戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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よせ!再変身は危険だ!

波間に漂っていた赤い鉢巻

些か短くなってはいたが

見紛いようもない翔鶴のそれを手に巻いて

 

「翔鶴航空隊、再編成完了

各機体、補給、修理はどうだ」

 

たったそれだけでもマシになった足場に姿勢を正し

 

かつて共に在った彼女(瑞鶴)のように

先程までここに立っていた彼女(翔鶴)のように

 

そして、俺に艤装を預けてくれた

姉さん(加賀)のように

 

真っ直ぐに立って、弓を引く

 

(我々はいつでも行けます!)

(準備は…万端とは言えないですが、それでも十分です!)

 

多分俺には、十分に艦載機を扱えない

俺が使えるのはせいぜい九九艦爆や九七艦攻、よく見積もって零戦が限界

 

かつての状態でさえそれなのに、その時の万全とは程遠いほどに弱り果てた今

それも握っているのは彗星なのだ

満足に飛ばせるはずもない

 

だが、それでも構わない

翔鶴の鍛え上げてきた航空隊は

俺の支援などなくても十分に飛べる

それだけの翼を持っている

 

「…行け、翔鶴航空隊、離陸開始」

 

番えた矢を、敵へと向けて

一直線に、撃ち放つ

 

「「第三次攻撃隊、発艦、始め!」」

 

飛翔した矢は、そのまま軽巡半鬼の装甲に命中し、それを射抜いて飛び去り

反転し、爆撃

凄まじい勢いでの爆撃は乾坤一擲の覚悟を感じさせる

 

「…提督、操作は出来ますか?」

「できない、だが大丈夫だ…翔鶴の努力の賜物だな…」

 

展開した装甲を次々に使い捨てて

赤城・翔鶴攻撃隊の最後の攻撃をやり過ごしている軽巡半鬼

 

「弾切レカ…!勝ッタナ!」

 

ついに爆撃機の爆弾も切れてしまい、

止むを得ず帰還してくる攻撃隊

 

その着艦の隙は見逃さなかったのか

軽巡半鬼が主砲を向けてくる

 

それは軽巡の主砲と呼ぶにはあまりにもグロテスクで、あまりにも巨大で、そして重厚だった

 

「沈メ…死ネ!」

 

「提督、避けますよ!」

「もちろんだぁ!」

 

その砲架が唸りを上げ

旋回し、狙いを定める

 

赤城さんの声が至近で聞こえ

同時に回避運動に集中した俺に

遠くから誰かの声が聞こえた

 

「…今」

 

その瞬間

砲撃音が爆ぜ、一瞬聴覚が麻痺するほどの音と衝撃と共に、彼方から飛来した

46センチ三連装砲と試製46センチ単装砲の同時攻撃が着弾する

 

「大和!扶桑!」

〈はい、提督、扶桑です

あまり無理をなさらないでくださいね?〉

 

〈大和です、軽巡級未確認型深海棲艦を撃破に成功しました〉

 

大和と扶桑から、それぞれの通信が入る

その直後

 

「ヤッテクレタナ…マサカ油断ヲ誘ウタメノ作戦ダッタトハ…見事ニ誘イ出サレタヨ

…ダガソレモココマデダ」

 

軽巡半鬼が死んだことを察知したのか

戦艦級が蒼龍達三人を振り切って襲ってきたのだ

 

旗艦、戦艦ル級フラグシップ

足止めを頼んでいた蒼龍達はすでに大破してしまったのか、それとも

 

「…いや、悪い妄想はやめだ

今は…こいつを!」

 

ル級フラグシップに突撃せんと体勢を整える俺に、槍が投げられる

 

「っ?!」

 

掴み取ったそれは

間違いなく

 

「龍田の…!」

 

「足止メモ悪クハ無カッタ、凄マジイ技量ト強イ意志ヲ兼ネ備エタ強力ナ兵ダッタ

……ダガ、練度ガ足リナカッタナ」

「ふざけるなっ!」

 

カードを入れ替え、ベルトを再起動する

 

今度はシャイニングソウル(shining Soul)を展開し、装備した概念艤装を使って格闘戦を仕掛けるが

「接近戦ハ愚行ダゾ!愚カモノメ!」

 

ル級の耐久値は圧倒的に高い

…接近向けのソウルとは言え

格闘は無謀か

 

「なら…っ!」

 

探照灯の熱量を直接ぶつける焼き付けは装甲の一部を焦がし、しかしそれだけ

拳の一撃は焼けた装甲すらも突破できず、逆に蹴りを受ける

 

概念艤装には明確な形はないが

それだけに装甲能力に劣る

 

物理的な意味での艤装と、艦娘の持っている己の概念、その統合された存在である艤装の、片方だけを抽出して使っているのだ

片手落ちになるのは当然のこと

 

物理体だけの艤装ではただの鉄の塊であり、概念のみの艤装は実体が存在しないため、能力を万全に発揮できない

 

「…だから…って…これは…つ!」

 

翔鶴の鉢巻が破れて

風に乗せられ、そのまま俺の手を離れる

 

弓と甲板は死守したが

物理体である依代の量が減れば

当然ながら艤装の能力は低下する

 

「ただでさえ充足率が足りないってのに!」

 

ル級の拳の一撃を腹に受けて

吹き飛ばされ、そのまま装備の強制解除まで持ち込まれる

 

「ぐぇ…」

 

〈提督っ!〉

 

潰れたカエルのような声が出るが

そんな事にはかまわない

 

「龍田を…どこへやった…」

「アァ?聞コエナイナァ…」

 

満足に呼吸ができない状態の中

戦況はようやく落ち着いたのか、通るようになった声を放つが、ル級はさらっと聞こえないフリをする

 

「…龍田をどこへやった!」

「アァ…オ前ガ死ンダラコタエテヤルヨ!」

 

概念艤装の展開が強制解除された状態で、今の俺は甲板の抵抗力だけで水上にいる

犠牲装甲など到底発揮できないどころか、そもそも防御能力自体が欠如した装備なのだ

 

「提督っ!」

 

叫び声が聞こえた

その瞬間

 

赤城さんが俺の前へ飛び出して

ル級を殴り、そのまま押し除けた

 

「提督、撤退してください

このままでは提督まで翔鶴さんの二の舞です」

「…まだまだ…って、これ、さっき翔鶴が言ってたのと同じだな…」

 

無理をする奴は周りが見えていない

とはよく言うが

俺も同じ状態か

 

「龍田、天龍…力を貸せ」

概念艤装装備時に、ホルスターとして付けられるカードホルダー

その中に確認していたカードが

海面を漂っていた

 

その二枚のカードを乱雑に手に取る

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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