灰色の空、くすんだ海
雲と影を切り裂いて
戦場を照らす、一筋の光
これは
「神通!」
「………」
神通の精神、普段入る魂とは異なる場所
固有の意思と思考に起因する個体の意識に突入し、そしてそこで俺が見たのは
「神通…」
艦内どころか甲板、上甲板、指揮所
全てに、無残な遺体が転がる光景だった
「…これは……」
神通や川内、那珂と言った
同名艦、同型艦も居る
そんな中に、一際存在感を放つのは
艤装の半分以上がえぐれたようになくなっている扶桑の遺体と、それを抱く男性の遺体
「…この扶桑は…」
見覚えがあるはずはない
だが、極めて似たシチュエーションを知っている
「姫の島…離島の時の被害者たちと似ている」
俺の記憶からではないのだろうが、同じ艦なのだ、似ていて当然だろう
「…ここに居るのは一体、何人なんだ…」
5500トン級の艦体、何万トンの戦艦に比べればさして広いわけではないが、やはり一人で探すとなると広い
…
「川内!川内いるか?!」
声をあげても、やはり川内の気配や感覚はない
「俺だけ、か」
一人での探索となると、時間はかかるだろうが、やはり川内型
勘所は心得ている
「よし!」
呼吸一つで気合を入れて
俺は亡骸を避けながら慎重に進んだ
五分程度、経っただろうか?
艦の心臓と言っても過言ではない機関室
そこに俺は来ていた
そして
「…」
もう死体と見分けがつかないほどに静かに、眠っている神通を見つけた
「神通、神通」
そっと揺するが、やはり目は覚めない
「神通、おい、起きろ」
ダメか、もう少し荒い手を使ってもいいんだが、やはりここにはたくさんの艦娘たちが眠っているのだ、できればそれは避けたい
「…神通!」
声を上げる、それでもやはり目覚めない
強く揺すって、これでもダメか
「…仕方ない」
俺は常に携帯している拳銃を取り
弾を込めて空砲を撃つ
その瞬間
「!!!」
ガッ!と腕を掴まれる
「提督…それはいけません」
「神通…」
ようやく目覚めた
その目は
「っ!?」
「……?どうか、しましたか?」
「神通、その目は…?」
「目、ですか?」
「あぁ、この目…赤くなっている」
そっと神通の頬に手を当てて、ゆっくりと顎を上げ、そっと視線を合わせる
「見えるかな、君の目が」
そして、そのまま少し見つめ合い
瞳に映る赤い虹彩を示す
どうにかそれで分かったらしい神通は、一つうなずいて、口を開いた
「これは、私の罪の証です
私は、無数の命を、助けられるはずだった命を、見殺しにしてきた…それが、こうして海の声に引かれる所以」
「深海棲艦達と同じ、赤い瞳が、か?」
「はい、その通りです」
「とりあえず、ここから出るよ
こんなところには長くいられない」
「…そう、ですか…なら、お一人でどうぞ」
あまりにも突然すぎるその言葉に
衝撃を受ける俺と
どこか寂しげな顔で一歩下がる神通
「お前も来るんだよ、神通」
「ダメですよ、私はもう帰れません
提督はお一人で来られたのですから、お一人でお帰りください」
「お前を連れ戻しに来たのだから、お前と二人で帰らなくては意味がないだろう?」
俺の言葉にも、表情を変えない神通は、そのままさらに一歩下がる
「おい神通…お前な」「触らないで!」
伸ばした手を払われる、その瞬間
「あっ…」
傷ついたような顔になったのは
神通の方だった
「提督…っ!……とにかく
もう、お引き取りください」
「いやだ、帰らない
俺はお前を連れ戻しに来たんだ、お前と一緒にでなければ帰る意味がない
それに川内に頼まれてもいる」
神通の手を強引に引き
再び目を合わせる
「お前が戻ってこなければ話も始まらない、だから俺は、お前を連れ戻しに来たんだ」
「………」
side change
蒼羅side out
神通side in
「お前が戻ってこなければ話も始まらない、だから俺は、お前を連れ戻しに来たんだ」
「………」
その一言は、かつて聞いたのと同じ言葉
かつて共に戦った人の残した言葉
「あなたは……」
扶桑さんの夫だったという提督が、沈んでしまった扶桑さんのために最後まであきらめずに海に向かい
そして、その最後の言葉とともに
深化した扶桑さんに殺された
〈貴女がいなければ話も始まらない、だから俺は、貴女を連れ戻すよ〉
その言葉は、その言葉だけは
なぜだか私の中に残っていた
いまなら、その意味がわかる
私は、そういう風に
愛されたかったんだって
「…てい……とく…っ!」
赤い瞳から、血色の涙が溢れる
今まではどんなに泣きたいときも、一滴たりとも出なかった涙が、今だけは溢れてくる
「……神通、お前はもう
十分に頑張ってきたんだ、だから
甘えていいんだよ」
そっと腕を回してくる提督に身を預けて、子供のように泣く、恥も何も知ったことではないかのように、だって
もう、この感情は止められないから
神通side out
蒼羅side in
泣く神通を抱きしめたまま、
そっと周囲を見渡す
(…やはり……)
神通の周囲にあった遺体達は
神通の記憶にある、死んだ戦友達のイメージ
戦って、戦って、戦い抜いた神通は
それだけに、多くの戦友を失っている
「……神通…」
「……はぃ…」
涙混じりの小さな返事、しかし
それはやはり、生存を知らせる唯一のサイン
「俺はお前を連れ戻しにきた
だから一緒に戻って来い、まだやり直せる
神通は、幸せになっていいんだ」
そっと背を撫でながら、優しく囁く
姉妹に似たようなことばかり言って
我ながら最低だな
人としてどうかと思う
だが、必要ならば躊躇はない
600話記念番外編は
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しぐ……しぐ……