戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

491 / 649
白羽の矢

「いくよ、神風…!」

 

神風の方のエネルギーは風属性

下方向に蓄積したエネルギーを解放して

そのエネルギーを体を浮かす事に使う

 

跳躍して、海面の凍結が起こる前に着水、反発で再跳躍、さらに跳躍

 

前方には風の力を応用した円錐状の風防を展開、限界まで抵抗を削って、もう飛行と変わらないような高速で湾内を横断し、

未確認型深海棲艦である軽巡半鬼と戦闘中の第一艦隊の方に向かった

 

「間に合え…っ!」

 

戦闘中のような気配はまだ続いている

戦っているのはわかる

姉さんからの視界共有で何処にいるのかを探り、正確な場所を割り出して

跳躍方向を調整し、再度加速する

 

「…!」

 

いた、距離約800メートル

あと30歩分の跳躍で追いつく距離だ

 

タイミングを確認しながら飛び込みの用意をして、頭の中で段取りを整える

 

「私は…まだ…!」

 

赤城さんを敵の砲撃から庇って

翔鶴の既に壊れかけていた飛行甲板が完全に破壊される

 

その白い腕には幾筋もの赤い線が入り、血が滲んでいる

脚甲にもヒビや穴が目立ち

特徴的なアイテムである赤の鉢巻も解けてしまったのか、無くなっている

 

そんな痛々しい姿だ、間違いない

艤装の破壊率が高すぎて

犠牲装甲が十分に機能していないのだ

このままダメージを受け続ければ、もう二度と修理できない手遅れの状態に

艤装完全破壊状態になってしまう

 

「いかん…っ!」

 

 

「…死ネ…ッ!」

 

翔鶴に機銃が向けられ

無慈悲に銃弾が放たれる

 

翔鶴は背後の赤城を守る姿勢を崩さず

身を以って盾となり

その銃弾を受け入れる

 

しかし

 

「ガラス…?」

 

「氷だ」

 

突如として分厚い透明な壁が出現し

弾丸はその表面を砕いて止まる

 

「おい、俺は撤退しろと言ったはずだぞ」

 

パキン、と盾代わりに突き立てた最大サイズの氷から腕を離して

翔鶴に語りかける

 

「しかし!」

「しかしもクソもない!

いいか、お前が何をしようが勝手だがな、お前が沈んだら誰が俺の代わりになるんだ?

万丈はいねぇぞ!

俺の後継として育てて来て!お前が艤装技師として身につけて来た技術はこの創海鎮守府の財産なんだよ!

俺が退任しようが死のうがお前がいれば艤装の整備に不備は出ないようにしていたんだ!

それを勝手に沈もうとなんかしやがって!もうゆるさねぇぞ!」

 

激昂した様な声で

身を竦める翔鶴を叱り付けて

 

「…私は…っ」

「うるせぇ!お前は俺のモンなんだよ反抗なんざ許さねぇってんだよ!」

 

まだ何か言おうとしている翔鶴を封じる様に叫び

 

「…氷燐拳!」

 

最後のエネルギーを固めて

拳に集め、全力で解放する

 

軽巡半鬼と艦隊の間に障壁をブチ立て

さらに前方の広範囲に冷気をばら撒く

 

同時に全身のオーラを全部使い果たした事で概念艤装も消失し、

海に落ちる

 

寸前で足が止まった

 

「提督っ!」

「…………」

 

姉さんの甲板のおかげか

僅かに抵抗が発生し、水を押し除けながら倒れ込む

 

「提督、大丈夫ですか?」

「赤城…さん」

 

「はい、提督…私はもう、貴方から見れば自分の艦娘ではないのかもしれません

ですが、私はあくまで創海鎮守府の艦娘です、第一航空戦隊として、加賀さんと共に戦うことは既に誓った身です

 

ですから、私は貴方の元を離れるつもりはございません…提督は、どうですか?」

 

帰還してくる艦載機たちを甲板に走らせ

矢に戻して回収した赤城さんは

俺に手を差し出してくる

 

「翔鶴さん、貴女は撤退してください

…先ほどから、ずっと吹雪さんが所在もなく棒立ちになってしまっていますから

あまり待たせては、行けませんよ?」

 

「…!…赤城さん!」

「翔鶴さん、二度は言いません

為すべき事を、為すべき時に」

 

ピシャリと、論を打ち切った赤城さんはそっと手を閉じ、俺の手を掴んで

一気に引き上げる

 

「…ん…、提督、立てますか?」

「…無理そう、いや立てる、立とも

クソ…こりゃアイヴィよりキッツイな…」

 

水面に対する抵抗力は水上移動用の靴艤装とは比べ物にならないほど弱く

僅かにでも動けばすぐに沈んでしまいそうだ

 

単に艤装の装備点数が少ないからなのか、それ専用の艤装ではない部分に機能を代替させているから十分に効果を発揮できていないのか

それはわからないが

とにかく薄氷を履むような状態だ

 

さっきまでは厚み数メートルの氷を踏んでいたことから考えるとジョークだが

それどころでは済まされない

 

…水面に四肢を突き立てて、強引に体を支えることすらできず、姿勢を崩しかける

そんな時

 

「提督、これを…お使いください」

 

翔鶴はそっと俺に近づき、俺の手に

何かを握らせてくる

 

「これは…翔鶴!」

 

「私にはもう使えませんが、いまの提督ならば使えるかもしれません」

 

痛々しい様相の彼女は

それでもクスリとばかりに微笑んで

 

「…せっかく私を下げるのですから

活躍の一つや二つ、お願いしますよ」

 

そう、言葉を残して撤退していった

 

「あぁ、わかってるよ」

 

握り締めたそれは五航戦共通装備の和弓

空母系艦娘が持つ射出用具のうちの、日本系正規空母艦娘のスタンダードスタイル

 

「これなら、扱った経験もある」

 

飛行甲板を空へ翳し、

翔鶴航空隊の機体を呼び戻す

 

翔鶴の中破直後から発着艦不可能になってそらに置き去りにされてしまった機体たちは

史実とは逆に一航戦へと身を寄せる事になった

 

「翔鶴航空隊、回収完了」

 

矢へと姿を変えた航空機を確認した直後、氷の壁が砕け散った

 

「…行くぞ、五航戦…羽が折れた程度で飛べなくなるような軟弱者は居ないよなぁ!」

 

(まだ飛べます!)(補充は済みました、行けます!)

(加賀さんの甲板から飛ぶのか…)(構う事じゃねえ!飛ぶぞ!)(応!あんだけ言われて、我慢なんて出来るかよ!)

 

妖精たちの声が溢れる

白羽の矢を握り込み

 

受け取った弓に番える

 

「赤城さん、合わせてくれますか?」

「もちろんです、提督…行きますよ」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。