「…長門、リ級の気を引いてくれ」
「了解」
普段と比べると些か以上に迫力のない砲撃だが、それでも重巡に傷を負わせる程度にはなる
片方の砲を破壊されたリ級は
激情のままに長門に残った砲を向けて
その瞬間に、全身を砕かれた
「流石に装甲が足りなかったな」
「ギァァァッ!」
そして、長門の一言と共に消滅する
「提督、弾の残数は少ないが
一気に全滅させるんだな?」
「あぁ、消耗を気にかけている暇はない
全力で叩き潰せ、良いな!」
《了解!》
艤装のない金剛まで応えているんだが
これはどうすれば良いんだろうか
「いや、考えている時間がない」
そもそも金剛は強い、艤装を使ってなくてもそこらの重巡くらいなら余裕で潰せる
なら十分に戦力として扱えるだろう
「よし、いくぞ!」
燃える館の中で、険しい道を進む
愚者共の声が響く
「ここであります!ここから陸に上がって、ここからは…徒歩移動であります!
幸いにして山奥ではないので
すぐに辿り着きます!」
あきつ丸の先導に従って
全力で走る
艤装を背負ったままでの走行には慣れているけれど、不慣れな子達は辛いでしょうね
「大丈夫?揺れるわよ?」
「はい、私は大丈夫です」
「そう、ならしっかり掴まっていて?」
艦としての機能を象徴する艤装だけれど
それだけに陸上では扱えない機能も多い
最たるものはやはり、移動可能
「ここからは走るわよ」
足元の靴型艤装のタービンを停止させ、十分な加速を得られなくなっても
自力で走るなら問題ない
少々はしたないけれど全力で走って
周囲を索敵しながら駆け抜ける
どこかや何かに艤装をぶつけようものなら大事故だけれど、そんな初歩的なミスをするような子達はいない
普段の水平移動と違って上下がある分、ちょっと揺れてしまうから
時津風ちゃんは辛そうだけれど
「到着であります!」
あきつ丸の声で足を止めて
その館を見る
周囲では、既に破れたフィールドの残滓が空電のような音を立てている
誰かが外部から干渉したのだろう
そして
「熱い…!」
「まずいでありますな、火が回っている…この館は一応耐火材で作られているはずですが、手抜きがあったようだ」
「…提督は中よ、突入するわ!」
「危険であります、ここはメンバーを絞るべきかと」
「考えている暇はない!」
静止するあきつ丸を振り切って
焼けつく空気を突っ切ろうとした私は
後ろに吹き飛ばされる
「きぁぁっ!」
「すみません、愛宕さん」
その声の主人の姿はは既に
いるはずの場所には無く
「しれぇーーっ!」
私の艤装の上にいたはずの時津風ちゃんは、かつてと同じ超高速で飛び込んで
炎の壁を突っ切っていた
「どこですか!しれーしれーっ!」
私と同じ改造艦娘の中でも特に
外部干渉力の向上のために、足の機能を強化した機体、それが時津風ちゃん
私や霞ちゃんのような、神経感覚や体内の強化による性能向上を目指したタイプとはまた異なる、外部から強化することを目的としたプロトタイプ
「だけれど…そのせいで彼女は」
もう、艤装の装備すらもままならない
そもそも脚部艤装の装備が阻害されてしまい、
物理的に装備できないうえに、仮に装備しても神経系が喪失しているせいでそれを扱えない
「しれーっ!」
大きく声を出しながら、焼ける壁を蹴って、燃える梁を蹴って、奥へ進んでいく時津風ちゃん
「愛宕さん、私たちも!」
「…いえ、彼女に任せるわ
足場から見ても、環境を見ても、軽量で高速の彼女が有利よ」
陽炎ちゃんにせっつかれて
冷静に現状を伝える
「不服かしら?あの中に飛び込んだら、死ぬ危険だってあるわよ?」
「でもそれは!みんな承知です!
それに愛宕さんは!」
そこで不自然に言葉に詰まる陽炎ちゃん
「そうね、私は神経鋭敏化の実験体、正直に言えば居るだけでも辛いわ
刺激を遮断できない私は、あらゆる刺激を常に100倍以上受け続ける
薬剤に頼らなければ眠ることもままならない
でもね、それがどうかした?
私は提督のためなら、なんだってできるわ
生きながらにして焼かれるとしても、万の針の山に突き落とされても
提督のためになら耐えられる
提督を愛しているから」
「あなたはそうじゃないの?…
いいえ、聞くだけ無駄ね
『妹と登らば険しくもあらず』よ
私は耐えて見せるわ」
「それが、何もせずにただ待つことだとしても、どんな無理難題を言い渡されても」
握る手に、汗が伝う
私だって、提督を探しに炎に踏み込みたい、でもより優先するべきタスクがある
「これが最善なの、霞ちゃん」
「音も、匂いも、色も、形も、すべて、感じるわ…私、あのクズ提督の位置わかった」
そう言って霞ちゃんが指差す方向は
やはり燃え盛る炎の中
「クズ、みんな巻き込んで何してるのよ
……バカ…」
指差した方角に感覚を集中すると
炎のせいで空気が揺らいで、わかり辛いけれど、僅かに生体反応を感知できた
「ありがとう、霞ちゃん」
通信機で提督の位置を知った時津風ちゃんが駆け抜けて
「しれーっ!」
「うぉっ…時津風か」
微かな声が聞こえた
「!」
「提督の生存、確認ね」
どうも火が出ているのは外周だけ
柱や壁に遮られたダンスホールは火の勢いは弱いみたいね
「……クソッ!…なんかできることは無いのかよ!」
「摩耶、落ち着いて…私たちは重巡、艤装を持ったまま崩壊寸前で基礎の怪しい館に入れば
より崩壊の危険が増すわ、ここは時津風に任せるべきよ」
「わかってるよ!でも!」
「何もしないことが最善なの、ごめんなさいね…なにかできる力があって
行動を起こすべき局面で
それでも『何もしないことが最善』なんて、本当に…嫌になるわ」
今にも暴れそうな摩耶を押しとどめて
笑う
「あら、向こうも終わったみたい
出てくるわよ」
霞ちゃんもそれを捉えたらしく
とても可愛い笑顔にる
そして
「でりぁぁあっ!」
強化ガラスの大窓を蹴り開けて
金剛さんをお姫様抱っこした礼服の提督と、その背に続く艦娘達が飛び出してきた
「ぷ…はぁ…よし、オーケー…
お前ら、なんで来たんだよ」
「提督の魂の接続が急に切れたせいで、いてもたってもいられなくなっちゃって
………きちゃった♡」
とっさに茶化した私に、青筋を立てた提督
怒られるかも、と身構えた瞬間
「……まぁ、いい
心配させてしまったからな」
ふわり、と風が吹き込んだ
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