戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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諦観

 〈こちら加賀、たった今

彩雲から入った情報を共有します…提督、『目』は開いていて?〉

「目?…普段通りだが

それが何か関係するのか?」

 

問いただすように声を上げる俺に

通信機越しの姉さんの声が届く

 

〈こちらの方が早いと言うだけよ〉

 

その瞬間、左目が青く染まり

視界が真っ赤に変わる

 

そして

 

「………!?」

 

視界に映る、全く違う光景を見た

 

 

「翔鶴…?」

 

その目に映ったのは

戦闘中の第一艦隊、翔鶴の姿

 

 

敵空母の反撃が直撃し

装甲と甲板をボロボロにされた姿だった

 

〈私の飛ばした彩雲からの情報を私の視界と共有しているの、これは縁によらない物理的な繋がりがある血族であり、なおかつ私と提督の目を交換しているから可能なことよ〉

 

なぜか詳細な状況説明までされながら

視界の中の情勢を見守る

 

〈…あくまで視界を共有しているだけだから、何も手出しはできないわ

戦闘機や爆撃機と同行しているのなら

それを使う事もできるのだけれど〉

 

「そう…うん、流石に辛いな…」

 

今までは現場に立つ事もできた

侵食率や寿命、魂の摩耗限界といった悲観的な未来を無視して

目の前の事で頭をいっぱいにして

逆にそんな思考を追い出す事もできた

 

だが、これからは違う

 

魂自体が弱体化しているが故に

俺が前線に出ることはできない

 

一般的な提督と同じように…つまりは、これが一般的な『提督』の気分なわけだ

 

「最悪だよ…」

 

ただただ艦娘たちが傷つく姿を見せられるだけ、そこになんら手出しできない

その無力感、絶望感は

提督という職業の辛さだろう

 

うん、提督業の最低限の仕事は

大淀さえあれば可能だ

だがそれはあくまで書類の処理に過ぎない

 

感情面での話となると

その様相は変わってくる

 

以前ならばまだ海に飛び出したり

狙撃したりもできただろうが

瑞鶴や川内の支援による概念艤装の展開も、体の換装もつかえない、その上

儀装を使う事もできず、頼みの綱であった深海用儀装のパーシックルまで使えなくなった現在、感情的な意味でのダメージは甚大だ

 

「……」

 

俺は無線の接続先を第一艦隊の翔鶴に変え

 

「翔鶴、ダメージが大きいのなら撤退してくれ、そのままでは的になるだけだ」

 

『中破した空母』として戦力を喪失している翔鶴を下げようとする

しかし

 

〈まだです!私はまだ…戦えます!〉

 

「無茶を言うな!中破した空母が昼戦でできることなんて…!」

〈そう、まだできることはあります

…大丈夫ですよ、私

『被害担当艦』だなんて言われてますから〉

 

煤と砲煙に汚れ、無残に破れた服の翔鶴が、薄く微笑む姿が見える

 

「まさか…お前っ!」

〈味方の壁くらい、務めて見せます〉

 

一方的に通信が途切れる

おそらく翔鶴が無線の電源を切ったのだろう

 

…提督としての役割を放棄すると、艦娘が言うことを聞かなくなる

俺自身が絶対的に警戒していたはずの事象を目の前で起こされたわけだ

 

大井も翔鶴も、この分だと他の艦娘たちも既に言う事を聞かないだろう

 

「…クソ!」

 

結局、提督としての命令権を持たない俺なんぞ、従う価値もない男なのだろう

提督という肩書のない俺なんて

所詮その程度の存在

 

わかりやすくて逆にいいじゃないか

つまり彼女たちは俺に好意を寄せていたり、その指示に従っていたんじゃなく、あくまで『提督』という依存対象に近づこうとしていただけ

 

…あぁ全く

吐き気がする

 

そんな浅ましい考えを思いつく俺に殺意が湧く

だが、そんなことを考えるのは後だ

 

「雷、吹雪、白露、出られるか?」

〈了解よ、いつでも大丈夫!〉

〈はい、吹雪、出撃準備完了です!〉

〈白露、艤装装備完了だよ、早く早く〜〉

 

3人を追加出撃させて

翔鶴たちの援護に回す、急激に出力が落ちて窮地に陥っているだろう戦闘中の艦娘たちの援護を要求した格好になる

 

人選については…

この3人なら、戦況をよく見つつ、指示をよく聞いてくれそうだと判断しただけだったりする

 

〈ねえ、提督?このメンバーって

全員駆逐艦だけど、救援になるの?〉

「…二次災害の可能性は出来る限り排除している、そのためのダメコンと司令部だ」

 

大破艦娘が駆逐艦1隻と一緒に撤退できる装備である司令部を使って

大破した艦娘を引っ張ってでも帰ってくる

それがこの救援員の仕事である

 

〈ならよし!出撃するよ!〉

 

真っ先に白露が先陣を切って海上へと飛び出していき、それを追うように残りの二人が続く

 

「…頼んだよ」

 

通信を切り、今度は全域開放通信につなぎ変える

 

「戦闘中の艦娘全員に告ぐ

現在、撤退支援のため、艦隊司令部を装備した駆逐艦を送っている

中、大破艦娘は即時撤退せよ」

 

繰り返して念を押し、最後にそっと息をつく

 

「…はぁ………」

 

練度が初期値にリセットされている艦娘たちの戦力は装備でごまかしても

限界になりかけている

 

『数の暴力』はシンプルゆえにリカバリーが効かない策でもあるのだ

これ以上の戦闘継続は危険だ

 

一旦撤退し、前線のメンバーに時間を稼がせた上で救援を呼ぶ

これが最善の選択であろう

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……

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