戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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そっちじゃありませんよ!


夜の鷹

夜、定時で上がれる事の素晴らしさを祝福しながら部屋に戻り、着替えを回収して浴場へ赴く

 

欲情じゃないよ?

 

まぁ、単なる湯であって温泉の類ではないが、此方からすればそれでもありがたい

適温の湯は、疲労を溶かしてくれる

 

一日中修行の疲れはやはり

体の芯まで蓄積して、ダメージが残ってしまう

それに気づかずに働き続ければきっと、倒れるか過労死の道へ進む事になる

 

ゆっくりと入浴して、柔軟体操を行い、牛乳(酒保購入)を飲み、部屋に戻る

カルシウムは重要だ

 

「さっさとネルソン、違う寝るぞ」

 

部屋(なぜか執務室似)で布団を敷き

ルパン式でもないがダイブする

 

「提督?入るよ」

 

ぇ?

 

「提、、と、、く?」

 

あぁ、終わった、、見られた

布団ダイブ直後のゴロゴロシーンを

完全にプライドが轟沈しました

 

「あぁ、よくやるよね?それ

特に柔らかい布団で」

 

「あっ、あぁ」

 

もしかして、流してくれる?

 

「私もよくやられたよ」

 

隼鷹はふつうに畳側へと上がり込み、

急いで布団を出た俺の側に

背を向けて座る

 

「ゴメンね?一日中無視なんてして」

「いや、それは」

 

「恥ずかしかった、私の素の部分を見られちゃったから」

 

無理に声を明るくして、続けた

 

「ホントはさ、私は客船になりたかったんだ」

 

隼鷹の言葉を遮ろうとしたセリフは、逆に遮られる

 

「私は貨客船として作られた、それも太平洋縦断出来るような大型船として、その資金は皮肉な事に戦争転用を目的とした給付金、つまり、私は最初から軍事転用されるために作られた客船ってわけ」

 

隼鷹は声の調子を変えないままに、自分の中の声を語っていく

 

「客船に軍資金使うなんて、バカげた話に乗った馬鹿どもは私と飛鷹を作って、そして、、」

 

言葉を切った隼鷹は俺に寄りかかってきた

「私達は結局、一度も客船としての運行はできなかった、誰にも笑顔を贈れなかったの」

 

「広告用のビラまで作って、デビュー直前に開戦したせいで、私達はすぐに改装されて

結局、終戦後も戻れはしなかった」

 

そう、貨客船橿原丸は終戦後、機関損傷により復員作業が出来ず、客船にも戻さずに解体された、一人も乗客を運ばずに解体されたのだ

 

「私の、『隼鷹の』夢は、いつか

橿原丸に戻る事、こんな性格を演じなくても済むようになる事、だからさ提督」

 

「なんだ?」

 

「『隼鷹の』夢が叶うように、深海棲艦との戦争を終わらせて、お願い」

 

「わかった、、俺に出来るかは分からないけど、力を尽くすよ」

 

それを聞いて、隼鷹は安心したように声のトーンを下げた

 

「そう、ありがとう

この願いは、私のだけじゃない

艦娘みんなの願いだから、それが叶うなら、私、なんだってするから」

 

それは、先ほどまでの声とは全く違う、、いや、待て

隼鷹という艦娘は

こんな甘い声をしていたか?

 

「ねぇ、提督?今夜は時間ある?」

 

その声は濡れたようにしっとりと耳へ入ってくる綺麗な声なのに、惹き込まれるような色気を持っていた

 

 

「よし!頭冷やそうか」

 

俺はどうにか自らの煩悩を抑え込み

部屋から出る

 

五分程歩き、ついに辿り着いたのは

 

「テラス?」

 

そう、空の見えるテラスだ

「隼鷹」

 

「なぁに?」

 

「この星空の中で、どれが一番綺麗だと思う?」

俺の問いに、しばし考え込む隼鷹

 

「そうね、アレかしら?」

 

彼女が指したのは、織姫星と呼ばれる

琴座のα星ベガ

 

こんな時まで女子力の高い指定だ

 

「俺はお前が一番綺麗に見える」

 

くっせ、我ながらくっっせ!

 

「それは、お誘いかしら?」

 

「さぁな」

 

「クスッ、、誤魔化しが粗いのよ、それに雨が降ってたらどうするつもりだったの?」

 

「その時は自分から雨浴びて

水も滴るって奴やるだけだ」

 

「それじゃあ体を冷やすわ、旦那様が体調を崩したら看病が出来ると内心喜ぶのが女だけど原因が自分じゃ喜べないわ」

 

その声は、いつのまにか普段の明るい声へと戻っていた

 

「うん、良かった、いつもの隼鷹に戻ったな、じゃあそろそろ夜も遅いから部屋に帰っておけ」

 

「あっ、ちょっと!」

 

さっさと隼鷹を置いて部屋に帰る、顔の火照りがこれ以上誤魔化せないレベルだ

 

「ふぅ、、布団、、おやすみ」

部屋に入ったと同時に気が緩んだのか パタンと眠ってしまった

 

 

その五分程のち、

扉がノックされる、隼鷹だ

 

「提督?入、、って寝てる?」

 

提督を何度かゆすって、確実に寝ていることを確認する

「もう、仕方のない人」

蒼羅の側に座り、寝顔を眺める姿勢に入る

 

(寝ているなら、気づかないわよね)

 

徐々に顔が近づき、、

 

「好きよ、提督」

 

(貴方は私の素を受け入れてくれた、私の叶うはずのない夢のために力を尽くすなんて約束してくれた、ひたむきで、とてもやさしい人ね)

 

そして、隼鷹は額にくちづけを残して

彼のそばで、眠ることにした

 

「おやすみなさい、提督」

 

(貴方なら本当に夢を、叶えてくれる、かも、、しれ、な)

 

最後まで、思考が進むことなく

眠りの内へと落ちていった、、

 

翌朝、目覚めの直後に、自分の腕に隼鷹がくっついている事を認識させられた蒼羅は悲鳴に近い絶叫を上げる事になるが、それとは別のお話だ

 




そっちじゃないっていったのに

隼鷹とのダダ甘いハッピーエンドが思い浮かんだ人、先生笑わないから挙手しなさい

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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