戦いたくなんてなかったんや   作:魚介(改)貧弱卿

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危険な香り

「Hello」

「おう…サラトガか」

 

後ろから声をかけられ、その声だけで判断がつかずに一瞬迷ったが

振り返るとどうやら正解を出せたようで

こちらに微笑むサラトガがいた

 

Merry Christmas(メリークリスマス)、提督!」

「おう、まだ夜中……というか、午前0時なんだが……まぁ一応当日か

あぁ、遅くなってすまないな」

「いいえ、提督はみんなに一つ一つpresent(プレゼント)を渡しているって聞きましたから、遅くなるのは当然だと思います」

 

「……そこまで情報が回っているとはね……みんなに一応プレゼントは渡しているが

あくまでも俺個人から出会って、サンタさんからではないよ?そこ忘れないように

あと……」

 

そっとサラトガに身を寄せて

その耳元で囁く

「小さい子たちに、サンタさんの秘密は黙っていてくれよ」

 

身を離して音量を戻し

「これにゃあ口止め料も入ってるんだ」

 

無粋ながらに封筒を渡す

 

「……うふふっ、なるほど

提督、わかりました」

 

その場でくるん、と身を翻すサラトガ

そのスカートの裾の躍動から目を逸らしつつ、俺も本来の進路に戻る

 

「あ、提督!」

「ん?」

 

「『サンタさんからのプレゼント』

期待していますね!」

 

「…………俺に言うな」

 

俺が渡したりする筈がないだろう

少なくとも『サンタさんから』のプレゼントなのだから、わざわざ俺が希望をそれとなく尋ねたりnozamaの通販を漁ったりネットショップに入り浸ったりする筈がない

 

そう、俺が買っているわけではないのだから……!

 

「サラトガ……あれ?」

 

訂正のために振り返った俺が見たのは

誰もいない廊下だった

 

「……部屋に戻ったのかね……?」

 

サラトガの部屋は空母寮一階、奥の部屋だった筈なので、二階の廊下の突き当たり前の曲がり角であるここから戻るには、さっき俺が歩いて来た直線の廊下から階段に出る他にないのだが……

 

「まぁ、いいか」

 

とりあえず思考を放棄して

俺は五航戦の部屋に向かった

 

「提督……いらっしゃいませ!」

「店じゃないだろ、まぁいい

はいこれ、味気のない袋ですまんな」

 

出迎えてくれた翔鶴(サンタコス)を迎撃し、特に言葉も重ねず、最低限のコミュニケーションで手にした慰労金の封筒を渡す

 

「提督?もう少し、何かないんですか?」

「……サンタコス、似合っているよ」

 

「もう一声!」

 

「銀の髪が赤のコスチュームに映えてとても綺麗だと思う」

「あと少し!」

 

「後ろでゴソゴソ鳴っている袋はなんだ?」

「あぁこれは関係ありませんのでご心配なく!」

 

翔鶴は部屋の奥でなにやらゴソゴソと蠢いている袋のことをあくまで『空の』プレゼント袋として処理して欲しいらしい

 

「……翔鶴のことは信用しているし、俺個人としてもその意向には従いたい所だが……」

 

非常に気になる

もし一般人が入り込んでいるならそれは軍規を破っていることになるし

深海棲艦が入っているなら軍規以前の問題であるし、仮に艦娘だとしても

あんな袋に入っていたら息苦しいだろう……

 

「流石にこれを無視する訳……には……」

 

その瞬間、何かに口を塞がれる

それが翔鶴の纏ったサンタコスの布地であることを理解したのは、視界に広がる翔鶴の首筋と、さらさらと顔に触れる翔鶴の髪の感触を知ってからであった

 

「提督はなにも見なかった

提督はなにも見なかった

提督はなにも見なかった

 

いいですね?提督」

 

そっと、子供をあやすように頭を撫でられる、それに反発しようとするが

優しい手付きに反して鋼のような力で押さえ込まれる

 

「い、い、で、す、ね?」

 

「ー!ー!」

 

「提督、そんなに暴れないでくださいな、せっかくのクリスマスなんですから

お互いに楽しく、過ごしましょう?」

 

手を離されて、ぱっと離れる

荒れる息を整えながら翔鶴に視線を戻し

 

「……いいだろう、今日は問わないで置いてやる……だが、それは二度とやるなよ?」

 

主に俺の心臓に悪いから

 

「ふふっ……どうしましょう?」

「やめてくれ」

 

身を翻して

蠢く袋から目を逸らし

俺はそっと退出した

 

「……とんでもない目にあった

いや、まぁ良いんだが……あれは結局何が入った袋だったのか……」

 

最後に一言呟いて、

思考を完全に切り替える

 

まず行うべきは、慰労金の配布だ

「あとは……蒼龍・飛龍か?」

 

姉さんと赤城さんには最初に渡したから、空母ではその二人だな

 

「……よし!」

 

一度気合を入れて、俺は一階の二航戦の部屋に向かった

 

「あ、提督、お疲れ様です!」

「てーいとくー?あー……お疲れ様ー……」

 

扉をノックすると出てきた蒼龍は元気に応対してくれたが、奥にいる飛龍はもう呑んでいたらしく、どうも口調が安定していない

 

「流石にそのへんでやめとけよ?

まぁ俺の関わる話じゃないけどさ」

 

そっと取り出した二つの封筒を、蒼龍に手渡す

 

「遅くなってすまないな、これ

俺からの慰労金……一応個人的なものだから気をつけて使えよ?」

 

「はい、分かってますよ」

「大丈夫……大丈夫……」

 

約一名、明らかに大丈夫ではない

「飛龍ー?」

「大丈夫だって!ねぇ提督!」

 

「お、おう……」

 

急に同意を求められても困るが

とりあえずこういう時は頷くに限る

 

「ほらーっ提督もこう言ってるよ?」

「もう……大丈夫じゃないじゃん」

 

どうやら泥酔状態の飛龍に蒼龍が絡まれていたらしい

 

「提督はちょっと離れたくらいじゃ別の女に靡いたりしないって言ってんのに

蒼龍ったらしんぱいしょーなんだから〜」

「ふぁっ!?」

 

「あー……」

 

蒼龍はとても気まずそうな表情になる

 

「……なるほど……」

 

それで俺に同意を求めたのか

 

「提督!ほらキリキリ動く!

ほかのまだ行ってない人にはやくポチ袋渡してあげてーっ!」

 

顔を赤くした蒼龍に部屋から追い出され

そのまま背を押される

 

「といっても、もう空母は全員配ったんだが?」

「ならほら…!駆逐艦とか!」

「そりゃたしかに全員といえばまだだが……」

 

駆逐艦は数が多いので、一部渡していない子もいる、虱潰しに部屋を廻ればいるのだろうが、そういう子には姉妹艦から渡してもらうつもりだったのだが

 

「ほら渡してない子に渡してきてー!」

「押すなってのぉっ!」

600話記念番外編は

  • 過去編軍学校
  • 過去編深海勢
  • 裏山とかの話を
  • テンプレ転生者(ヘイト)
  • ストーリーを進めよう
  • 戦争が終わった後の話を!
  • しぐ……しぐ……
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