「よし」
空母棲姫の体が揺れる
砲撃自体は大したダメージではないのだが
それを差し置いてもダメージの蓄積が大きい
「グッ……」
「終わりだな」
体の揺らぐ空母棲姫は、それでも足を踏み込み、俺に最後に一撃を放って来て
それをサイドステップで回避し
拳銃で艤装の溶着部分を撃つ
深海棲艦の艤装は硬い、生体パーツを含む上にビスやボルトによる固定ではなく
融着している一体型の構造を持つため、平均的な艦娘の艤装よりも強度が高いのだ
「だが…それも…」
一点に火力を集中して
ただ一箇所を破壊するだけならばできる
「これでっ!」
「砲撃ヲ…ッ!」
砲を撃とうとした瞬間、
その砲塔が、内側から爆砕した
砲身の筒部を撃ち続けて変形させて、自爆を招いたのだ
そして、その隙をつき
羽黒から受け取った砲を使った伊勢による砲撃が空母棲姫にとどめを刺し
その艤装が完全に崩壊する
「よし!」
「マダ…ダァァァッ!」
ヒビが走り、崩れた艤装を顧みず、俺に向かって拳を振り抜く空母棲姫
今度は直撃コース、回避できない
そんなことを直感的に考えつつ
頭の中で瑞鶴の力を引き出そうとして
そこには何なかった
「なっ…ごぁぁぁっ!」
腐っても姫級、死にかけであろうと深海棲艦、その出力は人間など遥かに凌駕して
鋼鉄版並の強度を持つ制服を貫通して、俺の体へと衝撃を届けて来た
「かぁ…ぁ…っ」
吹き飛ばされて、床に叩きつけられる
それを見届けることなく、空母棲姫はチリと化した艤装と共に消滅し
内側から出て来たのは…加賀
姉さんの入った加賀だ
流石にドロップ直後の艦として振る舞う必要があるので、動くことはできないだろう
ならば、俺が動かねばならない
そう考えて、体を動かそうとして
しただけだった
「体…が……」
動かない、命令に従わない
普段ならとうに立ち上がっているはずなのに
「な…」
「神巫大佐!大丈夫ですか?」
羽黒に抱き上げられて、ようやく立ち上がる事に成功する
「ごはぁ……は…ぁ…あぁ…
俺は…大丈夫………だ」
震える息を整えることを最優先として、すこしの間だけ羽黒の腕に寄りかかる
マナーやらなにやらで言えば失格も良いところだが、そんなことを言っている暇はないし、そんなことを言う状況でもない
「やっばり、無茶ですよ神巫大佐
一人で姫級の牽制だなんて」
「はぁ……はぁ……大丈夫、だ…
今までも何回か…ゴホッ!
やって来たことだから…」
羽黒に抱きしめられながら息を整える
「……ふぅ…よし、ありがとう」
息を整え切り、普段の調子に戻ったところで、いったん羽黒から離れようとして
また体がいうことを聞かなくなる
体の再構成ができない
当たり前のようにできていたはずの技術が、俺の無茶の根幹を支える技術が
失われていた
「…全く…」
体の再構成に頼ったせいか、俺自身の体力が落ちているらしい
急激にすぎる気もするが、肉体どころか魂の再構成なんて荒技をすれば肉体にも影響が出てくる…のだろうか?
「…さっき、空母棲姫に殴られていたんですよ?医務さんに見てもらいましょう
こういうところにもちゃんと居ますから」
俺はそのまま、羽黒に連れられて
いまだ深海棲艦湧き出るホールを離れた
「…すまない」
「分かっています、大丈夫
大佐が一人欠けたくらいで軍は落ちません!」
至極正論なのだが、その言い方は俺が戦力外なんじゃないか…?
「あ、いえ!そんな意味では!」
「いや、いいんだよ…ぶっちゃけ今の俺は間違いなく戦力外だから…
羽黒、すまない
もう一人で立てるから、大丈夫」
羽黒に謝ってから、その手を離し
ゆっくりと歩き始める
「それに…もう来たから」
その瞬間、戦闘エリアのフィールドが貫通され、消滅する
無数の砲弾と爆撃が、
その強力無比の盾を貫いたのだ
提督が出発し、パーティの開始時刻を過ぎた後…扶桑さんが帰ってきました
「扶桑さん、送迎お疲れ様です」
「いいえ、これくらいならいくらでも、ですよ」
私のような軽巡級でも、軽く話半分に流したりはせず、必ず足を止めて声を返してくれる…扶桑さんはとても優しい人ですね
[…だいたいの扶桑は、ですけどね]
[じゃあ大体から外れた扶桑さんはどうなの?鹿島?]
[…一部の扶桑は…とても怖いわ、なにがあったのかはわからないけれど
本来の人格は苛烈な人なのよ]
なにかげんなりしている鹿島を置いて
私は練習メンバーと一緒に、パーティのお開きを待つことにしました
別に私達がいてもいなくても同じだけれど、やはり、自分が関与した事なので
最後まで見守りたいと思ってのことです
そして、その最中
《!》
突如として、胸の奥に穴が開いた
…いえ、そうではなく
胸の奥にあったはずのなにかが
全く唐突に消え失せたような感覚
温かかったはずの心から、熱が急速に抜けていく、私そのものが空っぽになってしまうような虚脱感
「これは…!」
「提督に、なにが…」
「提督との縁が、切れた…!」
そう、心柱による提督との心の繋がり『縁』が失われてしまったのです
「すぐに、提督を探し出さなくては!」
「パーティ会場まで、お送りします」
「戦力になる艦娘は肉体的に鍛えている艦娘だけです、扶桑さんはあくまで輸送役を」
「承りました」
即座に立ち上がった私、大和さん、扶桑さん、比叡さん、そして駆け込んできた長門さん、赤城さん、天龍さん、吹雪ちゃん、明石さん、蒼龍さんのメンバーで移動を開始
扶桑さんの4トントラックに
赤城さんが同乗、
私、天龍さん、蒼龍さん、吹雪ちゃんが荷台で艤装を装備して待機、他のメンバーの艤装とドラム缶を積み
明石さんの乗用車に大和さん、比叡さん、長門さんが相乗りして急発車
「我、鹿島、通信届いてますか?」
〈こちら扶桑、問題ありません〉
〈こちら大和、通信受けました〉
各車のメンバーの一人ずつが通信機を使って相互に位置を確認しつつ
情報の共有を行います
「現在の指揮官の位置は、おそらくパーティ会場となった洋館、吹鳴館であるとおもわれます、提督の魂に異常が発生している可能性があるので、発見次第、精神干渉に耐えうるメンバーのみで提督の魂に突入します」
《了解》
〈扶桑より荷台へ通達、急ぎますので、ここからは荒く行きます!
揺れにご注意ください!〉
ガタン!と床が揺れる
艤装を装備しているからこそ耐えられるほどの揺れ、本当に荒く走っている
「了解」
〈こちら明石、追従します!
皆さん、ちょーっと耐えてくださいね
私の愛馬は凶暴ですよ!〉
私達は、法定速度ギリギリで移動を開始した
600話記念番外編は
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過去編深海勢
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裏山とかの話を
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テンプレ転生者(ヘイト)
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ストーリーを進めよう
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戦争が終わった後の話を!
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しぐ……しぐ……