」「自分の意志にないことを強要するようでは本来の力を引き出せないことは君も知っているだろう、彼があくまで己を『提督』と定めるならばその決定に水を差しはしないと決めているんだ」

 

「その結果、人類がさらなる苦境に追い込まれても?」「それは極論が過ぎる!

たしかに人類は全体的な戦力差に押し込まれている、しかし現状は回復傾向だ

彼一人に大きな責任を押し付けるような状況ではないだろう」

「彼が作ることのできる有利性は『提督』よりも、『技師』としての方が遥かに多い。雑多に溢れる提督と違って、一級艤装技師は日本に10人だけ、その希少価値を鑑みれば分かる」

 

俺をよそに激しい口論が始まる

 

「彼の力は技師としてこそ輝く!」

「提督であるのなら提督として在るべきだ!」

 

視線をぶつけ合う二人と

コーヒーを飲み切ってビーカーを置きに行った俺は自然に別れて、同じく空のビーカーを持て余していたサラトガと合流した

 

「あの二人は…何を話しているの?」

「提督として働くべきか、技師に戻るべきか、それが問題らしい」

 

「……提督、もしかして

鎮守府からいなくなったり、するのかしら?」

「よくわかったね、提督を辞めるのなら鎮守府を去って大本営所属に戻るだろう

そのあとに何処に配属されるかは不明だが、とにかく戻ってくることはないだろう」

 

提督が肩書だけを挿げ替えて別の役職になった鎮守府がどんな状態になるかを考えた俺は

次に着任することになる『提督』に全く従わない艦娘たちの姿を幻視して

そこまででイメージを打ち切った

 

「こりゃダメだな、戻ってきたら次の提督が完全に空気だ」

 

「提督はいなくなったり

私を見捨てたりしない…わよね?」

「しない、捨て艦にもしない

大丈夫だよ、俺はずっと…そばにいる」

 

ゆっくりと手を握ると

焦ったような表情だったサラトガは呼吸を落ち着かせる

 

 

「……僕らは何を見せられているんだろうね」「さぁ?ラブコメじゃないか?」

 

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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