というわけで、
次の世代になる提督については、俺が海軍学校で見出した人物をあてとしている
一応学校自体の方に俺の方針を伝えて
教官をやっていた香取大佐(先輩)に人選を頼んでいるし、下馬評として有望な人物には俺自身からも打診しているのだが
「どうも芳しく無いようだな…」
人選は難航しているようだ
というより、そもそも香取さんの持てる影響力が薄れつつあるようだ
艦娘人権派、艦娘兵器派
そして新興の道具派
建前としての三派閥の現状は、急速に力を増した道具派が入ってきて、
割合的には拮抗している
となっている、だが内情としてはそうではない
実態のところとして、やはり艦娘は女性である、そして…いささか扇情的だ
『そうあるべし』と作られたのなら
そう使うべきだ、そう宣う輩の台頭によって、艦娘道具派の勢いは強いままに急速に拡大している
そして、そもそも道具派と兵器派は近い
兵器派にも一部、『最高のパフォーマンスの維持のために艦娘のモチベーションを維持する』としてメンテナンスを称しながらも人道的に扱うような人物はいるが、大半はロクな事をしていない
逆に徹底的に冷たく当たることで
相手を機械的に認識し、上司⇔部下ではなく兵士⇔兵器の関係を維持することで
自己を保ってきた兵器派の人間が
生物としての艦娘の扱い方を知って、道具派に乗り換えることもある
兵器派と道具派は決定的なまでに対立しているわけではないのだ
必然的にその勢力同士は折衝ができる
だが、
「逆に人権主義とは真っ向からぶつかるわけだ…」
正面衝突する兵器派と、一部を認めながらもやはりぶつかる事を避けられない道具派
その二派が互いに手を結んでしまったら
三つ巴の構造は崩れ
二正面作戦を余儀なくされる
だが、兵力の分散は愚策、そもそも二正面作戦に持ち込まれた時点で既に敗戦色濃厚である
「…どうする……」
教育の部門に手を回しても
艦娘の教官である間宮大佐や香取大佐は排斥されてしまう可能性もある、
食堂などの限定的なテリトリーでも
そんな主義主張が通るようになってしまえば終わりに近い
そうなったら新規に防衛大学に入学する者たちも皆、押し並べて道具派や兵器派に染まってしまう
「その前に」
早く新人を確保せねばならない
実質的に防衛大学が最初のポイント
それを確保できてこそ、未来を掴めるのだ
「今度、俺自身が訪問する事にしよう」
俺は珍しくがい外線の電話を取った
「もしもし、香取さん
お久しぶりです、すみません
連絡が遅くなってしまいました」
〈良いのよ、神巫君
でも、ごめんなさいね…最近、私にできる事は減ってきているの
だから、そのかわりに
もっと良い人を紹介してあげる〉
「さぁ、いらっしゃい」
「失礼します」
翌朝、俺は姉さん(加賀)を連れて
とある庵に来ていた
「今、お茶をお出しします」
「いえ、お構いなく」
「うふふ…こんなやりとり、いつぶりかしら?」
「さて、忘れてしまいましたよ」
相手に答えた俺は、最後に沈黙する
そして、十数秒ほど沈黙が過ぎたその後
「ここの流儀は、分かったようだね」
「はい、遅れましたが」
にこやかに微笑むその女性は
かつて海上自衛隊と呼ばれた組織の最上位の地位にいた人物
俺も会うのは2回目だ
1回目は、軍学校…つまり防衛大の戦史の受講中の特別講師
そんな大仰な席に着く人物に相応しく
今目の前にいるのは
第一次深海大戦、そして大侵攻を防ぎ切った伝説の『提督』その秘書官だった
元、横須賀の艦娘
「吹雪さん」
「その名前はもうやめたわよ」
「では、氷雨先生」
「なぁに?…ここに来たという事は
お願いごとかしら?」
20くらいにしか見えない姿からは想像もつかないほどの圧力が噴き出す
加賀の中でも高練度なはずの姉さんが驚くほどの濃密な気配
驚くべき事に、これが軽い挨拶なのだというのだから始末に負えない
「はい、その通りです
実は、自分は近く引退するつもりです、そのために、自分の後継となる提督を探したいと思っております」
「未だ上層部に顔が効く私を頼って
何か新しく事業でも始めるのかと思えば、引退話かい?」
「その通りです」
「……理由は?」
「自分の、魂にあります
既に自分は、提督としての力を失ってしまいました、故に提督として成り立たない自分は鎮守府を辞し、新たな提督にこの座を譲る事を考えております」
少し成長し、赤城にも似た姿の吹雪
そんな形容など、外観にすぎない
そう、知っていたはずの姉さんでさえ気圧される
当然俺もだ
いくら凄まれるのに慣れていても
ここまでの圧力に慣れていたらそいつは死んでいるだろう
「…………」
「……………」
「……………」
長い沈黙、この吹雪
氷雨先生は、何より静寂を好む
だから、この人が黙っているうちは
こちらも黙らなければならない
「………」
「………」
だが、それはとても難しい事だ
どこまでも重苦しい気配に押しつぶされながら、その現状を維持するのは
とても難しい
「残念だけど、力は貸せないわね、貴方ほどの提督なら、たとえ縁を切っても心は残る事を知っているでしょう?」
「しかし、自分には既に使える『力』はありません、この状態でのうのうと形ばかりの提督業をしていると言うのは、鎮守府にとって毒でしかありません」
「その毒を、呑み込んでみせるのが『提督』なのよ」
「だからといって!俺は俺の娘達を傷つけるような選択はできない!」
「甘えるな!」
思わず声を荒げた俺に
氷雨先生はピシャリとそう言い放つ
「貴方のそれは、甘えに過ぎないわ
本当に引退するつもりなら私になど頼る必要はない、それこそ大本営にいって辞表でも出せば良いの、私を頼って後継を探す?嘘をおっしゃい」
「……」
「貴方はここに、魂を修復するために来た、縁が切れてなお残った
貴方が掴んだ艦娘たちの心を
本来の座に戻すために」
その言葉は、不思議と響く事はなく
どこか遠くへと、すり抜けて行く
「貴方が『提督』へ戻るために
艦娘たちの想いを、溢してしまわないように
貴方は優しいわ、とてもね
でもだからこそ、艦娘たちの想いを見失ってしまう」
海の潮騒のように
緩やかな声が聞こえる
「貴方がどうなろうと、貴方が貴方である事実は変わらないの
たとえ提督としての力を失おうと
艦娘達の人望は貴方にこそある
絆は途切れはしないわ
だからね、神巫さん」
「もう、これ以上迷わないで」
とどめの一言は、とびきりに優しく
そして、どこまでも残酷だった
言ってることブレッブレだったのはこれが原因
つまるところ提督は
『職業:提督』を辞める事で新しく心柱の中核となる『職業:提督』を迎え、その力で艦娘を守ろうとしていたけど、実際は『人物:提督』として慕われているので
その人望に応えざるを得ないわけです
感情を優先するなら縁を失っても在職を続けるべきであり、戦力を優先するなら新たな『職業:提督』を迎えるべきです
氷雨先生にはそれを諭されました
600話記念番外編は
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しぐ……しぐ……